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【軍人マディラ後日談】褐色の灯 ― 辺境に咲く愛の花(後編)完結ハッピーエンド

挿絵(By みてみん)

マディラ編ラストです。

それから、マディラ様は私を”妻”だといろいろな人に報告して回った。

皆暖かく祝福してくれて、街の空気がふっと明るくなる。

それでも、情勢が待ってくれるとは限らなかった。


その夜、国境付近で小競り合いが起きたという報せが入った。

医療所は慌ただしくなり、私は包帯や薬を抱えて走り回った。


「……大将が負傷した!」


誰かの声が響いた瞬間、胸が凍りついた。背筋に冷たい汗が伝う。

担架が運び込まれ、私は思わず駆け寄った。

血に濡れた軍服。

額に汗を浮かべ、意識が朦朧としたマディラ様。


「マディラ様……!」


呼びかけると、ゆっくりと瞼が震えた。

焦点の合わない青い瞳が、私を探すように揺れる。


「……パル……」


その声は、いつもの強さとは違い、かすれて弱かった。

胸が締めつけられる。


「動かないでください……すぐ処置しますから……!」


震える手で傷口を押さえると、マディラ様は微かに笑った。


「……君を……愛し……」


そこまで言って、力が抜けるように目を閉じた。


「マディラ様!」


呼びかけても返事はない。

でも、まだ手は、身体は暖かい。

この熱が失われないように必死に祈りながら、私はその手を握り続けていた。



丸二日、マディラ様は意識を失ったままだった。

青い瞳が開いた時、私は世界中のあらゆるものに感謝した。

それからも私は、必死で看病を続けた。


日々の鍛錬がものをいうのか、マディラ様の回復は目覚ましかった。

包帯を替えるたび、傷の縁が少しずつ閉じていくのが分かり、心が緩む。


「部下の方を庇われたそうですね」


「……咄嗟に動いてしまったんだ……」


戦術としては誤りらしいけれど、マディラ様らしいと思う。


偵察隊の報告では、今回の衝突でマディラ様や数名の兵士は重傷を負ったものの、野盗の主力は壊滅し、街道の治安は急速な改善が見られているそう。


なのに、マディラ様はすぐ軍務に戻ろうとする。少し体を起こしただけで、包帯の下から血が滲む。

無理をしているのが一目で分かった。


「マディラ様、だめです。あと二日でいいから、ここにいてください」


私は、マディラ様の動きを制した。


「だが……」


マディラ様は、軍服に手を伸ばそうとして「うっ」と痛みに顔をしかめた。


「だから言ったじゃないですか」


本来は座ることさえできないはずだ。

それでも体を起こそうともがくマディラ様に、私は言った。


「分かりました。私がマディラ様に勝ったら、諦めてくださいね」


「勝つ……?」


首を傾げたマディラ様の顔にそっと手を添える。


そして……マディラ様の唇に、自分の唇を寄せた。


「!!!」


マディラ様は、声にならない驚きの声をあげた。

全身の力が抜けて、ボフッと体がベッドに沈む。

真っ赤になって、口をパクパクさせている。


「私の、勝ちですね」


胸を張ったものの……私だって、恥ずかしい。……初めてだもの。



「キスもしないで、マディラ様が死んじゃうかと思いました」


冗談めかして言ったけれど、本当に、本当に、もう戻らないのではないかと怖かった。


「パル……」


まだ顔が赤いマディラ様は、ベッドで申し訳なさそうに私を見上げた。

そして、しばらく考えて、包帯だらけの手を私に差し出した。


私は、マディラ様に身を寄せる。

マディラ様は熱っぽい瞳で私を見つめて、私の頬に触れた。

武骨な指先が耳裏から、髪に差し込まれる。

私の頭を引き寄せて、今度は、マディラ様から私に唇を重ねた。

弾力がある暖かい唇。さっきより長く重なる。

身体がほどける。

熱い吐息が掛かることすら泣きたくなるほど嬉しかった。


窓から差し込む光は、マディラ様の褐色の髪を灯火のように明るく照らしていた。


ちょうどその頃、新王アズラル陛下が国境政策を見直し、マグネタへの物資と増援が大幅に強化された。と同時に、ヘマイトとの内政不安の原因でもあった、クーデターを抑えるための支援もおこなったため、ヘマイト政府も力を取り戻しつつある。


マディラ様は、功績を認められ、正式に“マグネタ領主”に任じられた。


戦地だったこの場所は、ようやく“暮らす”という言葉が似合う土地へ変わりつつあった。


マディラ様と二人、城砦の上から、街を眺める。

城壁の向こうの褐色の台地は、情勢の安定化と比例するように緑の土地へ変わろうとしていた。

小さい花が風で揺れているのが遠目でも分かる。

マディラ様の瞳と、そして頭上に広がる抜けるような空と同じ、明るい青色。


頷くように風に揺れる花たちを見つめながら、私はそっと息を吸った。

隣に、マディラ様がいる。

私の腕には、あの銀のブレスレット。


それだけで、もう十分だった。


完結まで読んでくださりありがとうございました。

気に入っていただけたら、評価・レビュー等いただけると励みになります。

ご要望ありそうなら、それぞれ後日短編まだ書けそうな気もします。

しばらくもう一作の「マホロバ神社へようこそ」連続更新したいと思います。毛色が全然違いますが、漫画も掲載していますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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