【商人アンバー後日談】琥珀の陽だまり ―― はちみつ色の食卓 完結 ハッピーエンド
私は、ある日の朝、食料品をもって、アンバーさんのお宅に向かった。
アンバーさんからいただいた指輪は、宝石を付け替えて、持ってきた。
価格が落ちてしまうかもしれないけれど、地金だけでも相当な価値だと思う。
せめてそれだけでもお返ししたかった。
差額は、労働で少しずつお返しできたらいいなと考えてる。
ドキドキしながら、アンバーさんのお宅の戸を叩いた。
「ガチャリ」音がして、アンバーさんが顔を出す。
「おはようございます。アンバーさん」
「パルちゃん! 来たんだな!」
明るい声と笑顔を見て、ホッとする。アンバーさんがすぐに私を中に招き入れようとして、
「あっ……」
一瞬躊躇した。
室内を振り返る。人の気配がする。床に誰かが脱ぎ捨てたような服が落ちている。
「……大変、お邪魔しました」
私は、深くお辞儀をして踵を返す。
「あっ、いや、ちょっ、違う、違うからな! 待った!」
アンバーさんが、ひどく慌てているけれど、それがかえって怪しく見える。
私にヤキモチを焼く権利はないけれど、何かちょっと胸が痛む。
「お頭~。気持ち悪いっす~」
青い顔で出てきたのは、アンバーさんの弟分のジルコさんだった。ヨレヨレの服と無精ひげ。
呆気に取られる私に、アンバーさんが苦笑いする。
「昨日、近くで飲んだんだよ」
私の持っている野菜の袋をアンバーさんが受け取る。
「あ、ちなみに、俺は男に興味ないからな。パルちゃん、勘違いするなよ」
「俺は、お頭ならいいっすよ」
ジルコさんが言って、アンバーさんに肘でどつかれていた。
相変わらず、仲が良さそう。
中に入って、朝ご飯を用意した。
「本当に、来てくれると思ってなかった」
そう言いながらアンバーさんは、柔らかい金色の髪を手でかきあげる。
何だか落ち着かない様子で私の周りをウロウロしていた。
近付かれると、開いた白いシャツの首元から、淡い香水の香りがのぼって、ちょっとクラクラする。
ジルコさんは、水の入ったコップを握って、ソファーでうなだれている。
何とか持ち直したあと、三人で朝食を囲んだ。
相変わらず、家具は少なかったけれど、明るくて賑やかな食卓だった。
片付けのあと、私はアンバーさんに小袋を差し出した。
「あの……指輪をお返ししたくて……」
アンバーさんが、少し驚いた。
「もう、いいのか?」
「はい……必要だったのは一部の石で……。価値が下がってしまったかもしれませんが」
取り出した部分にイミテーションを付け替えた。高品質だから、見た目はそうそう分からないと思う。
「え? お頭、彼女に指輪あげたんすか!?」
ジルコさんが、顔を出した。
「結婚っすか!?」
「違う!」
アンバーさんが慌ててジルコさんの頭を押しやろうとするけど、ジルコさんは全然聞いてない。
「そうかあ~。いよいよお頭が身を固めるんっすねえ。
住むのはここでいいとして、式はどこにします? 教会っすか?
職場に教会のやついましたよね。手配させましょ。
祝いの飲み会もしなきゃいけないっすね。俺に任してください!
張り切って仕切りますんで。
あ、まずは酒だ! 酒、大量に準備しないとっすね! 街中で宴会だ! ちょうど今度船が入るから……」
さきほどまで二日酔いで寝込んでいたとは思えないくらい、ジルコさんはお酒の調達話に燃えている。
「ジルコ! 違うって言ってるだろ!」
アンバーさんが、赤くなって何度も突っ込みを入れるけど、まるで無視。
ジルコさんは、あげくにウキウキしながら外に飛び出して行ってしまった。
「パルちゃん、悪いな、職場行ってくるわ」
アンバーさんが照れ笑いで、私に手を振る。私は手を振り返して言った。
「アンバーさん! 夜ご飯にハンバーグ作って待ってます! 得意料理なんです!」
「楽しみにしとく」
明るい青空に、アンバーさんの笑顔と金色の髪が眩しく輝いた。
(完)
ここまでお読みいただきうれしいです。ありがとうございます。
アンバー甘い手前で終わっていますが、一番楽しい生活送れそうだなと想像しています。
次回は、マディラ編予定しております。
……いろいろ難しくて苦しんでいますが、明日21時予定です。




