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宝石泥棒娘と子爵子息ベリル ③初めての盗み

挿絵(By みてみん)

第3話 初めての盗み


お屋敷に戻ってからも、ベリル様は、朝から勉強や鍛錬にも励んでいた。

ベリル様の語学は私より習熟して、更に高レベルの先生に来てもらうことになったほど。


カンフリは、保存を考えて軟膏にした。

痛みにとても効果があったそうで、お父様もお喜びだったそう。

息子が考えて採取してきたということも効果を助けたに違いない。


ほんの少しの掛け違いが戻れば、人は自然に変われるのだろう。


午後は、一緒に散策したり、あの小屋で、生き物の世話をする。卵から育てた蝶もたくさん飛び立ってとても幻想的。


「あの紫の蝶は何ですか?」

私は、初めて見た蝶を指した。


「あれは、ハイランドバイオレット。初めて成功したな。気温とか食べ物が難しくて、いろいろ試したんだ」

ベリル様が、愛しそうに見上げた。


「ベリル様は、日光や水温も生き物ごとに上手に調整されているのですね。素晴らしいです。なかなか出来ることではありません。ちゃんと特性を掴んでいらっしゃる」


私が褒めると、ベリル様が言った。


「パルが、ずっとここにいてくれたら、俺、一生頑張ってお世話するんだけどな」


照れくさそうに笑う。


胸が、キュッと痛くなる。

嬉しいけれど、私は、そんなに純粋に思ってもらえる立場じゃない。

あなたを利用するためにあなたに近付いた。あなたに気に入られないといけなかった。


あなたと触れ合っていると、すぐその目的を忘れてしまいそうになるけれど。



そろそろ動く必要がある。

期限もあるけれど、これ以上ここにいたら、私は自分の気持ちの揺らぎを止められない。


三階の衣装部屋、屋敷の人たちにはだいぶ信頼されたので、近付くことができるようになった。

扉には普段鍵が掛かっている。でも、観察していると、舞踏会がある日は、ご夫妻の支度のために慌ただしく人が出入りするため、解錠されていることが多い。


人がはけた瞬間を狙って、そっと中に入ってみた。


もし見つかれば……と緊張で身が固くなる。


中には、たくさんのドレスや毛皮が掛かっている。

更に奥の扉の中、宝飾品の棚があった。


(ここだ……)


ドキドキしながら、引き出しに手を伸ばす。

そっと開けてみる。が、私が探しているものは見当たらない。


(どうして……? この家にあるはず……)


周囲の棚も念のため調べるが、やはり見当たらない。


思い悩んでいると、


「パルー」


廊下から、ベリル様の声がする。


ドキッとして、慌てて戸に耳をあてて様子を伺う。


ベリル様の気配が、遠ざかったのを確認して部屋を出る。


心を落ち着けながら、ベリル様の後を追った。


「ベリル様」


後から声を掛ける。


「良かった。いたんだな」


ベリル様は、ぱぁっと明るい笑顔を見せる。


心が痛む。


「どうして私がいないと思われたのですか?」


「何か、昨日そんな夢を見てさ」


ベリル様は照れ笑いをする。

私は、何か見透かされたような気がして、動揺した。


ベリル様が手を伸ばして、私を自分の方に抱き寄せる。

甘える子犬がスリスリしてくる時の感覚に似ているなと思った。


私の目を覗き込んでくる。


「パル……。俺のそばから、いなくならないで。俺、大人の男になるから。ちゃんと立派な子爵になるから。そうしたら俺を選んでくれる?」


すがるように見えた。


胸が痛くなる。


何のしがらみもない立場でここにいられたら、私は、答えられたのかな。


私は、ただ黙ってベリル様に身を預けているしかできなかった。



夜になり、ご夫妻が、帰られた。


お迎えに出て、ハッとする。

奥様が、あの宝石の……ネックレスをされている。


ネックレスは、宝石が花の形に並んだもの。

真ん中の一つが、探し求めたそれだった。


落ち着け、私。


この屋敷の人の動きは把握している。


奥様は衣装部屋で、ドレスをお着替えになるはず。

その時、二人のメイドが手伝いをする。


お着替え後、奥様は寝室へ。

メイド二人が衣装やネックレスをお手入れして片付ける。


でも、部屋の鍵は鍵番が持っていて、メイドが伝えに行き、鍵を閉めに来る。


つまり、チャンスはその間しかない。


私は、髪をまとめ、黒く動きやすい服に着替える。


前もって部屋からの死角は、調べていた。


奥様が、部屋に入られるあたりで、その場に身を潜めた。

緊張でのどが渇く。自分の心拍がうるさく響く。


数分後、奥様が普段着に着替えられ、寝室に戻られた。

そしてそれから十分くらい経って、メイド一人が部屋を出る。


鍵番が来る前に、もう一人も出てくれなければ。


願いながら見守る。


もう一人が、外に出た。


今だ、と部屋に近付こうとした時、ベリル様が私の前を通った。


ドキン、と胸と息が詰まる。

慌てて廊下の影に身を潜める。


息を飲んで自分の口を抑える。


ドキン、ドキン、ドキン。


目の前を通るベリル様。


ふと、私のすぐ近くで足をとめる。


キョロキョロと見回している。気配が伝わってしまったのかもしれない。


身を硬くして息を殺していると、ベリル様は、私に気付かず通り過ぎて、隣の書庫へと入って行った。

まだ調べ物でもしているのだろう。


急がなければ。


私は、衣装部屋に忍び込む。

下調べしたあの引き出しへ急ぐ。


開けると、


(あった……)


布に包み、握りしめて外に出る。


急いで部屋に戻る途中で、鍵番が鍵を持って部屋に向かうのが見えた。


危なかった……。


私は部屋で、ネックレスを再度眺める。


宝石にフィルターを通した光を当てると、真ん中の宝石だけが、オーロラに輝いた。


やはりこれだ。


私は、そのまま部屋に器具を設置し、ネックレスから、件の宝石一つを取り外した。

そして、イミテーションと差し替える。これは、父の協力者が用意していたものだ。高品質で、見た目では簡単に分からない。


昔、父が盗んだ宝帯から、協力者が宝石を取り出し、イミテーションと差し替えた。

次の即位の儀式までに、私は宝石をすべて元に戻さなければいけない。


宝帯には、国家の安寧の魔法がかけられていて、失われると次の御代では厄災が起きると言われている。


私は、興奮と緊張でその晩、全く眠ることはできなかった。


あとは、この付け替えたネックレスを戻さなければならない。

一刻を争う。


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