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呪われた青年アメシスと潜入使用人 ⑤鍵のありかと胸の痛み 漫画あり

挿絵(By みてみん)

⑤鍵のありかと胸の痛み


「手紙を……もらった……」


アメシス様が、少し困ったように封筒を私に見せてくれた。

綺麗な薄紫の封筒で、小さな花の絵がついている。


「どなたからですか?」


「先日、来客があった時、兄に頼まれて、少しお相手をした女性だ。確か侯爵家の長女とか……」


「へえ~侯爵家ご令嬢が来られるなんて、珍しいですね」


「親戚筋ではあるんだ、慈善事業についての話だった」


「お手紙、何て書いてあるんですか?」


「”また、お会いしたい”と……」


「まあ、とても積極的なご令嬢ですね。どんな女性ですか? お綺麗でした?」


アメシス様は、思い出そうとされているみたいだった。


「そう……そうだったかな……? でも……」


「おいくつくらいで?」


「……え? そうだな、パルと同じくらいかと……」


「アメシス様は、魅力に溢れていらっしゃいます。そりゃあ女性たちから取り合いになりますよ。恋愛小説のような恋のご相手にも不自由されませんね」


アメシス様は、心なしか顔色が青くなって見える。もう少し浮かれてもよさそうなのに。


「いや……もし、私に魅力があるとしたら、効果は一人だけで……」


アメシス様の声が掠れてだんだん小さくなるので、聞き取りづらい。パクパクして息が苦しそう。頬も赤い。


「アメシス様、卵食べましたか!?」


私は思わず、アメシス様の手を掴んだ。アメシス様はピクッと跳ねる。私はアメシス様の袖をめくり腕の症状を確かめる。


「え? あっ? なっ……ふぁっ……パル?」


襟の中を覗きこみ、シャツをめくる私の行動に慌てふためくアメシス様。頬どころか耳も首も真っ赤になっている。これは心配。


「いやっ……パルっ……たっ……食べていない……食べていないはずだから……あっ」


「そうですか……。ああ、良かったです……」


私はホッと胸を撫でおろす。

アメシス様は、それからしばらく何か言いたげだったけれど、私がじっと観察していたら

そのまま、居心地が悪そうに視線を泳がせていた。

挿絵(By みてみん)


「その花は切ってしまうのですか?」


私は、剪定中の庭師の若い男性に声を掛けた。

ノール家の庭師の男性は、元気でとても仕事が早いけれど、その勢いで今から咲きそうなつぼみでもザクザク切っていくから、少しもったいないなと思っていた。

アメシス様の瞳のような濃い紫から、白へのグラデーションの清楚な花。香りも素晴らしい。

私は花をもらって、花瓶とともにアメシス様の部屋に持って行く。


アメシス様は、庭にいる私を見ていたみたい。


「何を話してたの?」


「え?」


「庭師と。……楽しそうだったから」


アメシス様は私から目を逸らした。


「お花を貰っただけです。ここに飾りたくて」


私は花瓶を、アメシス様に見せて、棚の上に置いた。


「……」


アメシス様は何も言わずに下を向いていた。あまり、お気に召さなかったかなあ。


徹底的に掃除をした上、本棚も整備したので、部屋はすっきりしたと思う。

降り注ぐ日光が、床に窓のシルエットを作る。爽やかな緑の匂いの風が吹き込んでいた。

アメシス様が、ふいに言った。


「パルは……何か褒美が欲しくないか……?」


「私ですか?」


「臆することなく、私を、呪いから救ってくれた。兄上も、望みのものをと」


「いやいや、もったいないです。お給金もいただいていますし」


アメシス様は、少し残念そうだ。


「何か、報いたいんだ。パルの献身には本当に感謝している。女性が喜ぶものを考えたのだが、外しているような気がして……」


アメシス様の頬がほんのり赤い。皮膚が治ったから、それもよく分かるようになった。


「私の症状は、ほとんど治ってしまった。だから、パルはいつでも、私を捨てていけるだろう? 何か返したいんだ」


「え?」


少しドキリとした。アメシス様の紫の瞳が、私をじっと見つめている。


「そっ、そんな……私が捨てるなんて……」


最近、アメシス様は外に出られるようになって、以前と一転し、女性たちから黄色い声を浴びたりしている。ただ肌が治っただけで、アメシス様の何かが変わったわけじゃないのだけれど。元々、自分を殺しても人に気を遣う、優しい方。


「パルが、そばにいてくれるのなら、私は、……何でも差し出すよ。卵をたくさん食べてもいい」


少し照れたような、でも真摯な表情。胸が暖かくなる。


「アメシス様……それは危険ですよ」


何気ないふりをしたつもりだけど、私の声は震えていたかもしれない。


「……分かってる」


アメシス様は、切なげに笑った。


それならばというわけじゃないけれど。


「あの……それであれば、こちらに代々伝わると言う、宝物を拝見したいです。お借りした国史の本に、こちらのお宅に精霊に授けられた『鎮守の神具』があると記述がありました」


あれから、金庫部屋の攻略方法を探っているけれど、鍵がどこにあるかさえ分からず、困っていた。


アメシス様は、少し驚いたようだった。

しばらく、思案していたが、


「分かった」


頷いて、机の背後の棚から一冊の本を取り出した。

青地に金色の箔押しがされている表紙。

外国語の本らしく、タイトルは読めない。

本を開くと、中がくりぬいてあって、鍵が出てきた。銀色に鈍く光る鍵。

立派で彫刻もあり、そうそう見ないほど丈夫で立派なものだった。


(こんなに近くにあったなんて……)


「呪われた私が持っているのが、一番安全だから。誰もここには来ないし。

外に出られなくて、他に私が役に立つこともなかったし。だから隣の部屋にいたんだ」


アメシス様が自嘲気味に笑った。

ズキン、と心が痛む。アメシス様は二十四時間在中の金庫番なのかもなんて、考えたこともあったけれど、本当だったんだ……。


(……この人に、これ以上嫌な思いをさせたくない)


支えあって、二人で生きていく未来……。きっと穏やかで、素敵だと思う。

そんな夢をみることも許されないのがまっすぐな信頼を裏切ろうとしている私への罰なのかもしれない。

私がここに来た理由……。ちゃんと覚悟していたつもりだったのに。


(どうして、こんなに苦しいの……)

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