No.2 シフォン::浄化のEカップ
「一肆さま、またお世話させてさいね。私の膝枕は一肆さまだけのものですから。約束しましたからね」
マシュリのポカポカの太ももの感触と甘い別れの言葉の余韻に浸りながら、荒野をさらに進んでいた。
だが、平和な時間は長くは続かなかった。
岩陰から飛び出してきたのは、全身が鋭利な骨だけで構成された不気味な魔物、ボーンフィーンドだった。
その手にはノコギリのようにギザギザとした角張った剣が握られており、足元には魔物に襲われて血を流している旅人が倒れていた。
俺の脳内のデータ分析プロセスが、魔物の持つ圧倒的な「負の鋭角」を弾き出す。
怪我人の生々しい傷跡と、命を刈り取ろうとする冷酷な骨の刃。
前世のブラック企業で、過労で倒れた同僚を無慈悲に切り捨てていった会社のシステムがフラッシュバックし、俺の精神をゴリゴリと削っていく。
このままでは旅人の命が危ないし、俺の心も壊れてしまう。
俺は強張る足に鞭を打ち、魂の呪文を叫んだ。
「出でよっ、ぱいぱいっ! ナンバー2!」
ぼよよぉん!
殺伐とした空気を震わせ、次元の弾力境界が突破される音が響いた。
光の中から現れたのは、金髪のボブカットを揺らす、少しサイズの合っていないゆったりとした修道服姿の少女だった。
そしてその胸元には、神への祈りよりも遥かに重い、重力を無視して押し寄せるような規格外の質量が存在していた。
Eカップ。
俺の脳内データが即座に弾き出す。
修道服の布地がはち切れんばかりに引っ張られ、その中に詰まった圧倒的な母性と慈愛を主張している。
「あわわ、お呼びですかぁ! ナンバー2、見習いシスターのシフォンですぅ! あんなトゲトゲの骨さん、私がまあるく浄化しちゃいますぅ!」
シフォンは涙目になりながらも、旅人を守るように魔物の前に立ち塞がった。
鋭利な骨の剣を振り下ろしてくる魔物に対し、俺はすかさずスキルを発動する。
「万物円満!」
俺の『π=314』の力が、シフォンの丸いエネルギーを百倍に増幅させる。
「が、がんばりますぅ、ホーリー・バウンドぉ!」
シフォンの体が、神聖でまあるい光のオーラに包まれた。
彼女はそのまま、増幅された圧倒的な弾力と光を纏って、魔物の懐へと勢いよく体当たりを敢行する。
ボフンッ、という柔らかくも重い衝撃音が響き、鋭角な骨の剣は光のクッションに弾かれて粉々に砕け散った。
さらに、神聖な丸いオーラが魔物の体を包み込み、その悪意を完全に浄化していく。
骨の魔物は抵抗する間もなく、ただの丸くて白いカルシウムの塊へと姿を変え、大地に還っていった。
旅人の傷もシフォンの癒やしのオーラで塞がり、事態は完全に丸く収まったのだ。
「ふぇぇ……一肆さま、やりましたぁ。でも、一肆さまの顔色がすごく悪いですぅ……こっちに来て、私にギューってさせてくださいぃ」
シフォンは倒れていた旅人が無事に逃げ出すのを見届けると、ふらついている俺の元へ駆け寄り、そのまま俺の首に両腕を回してきた。
お祈りハグ。
それはただの抱擁ではない、対象の精神的な呪いやデバフを極上の密着感によって強制的に解除する特技だ。
俺の顔面は、修道服の生地越しに、Eカップという規格外の双丘へと完全に埋没した。
「一肆さま、怪我人を見て、過去の怖いことを思い出しちゃったんですねぇ……痛かったですね、苦しかったですねぇ」
シフォンのとろけるような甘い声が鼓膜を震わせ、彼女の柔らかすぎる無限のクッションが俺の心にまとわりついていた恐怖を包み込んでいく。
「ああ……シフォン。骨の刃を見たら、前世の冷たい記憶が蘇ってきて……息が詰まりそうだったんだ」
俺が掠れた声でこぼすと、シフォンは抱擁の力をさらに強め、自分の体重を俺の方へと預けてきた。
「そんなトゲトゲした記憶、私が全部まあるくして消してあげますからねぇ……よしよしですぅ」
彼女の巨大な双丘が、俺の鼻や頬の輪郭に合わせて自在に形を変え、一切の隙間なく密着してくる。
教会の祭壇に飾られた百合のような清潔な香りが、俺の肺の隅々にまで染み渡っていく。
「シフォンの胸、すごく温かい……。それに、心臓の音が聞こえて、なんだかすごく安心するよ」
「えへへぇ……一肆さまに私の命の音、いっぱい聞いてほしいですぅ。一肆さまはもう、私が絶対に守りますから、ここでずっと赤ちゃんのようにおとなしくしていてくださいねぇ」
シフォンの細い指先が俺の髪の毛に差し込まれ、頭皮を優しくマッサージするように梳いていく。
彼女の体温が直に伝わり、俺の思考回路は完全に停止した。
冷たい数字の羅列でも、鋭利な刃物でもない、温かくて優しい純度百パーセントの生命の鼓動。
「一肆さま……もっと私に甘えていいんですよぉ? 重たいものは全部、私が受け止めますからぁ」
「シフォン……ありがとう。君の丸みのおかげで、俺の魂の形が元に戻っていくのがわかる……」
「よかったですぅ。一肆さまの心がまあるくなっていくの、私にも伝わってきますよぉ。このまま、ずっとギューってしてますからねぇ」
全方位からの逃げ場のない甘やかしと、底なしの慈愛に満ちた言葉の連続に、俺の自我は心地よく崩壊していった。
俺は無意識のうちに彼女の細い腰へと腕を回し、その豊かなクッションにさらに深く顔を埋めた。
「やはり、世界は丸いほうがいい……」
金髪シスターの底なしの慈愛と圧倒的な質量に完全に包み込まれながら、俺は賢者タイム気味に究極の平和を噛み締めていた。










