歓迎会
今回はいつもより短いです。
昼休みは、何も食わずに終わった。
やっぱり腹は減った。つーか、あの女のせいだ。
いきなり帰ってきて、あんな大騒ぎしやがって。
「おーい利! 何やってんだよ、転校生と抜け駆けか? まさかもう狙ってるとか?」
教室に入るなり、伊吹が絡んできた。転校生に対するみんなの執着心が、まったく理解できない。
もしアイツらにチャンスがあると思ってるなら、大間違いだ。
「あんな奴、これっぽっちも興味ねえよ」
「相変わらずつまんねえの」
こんな性格だし、美栄を好きになる奴なんて、騙されてるか、ただの変人だろ。
美栄の方を見ると、女子に囲まれてた。
変わらないな。
美栄は昔から、人気者だった。誰とでもすぐ友達になる。
目が合うと、突然ニコッとして、口を動かした。
『グラウンド裏で待ってる』
……たぶん、そんなことを言ってた気がする。
口の動きだけじゃ、自信はないけど。
その後は、放課後まで普通に授業が進んだ。
変な噂とか誤解を避けるためか、美栄は先に教室を出て行った。あんまり目立たない、根暗な俺が、いきなり転校生と仲良くなったら、面倒だしな。
窓の外を見ると、青かった空は、いつの間にか夕焼けでオレンジ色に染まってた。
「そろそろか」
教室には日直の奴らしか残ってないのを確認して、俺も出ることにした。
下駄箱で靴を履き替えてると、誰かに呼び止められた。
「利くん」
女の声だった。わざわざ話しかけてくる奴なんて、限られてるから、すぐに誰かわかる。
ポニーテールの女子が立ってた。うちの制服を着てる。いわゆる、清楚系っていうんだろうか。美栄とは、また違った種類の美人だ。
「ああ、茜か」
花房茜。
よく俺の夕飯を作ってくれる奴だ。両親は家にいない、飯を作るのが面倒で、適当に済ませてたら、心配されたのがきっかけだったっけ。
「偶然ですね。今日の夕飯のこと考えてたんですけど、一緒に買い出し行きません?」
「今日は無理だ」
「え? 珍しいですね。何か用事でも?」
「ああ、ちょっとな」
「まあ……そういう日もありますよね。わかりました」
「悪いな」
「ううん」
短い、意味があるのかないのか分からない会話だった。
「あ、利くん」
また呼び止められた。
「何だ?」
「今日、利くんのクラスに転校生が来たって聞いたんで、ちょっと気になって」
「ああ……別に、気にしなくていいよ」
「そうですね。でも、やっぱり気になっちゃって」
「……」
「ふふっ、じゃあ、お先に失礼します。また、利くん」
茜は去っていった。
茜は、中学からの友達だ。いつからいたのか、気づいたら隣にいた。俺が夕飯を作らなくて、インスタントばっか食ってたら、心配して作り始めた。それ以来、ずっと夕飯を作ってくれてる。
グラウンド裏に行かないと。美栄が待ってるはずだ。
◇◆◇
着いた時には、もう美栄がベンチに座って待ってた。
「待ったか?」
美栄は野球部の練習に見入っていて、俺の声に気づいていない
「野球部、見てたのか?」
「うん」
「また野球、やりたいのか?」
「ううん」
首を振って、ベンチから立ち上がった。
「やりたくない」
「なんで?」
「しつこいぞー? まあ、悪くはないけど〜」
「悪かった」
「昔から、そんなに気を遣って謝るタイプだったっけ? 忘れちゃったな〜」
「相変わらず、うるせえな」
「ふふっ。まあ、いろいろあってさ、体質的に野球は無理なんだよね。僕、か弱い乙女だからさ」
でも、昨日会った時はバッティングセンターに行こうって言ったし。
……真実と嘘が混ざってるんだろうな。
「とりあえず、行こうぜ。待ちきれない歓迎会だ!」
美栄に引っ張られるようにして、校門を出た。
◇◆◇
ファミレス。
「かんぱーい〜」
「かんぱい」
カチン
「ぷはー。やっぱ、日本のファミレスのドリンクバーは格別だね!」
普通のオレンジジュースなのに、大げさだな。
ここは、よく来るファミレスだ。安いし、うまい。それに、この時間帯はいつもガラガラで、学生がちらほらいるくらいだ。
「でも、まさか利が本当に星ヶ丘に受かってるとは思わなかったな」
「約束は、破らない」
「そっか」
一瞬、その笑顔が、いつもと違って見えた。
「そういえば、お前けっこう人気あるよな。」
「ん?」
「初日なのに、もう話題になってるぞ。」
「当たり前じゃん。私だよ。」
「お前、調子乗ってるな。」
「……もう、こんなに可愛いのに私ってば、本当に可哀想〜!」
夕日に照らされた茶色い髪を、くるくる弄りながら、潤んだような翡翠色の瞳が、どこか遠くを探すように逸らされる。
その時、注文した料理が運ばれてきた。
美栄は、普通サイズのハンバーグと、デザートにパフェ。俺は、小さいポテトだけ。夕飯は朱音が作るから、あまり食うわけにはいかない。
ちなみに、ここの普通サイズって、大人二人前くらいある。
「もっと食えばいいのに」
「これで充分だ」
「金、気にしてるなら、奢るよ? 歓迎会だし」
「歓迎会だろうが、女に払わせるわけにはいかねえだろ」
「ふふっ、紳士だね〜」
また、その口調……からかってるな。
「つーか、お前、それ食いきれるのか? 結構でかいぞ」
「そう? イギリスのはもっと大きかったけど、それに比べたら大したことないよ」
イギリスで、もっと大きい。
どんな食いもん食ってんだよ。食いきれるのか?
「太ったりしねえの?」
「大丈夫。太らない体質だし、代謝もいいから、いくらでも食べられるんだ〜」
代謝が良くて、太らない。
そう言えば、美栄の太ももを見てみる……なるほど、あそこに行くのか。
「ん? 今、なんかエロいこと考えたな?」
「……」
「げっ?! マジで考えた?! 死ね!」
テーブルの下で、足を蹴られた。テーブルに足が当たって、ガンッて結構な音がした。
幸い、こんな時間は客も少ないから、誰も気にしない。
その後は、黙って食い続けた。
気づけば、料理はなくなってて、時間も遅くなってた。
ピンポン
「ん?」
スマホの通知。メッセージが届いてる。
『いつ頃帰ってくる? 夕飯、もうすぐできるよ』
茜からの、短いメッセージだった。
「何それ。携帯持ってないんじゃなかったの?」
テーブル越しに、美栄の抗議の声。
「そんなこと言ったか? 人違いじゃねえか?」
「昨日、言ったでしょ!」
「それは、美栄が詐欺師だと思ってたからだ」
「ぷっ……しょーもな」
「言い訳じゃねえよ」
「じゃあ、ライン交換しよう」
ライン交換。確か、友達同士でやるやつだ。少しして、画面に美栄からのメッセージが届いた。
『もしもし、届いてる?』
その後に、可愛いポメラニアンのスタンプが付いてる。
「届いてねえよ」
「届いてなかったら、知らないだろ!」
「知らないな」
「知らないじゃないだろ」
やっぱり、いつもの会話だ。
美栄は、昔と変わってなくて、よかった。
「あ、そういえばさっき、誰から?」
「さっき?」
「うん、なんかスマホ見てたじゃん」
「ああ、友達からの連絡だ」
「おー、利にも友達いるんだ。女? 女でしょ?」
「女だ」
「うわ、びっくり。冗談で言ったのにマジかよ。利も、ついにそういう歳になったか」
誇らしげに言う美栄。
なんで親みたいなこと言うんだよ。
実の親だって言わねえぞ、そんなこと。
「おっと、もうこんな時間だ」
確かに、もう遅い時間だった。
「今日はこの辺でお開きにしよう」
「パーティーって言っても、ファミレスで飯食っただけだけどな」
「細かいことは気にするな! それに、彼女を待たせるわけにはいかないでしょ〜」
「誰が彼女だよ」
外を見ると、見覚えのある黒い車が止まってた。どうやら迎えが来たみたいだ。やっぱり、さっきの車は執事の車だったのか。
美栄が席を立つ。
「じゃあね、利。バイバイ」
「おう」
鞄を持って、美栄は店を出て行った。
俺は残ったオレンジジュースを飲み干して、帰る準備をした。
みえ:利に友達ができるなんて、本当に思ってなかった。ちょっと感動してる。
とし:マジでそういう言い方やめてくれないか?本気で殴るぞ。
みえ:きゃー、DVだ〜。
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