ボーイ・ミーツ・ビューティフルガール
どれだけ時間が経っても、この場所は変わらない
……いや、嘘だ。むしろ一番変わったのはここかもしれない。
あの頃は、こんな大きな家が、こうもあっさり放棄されるなんて、誰も思わなかっただろう。
草木が伸び放題だ。なんで白幸家はこの家を売らなかったんだろう。
もう金に困ってないから、不動産を売る必要もないってことか?
「ん~~」
……ん?
「ん~~」
なんだ、この声。
俺の声じゃない。たぶん。
ちょっと見てみるか。
右を向くと、隣に女の子が立っていた。
美少女。そうとしか言いようがないくらい、綺麗な女の子だった。今、その子は家を見つめている。
綺麗な茶色い髪が背中まで流れていて、見ただけでサラサラだってわかる。どんなシャンプー使ってんだ?
翡翠色の瞳が、朝日を受けて月みたいに輝いてる。
袖なしの服にジャケットを羽織って、フリルスカート……ってやつか? たぶん。詳しくないけど。俺、ファッションには詳しくないから。
とにかく、一目見て息を飲むくらい、絵になる女の子だった。
あ。
何やってんだ、俺。女の子をジロジロ見るなんて、変態みたいじゃないか。
この辺の子だろうか? 初めて見たけど。観光客?
でもなんで、廃墟に興味なんて……
時計を見る。
やばい、学校行かなきゃ。毎日この家を見るのが習慣になってて、今日は特に長居しすぎた。
その時、女の子と目が合った。向こうが微笑む。
ああ、マジで綺麗だ...じゃなくて!
早く行かないと、また怒られる!
◇◆◇
放課後。
幸い、ギリギリだったけど学校は無事に終わった。
でも、朝のことが気になって仕方ない。
あの女の子、誰だったんだ?
なんで廃墟なんか見てたんだ?
もしかして、あの土地を買おうとしてるとか? ああいう感じの奴って、なんか金持ちそうだし。
帰り道、考え事をしながら歩いてると、視界の端に誰かが入った。
女の子だ。
なんか困ってる感じ。
朝の子じゃないか?
知らないふりして通り過ぎよう……
目が合った。
テクテクテクテク
「あの……」
無視無視。
「あの! すみません!」
ああ。
無視できねえ!
振り返ると、さっきの子が立ってた。ぜーぜー言ってる。どうやら歩くの速すぎたらしい。
「歩くの、速いですよ……はあ……はあ……」
「わり。何か用?」
「はい! 私、最近この街に引っ越してきたばかりで、街を案内してくれる人を探してて……」
「そうか。じゃあ悪いけど、今忙しいんで、他の人に頼んでくれ」
「ええ~?」
さっさと歩き出す。
「イヤだって言うなら、今朝、私をジロジロ見てた変質者がいたって、警察に言いますけど~?」
「どちらへ行かれますか、お嬢さん?」
「対応早っ!」
危ねえ。マジで危ねえ!
この子が通報したら、警察は絶対に信じるだろうな!
それくらい、美少女の証言ってのは怖い。マジで怖い。
「行きたいところとかあるのか?」
「まだこの辺、よくわかんないんで。ついて行きます」
「それでいいなら、別にいいけど」
どうやら本当に、この辺は慣れてないらしい。
この辺に有名な場所なんてあったっけ? いや、そもそも何かあるのか?
大きな施設とかの場所を教えて、あとは自分でググればいいだろ。そうしよう。
「ふふ。全然、変わってない」
「何か言ったか?」
「ううん。なんでもな~い」
「?」
「行こ行こ!」
さっさと歩き出す。
場所わかってるなら、わざわざ案内させんなよ!
慌てて追いかけると、振り返って待ってる。
歩き出しても、つい早足になってしまって、結果、置いていく形になる。
それを何度か繰り返して、文句を言われた。
「歩くの、速すぎじゃない?」
「いや、普通だろ。お前が遅いだけ」
「じゃあ、私が悪いの?」
「……」
「ねえねえ……私が悪いの?」
「なんて答えてほしいんだ?」
「さあ~?」
「……」
変だ。
この会話、なんか違和感がない。
というか、懐かしい感じがする。落ち着く。なんか、安心する。
ずっと前から知ってるみたいな。でも、こんな子、絶対に忘れないはずだ。わざとじゃなくても。
「そういえば、野球とかやる?」
「なんで急に?」
「気になっただけ~」
「……」
「やったの?」
「ちょっとな、昔」
「昔? じゃあ、今はやってないんだ」
「まあな」
「もったいな~い」
「……」
歩き続ける。
街を案内してほしいって言われたけど、大した場所は教えてない。ショッピングモールの場所とか、小さな公園とか、そのくらい。
結局、彼女が疲れたって言い出したところで、さっきの小さな公園に座った。
隣のベンチに腰掛ける。
夕方だから、まだ暗くない。
沈黙が流れる。知り合って間もない二人なら、当然か。
「……」
無理に話す必要もない、と自分に言い聞かせる。
「バッティングセンター、行かない?」
聞いたのは、俺じゃなかった。
「バッティングセンター?」
「うん。野球、やってたんだね?」
「……」
「無口なんだね。まあいーや、行こ行こ」
彼女は立ち上がって、歩き出す。
もう道、わかってるんじゃないかってくらい迷いがない。案内、必要だったのか?
『イヤだって言うなら、今朝、私をジロジロ見てた変質者がいたって、警察に言いますけど~?』
いや。
大人しく従うべきだ。生きるためには。
◇◆◇
バッティングセンターに着いた。
夕方だからか、静かだった。いや、ここはいつも静かなほうだけど、そうじゃなくて。誰もいなかった。ガラッガラ。
中に入ると、彼女が続く。
「初めてか?」
一応、確認してみる。
「ううん」
「やっぱり、野球やってたんだな」
「まあね。でも、あんまりうまくなかったけど」
彼女はバッターボックスに入ると、バットを構えた。マシンが球を放つ。
「構え、いいな」
カン
「そう?」
「ああ」
二球目が来る。
カン
「けっこうやってたのか?」
「んー……打者じゃなかったけどね」
カン
「あ、ひとつ外した」
「じゃあ、ピッチャーとか?」
「惜しい。キャッチャーだよ」
カン
最後の球だった。
「そっか」
彼女はバッターボックスを出て、伸びをした。
「あー。久しぶりにやった」
「……」
「今日、楽しかった」
俺は、あんまり楽しいとは思わなかったけど。
バッティングセンターを出ると、外はもう暗くて、街灯だけが頼りだった。夕方の冷え込みが、こういう時に限って身に染みる。
「ねえ」
誰かに呼ばれた気がした。
その声は、なぜか懐かしかった。
振り返る。
そこには、茶色い髪の女の子が立っていた。
「何だ?」
「冷たい人だね」
「そうか?」
「うん」
「……」
「その性格、いつか痛い目見るよ」
「……」
「ふふ、おもしろいね」
……
俺は今までいろんなこと言われてきたけど、「おもしろい」って言われたのは、美栄だけだった。
やっぱり「おもしろい」の意味は、よくわからない。
「ねえ……ライン、交換しない?」
ライン?
ああ、知ってるよこれ! 知らない美少女がいきなり親切を求めてきて、最後にラインを聞いてくるパターン……
絶対、これ脅しじゃん!
なんだ。
この子、俺が無口だからカモだと思ったんだろ? 甘いぜ! ネットで何度も見た手だ! 引っかかるかよ(笑)
「携帯、持ってない」
「え?」
「携帯、持ってないんだ」
「それは聞いた! 一回でわかる!」
「それなら話が早い」
「このご時世に携帯持ってないとか、どんな人間だよ!?」
「俺」
「それを平然と言うなよ……もう」
「……」
「残念だけど、今日はありがと」
「……」
「あ、帰り道はわかるから、もういいよ」
「そうか、それはよかった」
彼女は去っていった。
もう帰り道わかってるなら、よかった。
それに、なんとか詐欺からも逃げ切れた! セーフ。
つーか、このご時世に携帯持ってない人間ってどんなだよ。俺だって持ってる。
「ねぇ」
声がした。あの子だ。
急に立ち止まって、振り返る。こっちを指さしながら。
なんだ、そのドラマチックなポーズは。
「また会う気がする。じゃあ、また明日!」
「……」
そう言って、彼女は走り去った。
どこかに止めてあった車に乗り込む。もしかして、ずっと後ろをついてきてたのか、あの車。やっぱり、あの子の車だったのか。
詐欺じゃねえか!
また会う気がする、だと?
確かに、もう会いたくないな。面倒くさい。
とし:なんか見覚えある気がするけど……まあ車なんてどれも似たようなもんだよな。
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