プロローグ
「……ストライーク! バッターアウト!」
ミーンミーン、ミーンミンミン。
うるさい。セミがうるせぇすぎ!。
スマホの中では解説者がずっと何かしゃべってるけど、全然頭に入ってこない。だって暑いんだもん。
「うお! このバッテリー、強すぎだろ! な、利?」
隣にいるアイツが言う。
「黙れ、暑い!」
「んなこと言うなよ。お前のエアコンが効いてないだけだろ! エアコン!」
ミーンミーンミーン
「うるせぇうるせぇうるせぇ」
「うわ、利……頭おかしくなった?」
「お前のせいだ。なんで真夏の俺の部屋で甲子園見てんだよ!」
「じゃあ僕はどうすりゃいいんだよ! 夏休みの宿題やれってか!?」
「それを天才的なアイデアみたいに言うな!」
「いやだね!」
変だ。
俺たちの会話、絶対変。
でもそれが、白幸美栄って奴なんだ。
こいつは自称・俺の親友。今も自分の部屋みたいにベッドに寝転がって、甲子園観戦中。
「美栄って、俺ん家より快適なんじゃね? だって広いし、エアコンもちゃんと効いてるし」
「お前の頭の中、エアコンしかないの?」
「こんな暑けりゃそうなるだろ」
「純粋すぎるぜ、坊や!」
「なに言ってんだ……」
「だって広いし涼しいけどさ、でもな! 自由がない! ゼロ!」
「なに言ってんだよ。ただ暇なんじゃね?」
「あ。バレた」
変。
やっぱり会話が変。でもそれが、美栄と俺、里仲利の普通なんだ。
里仲利
「さあ、こうして星ヶ丘リードで第六回裏を終了! 次はぜひ相手校にもアグレッシブな攻めを見せてもらいたい!」
「あ、六回終わった」
「見えないんですけど」
「お前のせいだろ。でも、このままじゃ最後まで見なくてもいいかもな」
「なんで?」
「だって勝つチーム、決まってるじゃん!」
「自信満々だな」
美栄がごろーんと寝返りを打って、パッと立ち上がった。なんでこの人、こんなことして足痛くないんだろう?
「約束しよう、利!」
「なんで急に?」
「いいからいいから! ほら、指!」
「?」
なんか合図してる。これって宇宙人かなんかの儀式?
「早くー、待たせるなって!」
「はいはい」
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます!」
「それは怖いけど……まず約束の内容を言うもんだろ」
「細かいことはいいんだよ、細かいことは!」
「……」
「一緒に星ヶ丘行くって約束!」
あ。
こいつの顔、マジだった。星ヶ丘ってのは、去年の甲子園優勝校で、今年も強いって噂の高校。しかも県内だから近い。
思わず手を引っ込めそうになった。星ヶ丘って、野球も有名だけど頭いい奴が行く学校だろ。俺みたいな普通の頭じゃ、行きたくても行けない。
「早くね?」
「何が?」
「高校なんて考えるの。俺たちまだ小学生だぜ? 中学のこと考えようよ。遠い未来より、近い未来の方が現実的だろ」
「わかってねえなあ、利は! それじゃ、いつかみんなに置いてかれるぞ。よく聞けよ、動かなきゃ、人はどんどん先に行く。で、そいつらは勝ち組になるんだ。そうなる前に――」
「はいはいわかったわかった。もう帰れ」
「うえーん、利のケチ! まぁいっか。じゃあな、また明日! サラダバー!」
そう言い残して、美栄は帰って行った。
耐えきれない暑さに、俺はベッドに倒れ込んだ。
白幸美栄。あいつとは、いつからだったっけ。
確か……幼稚園の時だよな?
うっすら覚えてる。あいつはうるさくて、いつもガキ大将みたいに子ども達に囲まれてた。俺みたいな一匹狼とは大違いだ。
べつに友達が作れなかったわけじゃない。ただそういう行為がめんどくさいのと、遊びたいことやってれば、一人でも楽しかったから。
気づけば小学生。あいつもやっぱり同じクラスだった。覚えてるのは、アイツの自己紹介。
「白幸美栄です! 白は白いの白、幸は友幸みたいに幸せって書いて、美栄は――」
確か、そこで名前を忘れたんだよな。
「――三重県の美栄です!」
クラスの子は拍手してたけど、先生は困った顔。でも先生が何か言う前に、俺は手を挙げてた。
「違う」
「……?」
「三重県は、三重って書く。数字の三と、重ねるって書くんだ。ぜんぜん違う」
「な、なに! 読み方一緒だし!」
「意味が違うだろ。お前の名前は、美しいと栄えるって書く。意味も違うし、女みたいな名前だしな!」
「お、女みたい! 失礼な奴だな! お前、今日から敵!」
「誰が決めるんだよ、そんなこと」
確かその後、クラスのみんなに避けられたっけ。
俺が悪かったんだけどさ。
でも、実際あいつの名前って女っぽいと思うんだよな。なんで友達になったんだっけ……あ、そうだ。確か冬だった気がする。
あの時、みんなが雪合戦してる中、俺は雪の城を作ってた。
そう、我ながら傑作だった!
でも、急に誰かが雪玉を投げてきて、城が崩れた。
「ははは! 悪の秘密基地は討ち取ったり!」
アイツが笑いながら叫んだ。
ムカつく言い方だな。俺が友達いないのも、こいつのせいなんだぞ。
すぐに雪玉を握って投げたら、アイツの顔面にクリーンヒット。
笑うのやめるかと思ったら、急に真顔になった。
「……」
「なんだよ。怒ったのか? かかってこいよ、雪合戦なら受けて立つ!」
「……」
「おい。泣いたりしてないだろうな?」
「お前……」
「は? 俺?」
「お前、理想のピッチャーだ! やっと見つけた! さっきの投げ方、完璧だった!」
「は? ピッチャー……え? それって食べ物? 興味ない」
「食べ物じゃねえよ! ピッチャーってのは、投げる人だ!」
「英語なんかわかんねーよ!」
「友達になろう!」
「お前、さっき敵って言っただろ!」
「あれは田中くんだ」
「人を勝手に巻き込むな!」
……で、なぜか親友になった。
たまたま家が近かったし、気づいたら一番の友達になってた。
今でもあんま友達多くないし、アイツがいなかったら、たぶんゼロだったな。
アイツはいつも、俺をどこかに連れまわすんだ。
明日もきっと、どこかに連れて行かれるんだろうな。
そして迎えた次の日。
アイツは遊びに誘ってきた。ドアを開けたら、グローブとボールを持って、キャッチボールの準備万端だった。
いつもは河原でやるんだ。夏になると水が減って、そこで遊べるんだよな。
「利、甲子園みたいに投げてみて」
「はぁ?」
「バーン! って感じで、バッ! って!」
「なにそれ、わかんねーよ!」
「いいから投げろって」
「わかった。くらえ、ストレート!」
「うおっ! おっと。ナイスボール、ナイスボール!」
相変わらず、アイツはどんな球でもキャッチする。
べつに俺は野球がしたいわけじゃないけど、まあ、お人よしなんだろうな。
「次はフォークで!」
「お前、取れるのかよ?」
「この白幸美栄さまにかかれば、どんな球でもお茶の子さいさい! かかってこい!」
「口だけは一人前だな! ほらよ!」
「ナイスボ――うぐっ」
「手首、変なふうに曲がった? ざまあみろ!」
「うぐっ……」
「……美栄?」
どうした? また大げさにやってるだけか?
こいつはよくこうやってみんなを笑わせてる。また、ふざけてるだけだよな。
「おい、やめろよ。そんな冗談、笑えねえって!」
「はあ……はあ……」
息が荒い。汗もすごい。
その時初めて気づいた。こいつ、冗談じゃなかった。マジだったんだ。美栄が苦しんでて、俺、何もできない。
「美栄! 待ってろ! 誰か……執事とか呼んでくる!」
「利……はあ……はあ……」
走った。
どれだけ走ったか、覚えてない。ただ、怖かったってことだけは、なんとなく覚えてる。
俺たちが戻った時には、美栄はもう動かなかった。
一緒に行きたかったけど、執事の人に「ダメだ」って言われた。
子どもだけじゃ病院に入れないんだって、確か。
大丈夫。
絶対大丈夫だ。
だってあいつは白幸美栄だぞ? こんなことでくたばるような奴じゃない。絶対!
明日になったらまた、あのブサイクで変な笑顔を見せてくれるんだ。
だって、それが当たり前だったから。
ずっと一緒にいるのが当たり前で、それが永遠に続くって、疑わなかったから。
――でも、世界はそうできてなかった。
世界は、そんな約束、してくれなかった。
次の日、白幸家に行ったら、そこには何もなかった。ただの空き家。
いつもの車も、人もいなくて、まるで最初から誰も住んでなかったみたいだった。
美栄も、みんなも、いなくなってた。
俺に、さよならも言わずに。
そうか。置いてったのか、あいつは。
嘘つき。
美栄の嘘つき!
ああ……
これからどうしよう。たぶん、また一人だ。
またあの、誰もいない教室で、一人でいるんだろうな。
サラバ。
親友。
こんにちは、kunouです。
これは初めての作品で、文章を書く練習も兼ねています。いろいろな人の文章や表現の美しさに感動して、「自分も書いてみたい」と思ったのがきっかけです。
自己表現はあまり得意ではなくて、いつもどこか足りない気がしてしまうのですが、思い切って作品を作ってみました。
よければ、コメントをいただけると嬉しいです。アドバイスや感想、批評なども大歓迎です!
もし誰かが優しくコメントしてくれたら、きっと嬉しくて泣いてしまうと思います!




