第六章 別れと再会
夜が明けはじめた。
リュエル村の空が、少しずつオレンジ色に染まっていく。
鳥が鳴き始め、風が冷たさを帯びてくる。
私は目を覚まし、隣を見た。
ミケは村の丘の上に座って、静かに空を見上げていた。
「……おはよう、ミケ」
「おはようございます、ご主人」
その声が、少しだけ、遠くに感じられた。
私は彼の隣に座った。二人で、空を見上げる。
「もう、朝ですね」とミケが言った。
「……うん」
私にはわかっていた。
これが、別れのときだと。
「そろそろ……」
「うん。なんとなく、わかる。戻る時間だよね」
ミケは黙ってうなずいた。
私は言葉を探した。
でも、上手く見つからなかった。
ただ胸がいっぱいで、何から言えばいいのか分からなくて。
ミケは、やさしい微笑みを浮かべて言った。
「ご主人、あなたは、もう前を向いて歩いていけます。
だから……この世界は、少しお休みです。」
「……さみしいよ」
「ええ、僕もです」
ミケは私の頬にそっと手を伸ばした。
その手は、あたたかくて、やさしくて、懐かしくて。
「でも、これはお別れではありません」
「覚えていてください。
あなたが、誰かを好きになって、
前を向いて、幸せになっても——それでも、僕は、変わらず、あなたのそばにいます。
あの日あなたを選んだのは、僕ですから。」
「もし辛いことがあったら、蝉の声が聞こえる昼間に、少しだけ眠ってください。
その時は、またお話しましょう。」
「そして、また一緒に昼寝をしましょう。
何も言わなくていい。
そばにいて癒してあげます。」
私は涙をこらえきれずに、ミケに飛びついた。
「ありがとう、ミケ……ほんとうに、ありがとう」
ミケの腕がそっと、私の背中を抱きしめた。
「行ってらっしゃい、ご主人。そして——幸せになってください。」
視界が白く染まっていく。
ミケの姿が、遠ざかっていく。
でも、彼の声だけは、はっきりと聞こえた。
「僕は、ずっと、あなたの味方です。
ご主人、愛しています。
幸せになってください。」




