表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十龍城砦  作者: 月ーん
第二章
34/34

偽陽

蛾骸下層のシャッター街、

崩壊したアーケードの下には段ボールが散乱する。

剥がれ落ちた看板、放置された自転車、蜘蛛の巣が張った暖簾、

その一つ一つには黄色い紐が結ばれ、風に靡くことなく存在を主張している。


「アタリ」

そんな寂れた街に響く、ガサついた声。

片やタンクトップ、片やジャージ姿の二人の男。

彼らが囲むのは、木板に格子線を引いただけの簡易的な碁盤。

カチリ

軽快な音を鳴らし、一つの白石が置かれた。


「兄貴ぃ、ちったぁ加減してくださいよ」

「うるせぇな。さっさと次のを置け」

どこか冷めた声で、兄貴と呼ばれた男は煙草に火をつける。

胡座をかいた膝に肘を置き、煙を吐いた。

目の前にあるのは優勢な白と劣勢な黒。


カチ

そして、見当外れな位置に加えられた黒い石。

「へたっぴだな、お前」

ククッ、と嘲笑を漏らせば──


ダァン


──碁盤に赤が飛んだ。





「あの、」

碁盤が汚れる一時間前、事務室にて。

目まぐるしくスクロールされていく液晶を前に、千樹が声を上げた。

「もうちょっとゆっくりにしてもらえると...目が追いつかなくて。すみません。」


「...」

千樹の言葉に、マウスホイールを回転させる指が止まる。

クリック音と共に画面が一番最初に戻された。

「ありがとうございます」

「...」

無視ではない沈黙。

慎重にスクロールが再開される。


「おっせ」

今度は海里が声を上げた。

目の前の画面は、動いているか怪しい速度で移動している。

『下手くそ。』

「黙れ」

低い声と共に、再度マウスホイールに指がかけられた。


二人と一匹に囲まれながら、武下は旧型のパソコンを操作する。

足元のゴミ箱には二枚の絵。

これといった特徴もなく、輪郭だけが大きく歪んだ似顔絵らしきもの。

海里と千樹がなんとか描き上げたそれは、お世辞にも上手いとは言えず。

売人の手がかりを無くした三人と一匹は一か八か、

過去の逮捕者の中から見覚えがある顔を探すことにした。


「こいつかもしれねぇ」

程よい速度でスクロールされていく画面。

細かに揺らぐ液晶を睨み、海里が言った。

武下が画像をクリックする。


【飯島栄治、強盗殺人罪。その他詐欺、窃盗──により死刑。執行済み】


「どうだ?」

『死刑執行済みって書いてあるけどねぇ、読めないの?』

「よめねぇよ!...こいつは?」

カチリ、クリック音が鳴る。


【コウヒ、狒々(ひひ)族。食人罪。無期懲役。】


『むきちょうえき、わかる?』

「どーゆう意味だ」

『さぁ?』

リョウは肩をすくめる。


「あっ!」

突然、千樹が画面を指差した。

武下がカーソルを移動させる。

「この顔!この人だった気がします!」

クリック音。

画面が白んだ直後、文字が現れる。


【柴島ツヅラ。黄巾社、元構成員。窃盗、詐欺、恐喝により懲役九年。五年前に出所済み。】


『ビンゴ』

黄巾社。その三文字にリョウは目を細める。

14年前、一人の犠牲を出し、管理局が解体したヤクザ組織。

全盛期には湿下暗を牛耳るほどだったか、

その残党ともなればアルカドールを持っていてもおかしくはない。


『これ捨てといて』

リョウはスープまで飲み干した空容器を咥え、差し出した。

骨ばった手がそれを受け取る。


ガコン

薄い発泡スチロールが、赤い蓋と共にゴミ箱へ投げ込まれた。





時は現在、碁盤に赤が飛んだ直後。

蛾骸下層のシャッター街に、一発の銃声が木霊していた。


「ぁんだぁてめぇら!」

囲碁を打っていたらしい二人の男。

その片方が碁盤を蹴飛ばして立ち上がる。

頬に走る一筋の赤は、武下の放った銃弾が掠ったもの。

「不意打ちで殺し損ねるタァ、随分な腕前だなぁ!」

男は刺青だらけの腕を振った。


たったそれだけの合図で、あちこちから聞こえてくる武器を構える音。

それもそのはず、

縄張りを主張するように黄色が散りばめられたここは、黄巾社の残党たちのアジト。

人数が少ないわけがない。

管理局を恨んでいる者、居場所を脅かす存在に怒る者、単に他人を傷つけたい者。

その殺気の一つ一つが、海里の毛穴一つ一つに刺さる。


「兄貴を撃ちやがって、覚悟はできてんだろうなァ!」

もう片方がガラついた怒鳴り声を上げた。

向けられた殺意たちが一段と濃くなる。

海里はジャンパー下から剣鉈を取り出した。


「殺すな。」

左手の銃を握り直し、武下が海里に囁く。

「わぁってるよ。目立つ方がいんだろ?」

武下の前に一歩出るようにして、海里は返す。


全盛期の力を失い、チンピラに毛が生えたような存在まで落魄れた黄巾社との戦闘は正直、

すぐに終わらせようと思えば終わらせられる。

だが、それでは意味がない。

怪しいほどに長引かせる必要がある。

見せかけの陽動作戦、それが四人が取った作戦だった。


今の黄巾社に、アルカドールのような新薬を作る力はない。

確実に別の組織が絡んでいる。それも、

そこそこデカく、それでいて管理局に存在を感知させないだけの実力を持った組織。

こっそり探しても、普通の陽動作戦でも、四人ではリスクが高い。

ならば、と取った二重返しの作戦。

本来苦戦しないはずの黄巾社に対し長時間の戦闘を行い、隠れた本命を警戒させる。

だが実際には、何も裏で動いていない。

本当に仕掛けるのは、長引かせた黄巾社との戦闘が終わった後。

こちらの陽動作戦が失敗したと思わせ、油断させたところで本命を動かすというもの。


「手加減してやってんのがわかんねぇかよ!」

剣鉈を構え、海里は叫ぶ。

盗みとも、訓練とも、今までの任務とも違う、肌が痺れるような感覚。

アルカドールの製造場所、鬼灯の花畑を見つけられるかは今この瞬間から掛かっている。

役に立てるか、立てないか。

海里は震える息を呑み込んだ。

「落ちるとこまで落ちた黄巾社サマに同情してやってんだよ」

十龍城砦

妖と人間が共存する世界。剥き出しの鉄骨が不安定に上へ上へ伸びた構造

踏み外せば下に落ちそうな不安定な足場、空気の通り道のない暗い街、澱んでカビ臭い空気、薄暗く闇を照らす提灯、目が痛いほどに光るネオン、人間と妖、

閑黄朝(かんおうちょう、富裕層)、中梁層(ちゅうりゃんそう、庶民)

蛾骸下層(ががいかそう、貧困層)、湿禍暗(しっかあん、裏社会)



均衡管理局(妖と人間の均衡を保つ機関、治安管理局ともいう) 中梁層

人間局員:スーツのズボン、シャツ、管理局と背に書かれたジャンパー、

     18歳から局員として働く箱子と、18から訓練を始めて20歳からの一般

妖局員 :和装、勾玉円紋の羽織

     教官が可と判断してから入局

治安が全く改善しない中、税金泥棒どもなど暴言を浴びせられることも。

管理局のポストには毎日のように脅迫めいた手紙が届く。

箱子:管理局が買取り、訓練を積ませてきた子供。主に人間。

   管理局に貢献するためだけに育てられる。

   逆らえないよう従順を強制する桔梗の煮汁を飲まされる。


リョウ 200〜300歳 182cm 均衡管理局所属 狐の妖  中梁層出身

狐色の癖毛、狐の耳と尾、丸い吊り目

普段の言動から、軽い男と評されているが、人間に対してはなんとなく壁がある。コミュニケーション能力に長けており、仕事はできる。自由人。身体能力はいまいちだが、術の扱いや交渉能力に長ける。 人間に比べれば長寿だが妖の中では若い方。面白そうだからと入局して以来、50年ほど所属。

教官として局員養成も仕事に入ってるが(現在休職中)、まともにやってない。

狐の姿になったが、その中身は変わらない。


武下律 24歳 173cm 均衡管理局所属(教官) 人間 蛾骸下層出身

肩まで伸びた黒髪のハーフアップ、三白眼の鋭い目つき(隈つき)、無表情

若手でありながら優秀。ただし、めちゃくちゃ寡黙で無愛想。真面目。食事も睡眠もおろそかにしがちなので華奢。無愛想で人当たりも悪いが、やるべきことはこなす。悪いやつじゃないというのが周りからの評判。

聴力を失い杖を必要とするようになったものの、相変わらず戦闘能力に長ける。術への耐性も健在。

教官として局員養成も行なっている(現在休職中)。幼い頃に管理局に売られ、以来18歳で入局するまで訓練させられてきた(いわゆる箱子)。

情操教育を受ける機会がなかった。


海里 18歳 158cm 均衡管理局所属 人間(新人) 蛾骸下層〜湿禍暗出身

黒く短い癖毛、意志のある力強い目、仏頂面

小柄ながら筋肉質。盗みを重ねて生きてきたが、18になり管理局の訓練生となることができるようになったので入局(管理局の方が稼ぎがいい)。自分が生き残ること、稼ぐことに貪欲な少年。気に入らない者には生意気な態度を取るが、認めた者には従順。喧嘩っ早く乱暴な性格。教養はない。

千樹とはよく衝突。危機察知能力が高い(勘がいい)。妖の血が薄いながらも入っている。

善意を知らない。


千樹 400歳 190cm 均衡管理局所属 龍 閑黄朝出身

青緑く透き通った長い髪、穏やかなタレ目、硝子のようなツノ

長身で美しい青年。富裕層出身の世間知らずなお坊ちゃん。

争いを嫌い、話し合えば必ず分かり合えるという甘い理想を抱きがち。

訓練生になってからかれこれ数十年立つが、未だに教官からの可がおりない。

海里とはよく衝突。

悪意を知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ