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十龍城砦  作者: 月ーん
26/29

僅遂

中梁層と蛾骸下層、その狭間。羽虫が集る街頭の下。

油が酸化したような腐臭は、路地の匂いか自分の体臭か、わからない。

目が霞む。息が切れる。腕が、足が震える。

なぜかコートを欲しがった少年に渡された三万円。

くしゃくしゃになっていない札なんて都市伝説だと思っていたが、今確かに右手にある。

指はとうの昔に言うことを聞かなくなっているが、落とさないようなんとか握り込む。

これさえあれば、渇いた体を落ち着かせられる。天国へ行ける。

あのトぶような快楽を知ってしまえば後戻りできない。しようとも思わない。

「ぁ」

突然、視界に敷き鉄板が広がる。どうやら転んだらしい。

神経なんぞとっくに腐っているから、痛みはない。

立ち上がらなければ。だが腕に力が入らない。鉄板の上を手の平が滑る。


「兄ちゃん、生きてる?」

肘を震わしていれば、聞こえてきた男の声。

男は俺を見て顔を引き攣らせた、ように見える。

失礼なやつだ。

だがそれよりも、男から()()()()がする──

「く、クれ!持ってる、るんだろ?金ならある!」




「たった三万円?」

「ハヤくクれ!」

「うぉ、必死。」


路地の角、千樹と海里は息を潜めていた。

視線の先には放浪者と売人の男。

臭いを纏ったコートを羽織った千樹は眉を顰めていた。

薬物中毒者を辿れば、売人や売買経路を特定できる。

なるほど、自分には出てこない発想だ。

しかも成功している。

だが...

任務のためといえ、薬物に手を伸ばす機会を与えると言うことは

既に化膿していたあの腕に注射痕を増やすと言うこと。

「あの人の体は、どうなってしまうのでしょうか...」

「知ったことじゃねぇだろ。」


「ほらよ。」

売人は小袋を取り出した。

透明なビニールの中で白い粉が揺れる。

「ちゃんと溶かして使えよ。」

「ぁア!」

ひったくるように、放浪者はそれを掴む。

溶かせと言われたのにも関わらず、袋ごと口へ突っ込んだ。

口の端から粉を溢れさせながら、麻痺した顎で咀嚼する。



「死ぬな、あいつ」

海里は呟いた。隣の気配の変化にも気づかず、思考を巡らせる。

溶かして注射する白い粉。

妖骨か、狂骨の類。

どちらにしてもよく見る代物。

最も手軽で、危険な麻薬。

流通経路は五万とある。

面倒なことこの上ないが、次は売人の方を尾行する必要があった。

「おい」

海里は千樹の方を向いた。

だがそこに千樹の姿はない。

「は...?」


「吐き出してください!早く!」

代わりに聞こえてきた怒鳴り声。

角から顔を出せば、千樹は放浪者の肩を揺すっていた。

涎を垂らし、泡を吹く放浪者の首が揺れている。

「なんだお前!」

売人が叫んだ。

千樹に突き飛ばされたのか、尻餅をついている。


さっきまで、ほんの10秒前と突然に変化した状況。

龍族の透き通るような角だけがキラキラと光る。


「クソ!何なんだよ!」

呆然とする海里の脇を、売人が足を滑らせながら走り抜けた。





提灯が揺れる繁華街

赤と黄の光に染まり、彼女が振り返った。

「リョウ!」

弾けるような笑顔が、ふんわりとした赤い髪が、

可愛くて、愛おしくて、

名前を呼ぼうと口を開いて、

そして気付く。

これは夢だと。

それも、すこぶるタチの悪い。

「勘弁して欲しいんだけどなぁ」

苦笑を漏らせば、彼女は不思議そうな顔をする。

どうにか覚める方法はないものか。

彼女の髪に触れようと手を伸ばす。


その時、背中に激痛が走った。




『いった。』

中梁層、管理局事務室。

目を覚まして早々、リョウは顔を顰めた。

未だ背がヒリヒリする。

『もぅ少し優しぃく起こせないわけ?』

「えー?却下かもです」

『っ...!』


悪態をつけば返ってきた声。

寝起きのぼやける視界の中、リョウは息を呑んだ。

だって、()()がいたから。

『なんで、ここに、夕陽』

「あれ、まだ寝ぼけてます?朝奈ですよーこんにちはー」

彼女が視界の中心で手を振る。

だんだんとピントが合ってくれば、

そこにいたのは彼女ではなく、栗毛の局員だった。

「説明会の流れ、決まったので起こしましたよ。」


ニコリと微笑む朝奈を前に、リョウは記憶を辿る。

確か、民衆の溜まりに溜まった不信感を拭うために説明会を開くと言う話だったか。

フルーツバスケットの話を聞いたところまでは覚えている。

『だからって抓るかねぇ?』

「居眠りしていた分際で随分と偉そうですね。」

横から、尖った声。

加賀だ。

『瞑想型思考って言ってくれる?』

「はぁ...?」

こっちを見下す冷めたようなタレ目。

そうそうこれこれ。

目が覚めてきた。


『で、決まったの?』

ピラリ

体を起こせば、紙が差し出された。

『はいはい、これを読めってね。』

痩せた指、しかも無言と来れば顔を見ずともわかる。

視線を上げれば案の定、無表情の顔。

死人のような顔をしておいて、しぶとく生きている箱子。

『ご親切にどーも』

リョウは活字並みの筆跡に目を通した。




『いぃんじゃない?』

一通り読み終え、リョウは鼻先で紙を返した。

「もっと真剣に考えてください。」

加賀がそれを突き返す。

『えぇ、めんどくさ』

「その瞼引きちぎって二度と寝れないようにしてやっても良いんですよ」

「『すんごい物騒。』」

朝奈の声とリョウの念話が重なる。


ガララ ガシャン

同時、勢いよく引き戸が開いた。

劣化したレールが悲鳴をあげる。

「緊急です!」

管理局事務室、居合わせた局員が注目する中

要領を得ない声が響いた。

十龍城砦

妖と人間が共存する世界。剥き出しの鉄骨が不安定に上へ上へ伸びた構造

踏み外せば下に落ちそうな不安定な足場、空気の通り道のない暗い街、澱んでカビ臭い空気、薄暗く闇を照らす提灯、目が痛いほどに光るネオン、人間と妖、

閑黄朝(かんおうちょう、富裕層)、中梁層(ちゅうりゃんそう、庶民)

蛾骸下層(ががいかそう、貧困層)、湿禍暗(しっかあん、裏社会)

内側に進むにつれ治安が悪くなる



均衡管理局(妖と人間の均衡を保つ機関、治安管理局ともいう) 中梁層

人間局員:スーツのズボン、シャツ、管理局と背に書かれたジャンパー、

     18歳から局員として働く箱子と、18から訓練を始めて20歳からの一般

妖局員 :和装、勾玉円紋の羽織

     教官が可と判断してから入局

治安が全く改善しない中、税金泥棒どもなど暴言を浴びせられることも。

管理局のポストには毎日のように脅迫めいた手紙が届く。

箱子:管理局が買取り、訓練を積ませてきた子供。主に人間。

   管理局に貢献するためだけに育てられる。

   逆らえないよう従順を強制する桔梗の煮汁を飲まされる。


海里 18歳 158cm 均衡管理局所属 人間(新人) 蛾骸下層〜湿禍暗出身

黒く短い癖毛、意志のある力強い目、仏頂面

小柄ながら筋肉質。盗みを重ねて生きてきたが、18になり管理局の訓練生となることができるようになったので入局(管理局の方が稼ぎがいい)。自分が生き残ること、稼ぐことに貪欲な少年。気に入らない者には生意気な態度を取るが、認めた者には従順。喧嘩っ早く乱暴な性格。教養はない。

千樹とはよく衝突。危機察知能力が高い(勘がいい)。

善意を知らない。


千樹 400歳 190cm 均衡管理局所属 龍 閑黄朝出身

青緑く透き通った長い髪、穏やかなタレ目、硝子のようなツノ

長身で美しい青年。富裕層出身の世間知らずなお坊ちゃん。

争いを嫌い、話し合えば必ず分かり合えるという甘い理想を抱きがち。

訓練生になってからかれこれ数十年立つが、未だに教官からの可がおりない。

海里とはよく衝突。

悪意を知らない。


リョウ 200〜300歳 182cm 均衡管理局所属 狐の妖  中梁層出身

狐色の癖毛、狐の耳と尾、丸い吊り目

普段の言動から、軽い男と評されているが、人間に対してはなんとなく壁がある。コミュニケーション能力に長けており、仕事はできる。自由人。身体能力はいまいちだが、術の扱いや交渉能力に長ける。 人間に比べれば長寿だが妖の中では若い方。面白そうだからと入局して以来、50年ほど所属。

教官として局員養成も仕事に入ってるが(現在休職中)、まともにやってない。

狐の姿になったが、その中身は変わらない。


武下律 24歳 173cm 均衡管理局所属(教官) 人間 蛾骸下層出身

肩まで伸びた黒髪のハーフアップ、三白眼の鋭い目つき(隈つき)、無表情

若手でありながら優秀。ただし、めちゃくちゃ寡黙で無愛想。真面目。食事も睡眠もおろそかにしがちなので華奢。無愛想で人当たりも悪いが、やるべきことはこなす。悪いやつじゃないというのが周りからの評判。

聴力を失い杖を必要とするようになったものの、相変わらず戦闘能力に長ける。術への耐性も健在。

教官として局員養成も行なっている(現在休職中)。幼い頃に管理局に売られ、以来18歳で入局するまで訓練させられてきた(いわゆる箱子)。

情操教育を受ける機会がなかった。


加賀玲 19歳 155cm 均衡管理局 人間 中梁層出身

茶髪のポニーテール、タレ目

箱子。物怖じしない性格で、はっきりものを言う。しっかりしてる。

先輩後輩関係はしっかり守り敬語も使えるが、佐原やリョウに当たりが強いし尊敬はしてない。武下のことは尊敬している。母親は出産時に他界。父親と暮らしていたが、6歳の時に違法薬の所持で父親が管理局に捕まる。

服役中の父親とは現在不仲。流れで箱子となり今に至る。

野崎により、情操教育はある程度されてきた。


朝奈 21 148cm 均衡管理局所属 人間 中梁層出身

栗色の癖毛、タレ目、涙ぼくろと口元のほくろ

加賀の同期。


夕陽

故人

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