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十龍城砦  作者: 月ーん
23/29

亀裂 弍

ボォオオオ


鉄骨が赤くなるほど、

息ができなくなるほどの熱気。

巨大な炎が立ち上った。

ギィィイイイイイイ

目が痛むほどの灼熱の中、苦しみ踠く気配。

地鳴りのような断末魔が武下の全身を震わす。



直後、焦げ臭い空気を白く染める冷気。

雪の結晶が、無造作に結った髪に降りかかる。

ギシギシ ミシ パキ

急な温度変化に、あちこちで金具が弾ける。



「ーーー。」

サザメが何か言っている。

白い瞳は武下の方を向いているが、

袖で隠された口元では何を言っているかわからない。

「なんでしょうか。」

問い掛ければ、一瞬見開かれた目。

すまね(すまない)きこえざりける(聞こえないんだったな)忘れたりき(わすれていた)。」

袖を引き、明らかにされた口元。


雪が止む。冷気が晴れた。

だんだんと明確になってくる巨大な影。

八岐大蛇は焼け死んでいた。

鱗は跡形もなく、捲れた皮膚は炭になっている。

焼き切られた断面は一際黒く焦げ、結晶のようなものが煌めく。

「中々にめでたかりき(見事だった)。」

読み取れたのは、労いの言葉。

ガララ

崩れ落ちたのは、武下が目玉を撃ち抜いた大蛇の頭。




時は戻り、現在。湿禍暗のシャッター街。

「黙れ。」

放たれた殺気。

「蝌倥▽縺�!」

「蝌倥▽縺�」

鬼は黙らない。

大蛇(オロチ)を勝手につこてえ!」

安倍は声を張り上げた。

「倒されて、計画がおじゃんなってん。どないするんや。」

「しらない。おまえ、どうにかする。」

「何でや。こうなったんは自分らのせいやろ。」

「お前、嘘ついた。」

鬼が安倍を指さした。

()。鬼が生きてたと言い張る箱子。

安倍は一人の人間を思い浮かべる。



あの日、中梁層で対峙した武下とやらは想像以上に優秀だった。

左腕を折っても、骨盤を破壊しても、怯む様子がなく。

最後は自分の利き手を犠牲にした、無表情の痩せた男。

忌々しくも、死に損なった狐に全てを託した箱子。

安倍の左手に麻痺を残してみせた、憎々しい存在。


確かに、あの時呼吸はなかった。

確実に殺したはずだ。狐諸共。

だが、その前に一度

異形に仕掛けた()()()()で殺し損なっている。

不愉快だ。

不愉快だが、生きていても可笑しくはなかった。


「こっち、大蛇、なくなった。箱子、狐、生きてたせい」

佳代の件が済んでない今、篝火での自分の立場は盤石ではない。

その上、妖華には神格の妖がいる。

管理局の戦力を削げていない今、ここで対立するのは果たして得策か。


「...せやな」

地を這うような声。

鬼たちが後ずさる。


「こっちのせいやな。」

煮えたぎるものは、一度飲み込むことにした。




一週間後、中梁層。

午前8時。

わぁぁあ

大蛇に破壊された一帯、その一角で歓声が上がった。

瓦礫で塞がれていた通りが開通したらしい。


「俺の調査結果だが、」

デスクが並ぶ事務室。毎朝の朝礼。

全局員が集まる中、眼帯をつけた箱子、黒澤が言う。

「大蛇から妖華の支配術式が検出された。」

「確定ですか。」

加賀が口を開く。

「確定だ。俺の読みが正しければ、篝火も妖華も本気で潰しに来てる。気を引き締めろ。」

黒澤の声が全体に響いた。


「武下。」

朝礼直後、黒澤は杖をつく背に近づいた。

振り返った顔はいつもに増して隈が酷い。

「仮眠室に向かうとこ悪いが、この俺の質問に答えてくれ。」

「...」

無言。

それが拒絶じゃないことは承知している。

「仮局員のことだが、なぜ海里と千樹を組ませた。相性が悪い。」

「成績」

「成績?二人とも良くないが」

「...」

かつ、

武下が歩き出す。

彼の中ではもう済んだらしい。


「待て。」

黒澤は再度呼び止める。

薄い肩を掴み、振り返らせた。

「二人は何度か問題を起こしている。次に何かあれば俺の方でペアを変える。」




中梁層下部。蛾骸下層に片足を突っ込んだ場所。

「作戦を立てましょう。」

「あ?」

肺が重くなるような腐臭が漂う中、

二人は早々に衝突しかけていた。

「まず確認です。」

「いらねぇ。」

「今回の任務は、違法薬物を売買する組織の情報を掴むこと。」

「いらねぇって!!」

「そのために、心苦しいですが薬物依存に陥っている方から話を聞きます。」

「だぁらいらねぇって!聞け!!」

海里の釣り上がった眉に、千樹は眉を顰める。


「僕たち任務が成功したことないじゃないですか。

考えたですけど、作戦を立てなかったからだと思うんです。」

「ちげぇ!テメェが足引っ張ってんだ!」

「そうかもしれないですけど、そこはお互い様です。」「ぁあ!?」

「作戦を立てましょう。八岐大蛇の時も、リョウさんたちは立ててました。」




同刻。

閑黄朝、維持庁。

青草の生えた庭、縁側。

チリンチリン

軒先に掛けられた風鈴が揺れる。

「して、どうであった。」

すだれ越しに、七人衆の一人が鴉頭へ問う。

「特に変わりはございませんでした。「八岐大蛇がでたと聞いたが?」

他の一人が問う。

食い気味の問いは、焦りか、それとも恐れか。はたまた両方か。

「局員、特に箱子たちにより迅速に排除されました。」

「箱子に反逆の様子は。」

「そのような兆しはありませんでした。桔梗の煮汁を信じてよろしいかと。」

「そうか」

安堵の滲む声。

簾越し、七人衆が息をつくのがわかる。

「例の件も問題はないな。」

「順調に、かつ秘密裏に進んでおります。」


晴天の青空の下。

小鳥が羽ばたいた。

七人衆:4話登場。サザメと契りを交わした七人組。


十龍城砦

妖と人間が共存する世界。剥き出しの鉄骨が不安定に上へ上へ伸びた構造

踏み外せば下に落ちそうな不安定な足場、空気の通り道のない暗い街、澱んでカビ臭い空気、薄暗く闇を照らす提灯、目が痛いほどに光るネオン、人間と妖、

閑黄朝(かんおうちょう、富裕層)、中梁層(ちゅうりゃんそう、庶民)

蛾骸下層(ががいかそう、貧困層)、湿禍暗(しっかあん、裏社会)

内側に進むにつれ治安が悪くなる



均衡管理局(妖と人間の均衡を保つ機関、治安管理局ともいう) 中梁層

人間局員:スーツのズボン、シャツ、管理局と背に書かれたジャンパー、

     18歳から局員として働く箱子と、18から訓練を始めて20歳からの一般

妖局員 :和装、勾玉円紋の羽織

     教官が可と判断してから入局

治安が全く改善しない中、税金泥棒どもなど暴言を浴びせられることも。

管理局のポストには毎日のように脅迫めいた手紙が届く。

箱子:管理局が買取り、訓練を積ませてきた子供。主に人間。

   管理局に貢献するためだけに育てられる。

   逆らえないよう従順を強制する桔梗の煮汁を飲まされる。


武下律 24歳 173cm 均衡管理局所属(教官) 人間 蛾骸下層出身

肩まで伸びた黒髪のハーフアップ、三白眼の鋭い目つき(隈つき)、無表情

若手でありながら優秀。ただし、めちゃくちゃ寡黙で無愛想。真面目。食事も睡眠もおろそかにしがちなので華奢。無愛想で人当たりも悪いが、やるべきことはこなす。悪いやつじゃないというのが周りからの評判。

聴力を失い杖を必要とするようになったものの、相変わらず戦闘能力に長ける。術への耐性も健在。

教官として局員養成も行なっている(現在休職中)。幼い頃に管理局に売られ、以来18歳で入局するまで訓練させられてきた(いわゆる箱子)。

情操教育を受ける機会がなかった。


海里 18歳 158cm 均衡管理局所属 人間(新人) 蛾骸下層〜湿禍暗出身

黒く短い癖毛、意志のある力強い目、仏頂面

小柄ながら筋肉質。盗みを重ねて生きてきたが、18になり管理局の訓練生となることができるようになったので入局(管理局の方が稼ぎがいい)。自分が生き残ること、稼ぐことに貪欲な少年。気に入らない者には生意気な態度を取るが、認めた者には従順。喧嘩っ早く乱暴な性格。教養はない。

千樹とはよく衝突。危機察知能力が高い(勘がいい)。

善意を知らない。


千樹 400歳 190cm 均衡管理局所属 龍 閑黄朝出身

青緑く透き通った長い髪、穏やかなタレ目、硝子のようなツノ

長身で美しい青年。富裕層出身の世間知らずなお坊ちゃん。

争いを嫌い、話し合えば必ず分かり合えるという甘い理想を抱きがち。

訓練生になってからかれこれ数十年立つが、未だに教官からの可がおりない。

海里とはよく衝突。

悪意を知らない。


サザメ 1800歳 150cm 均衡管理局所属 雪女 閑黄朝出身

雪のように白い髪、透き通るような肌、儚い美女

白銀の着物、青銀の羽織。

妖の中でもきっての年長者。古風な喋り方。

敵には容赦しない。

人間が触れれば直ちに低体温症不可避。

桔梗の契りによって力を制限されている。



篝火(篝者)

人間至上主義の過激派組織

陰陽師の子孫が多い。安倍、賀茂


安倍晴夜 33歳 161cm 人間 篝火所属

糸目、黒い長髪

人類最強。激しい人類至上主義。妖の血を含む存在も、妖の肩を持つ存在も嫌い。

だが人間(妖とつるんでいるものは人間と思っていない)に優しい。

大阪弁。アクセサリー沢山。



妖華(華衆)

妖至上主義の過激派組織

人間に嫌われてきた妖が多い。鬼、怪異、

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