表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十龍城砦  作者: 月ーん
21/29

淡嫌

湿禍暗。十龍城砦の裏社会。

閑黄朝のような穏やかさも、中梁層のような活気もない。

清らかな空気や油臭さの代わり、甘さや焦げ臭さが漂うそこ。

息をするだけで敵意が肺に入ってくるような心許なさ。

人間か妖か、種族を判別するのがやっとな闇の中

気持ちばかりに辺りを照らす提灯でさえ、こちらの呼吸を早くする。



木枠に金属が嵌め込まれた扉。

赫い提灯に照らされ、一際妖しく浮かび上がった篝火の根城。


その最奥、赤を基調に粧飾された部屋。


「何のつもりや。」

芯まで滲みる冷ややかな声。

ピアスが揺れ、カチャリと音を立てた。

漆喰の塗られた椅子に座り、こちらを見下ろしてくる安倍。

「佳代。」

上から降ってくる怒気に、佳代の肩が上がる。

「ごめんなさい...」

「ちゃう。」

また一音下がった声に、佳代は口を硬く結んだ。

「もうしないからぁ..っ...」

「ちゃうわ。何当たり前のことを言うとんねん。」


「...っひぐ」

ぽたり

佳代の目から涙が落ちた。

絨毯の上に落ちたそれは、滲むことなく粒になる。

「何泣いとんねや。悪いのは自分やろ。」

「晴夜様」

見かねたように、側近が声をあげた。

「佳代様もまだ幼いですし、」

「それが何や。関係あらへん。」


「佳代。」

安倍はもう一度名前を呼ぶ。龍族に抱えられ、安倍が来いと言っても拒否した佳代。

管理局の連中(ゴミ)に懐きかけていた存在に対して、最後のチャンスだと告げるような、痛い声。

ずびっ

佳代は鼻を啜った。

「ゴミどもを誘き寄せろとは言うたが、仲良うせぇとは言うてへんぞ。」




中梁層、管理局拠点。視察前日。

滑りの悪い引き戸を無理やり開ける。

外から差し込んだネオンが影を伸ばした。

敷居を跨げば、

喉にこびり付くようなねっとりとした空気が

湿っぽい生乾き臭に変わる。

「けほっ」

数十年ここで過ごせど、未だ慣れない。

千樹は咳を漏らした。


『おかえりなさいませ?千樹お坊ちゃま。』

「!リョウさん。」

足元から見上げてくる狐に、千樹はしゃがむ。

手入れされた翠の髪が床を摺った。

「ただいま戻りました。」


『順調そうだねぇ』

「そうでもありません。」

千樹は苦笑を漏らす。

『知ってる。』

細められた吊り目に、片方が上がった口角。

狐の姿になっても変わらない表情。

ゆらりと揺れる尾が、人型だった頃と重なる。

『短気くんと(はぐ)れたんだって?』

「はい。」

『何してたの?』

「ひたすら道に迷ってました。」

『へぇーえ、ごラクさま。』

「ごラクさま?初めて聞きます。中梁層の言葉ですか?」


リョウの目が丸まった。

「あれ?僕変なこと言いました?すみません。」

『いぃや、いいよ。忘れて。』

「わかりました。」

『素直だねぇ、お前。感心するよ。』

「ありがとうございます。」

『...。まぁいいや。

ちょっと坊ちゃんにお願いしたいことがあって、聞いてくれる?』

「僕にできることならなんでも。」

『妖力ちょうだい』

「妖力ですか?全然いいですけど、どうしてですか?」

『狐の姿になってから早一週間。

ちょっとずつ回復するもんだと思ってたけど、まったくそんな兆しがなくてねぇ。

このまんまだと本当にただの狐になっちゃうから、その前にね。』

「応急処置ですか。」

『そゆことぉ。』




「揃いました。」

最後の一人が定位置についたのを確認し、加賀が言う。

管理局三階、会議室。

白髪の男を中心に、椅子を使う様子もなく整列した箱子たち。

ジャンパーに印刷された均衡管理局の文字が等間隔に並ぶ。


「最終確認。」

白髪の男が口を開いた。

管理局局長、人生の全てを管理局に捧げた人間。

顔には皺ができながらも、決して立ち姿が歪むことはない。

「掃除。56番通り、済。」

武下が言う。

「同じく67番通り、済。」

「118番通り、同じく。」

「289番通り、292番通り、同じく。」

他の箱子も続く。

無駄という概念を切り捨てた空間の中、

淡々と報告がなされていく。


「641番通り、同じく。」

最後の一人が告げた。

「その他、未対応事項。」

局長は再び口を開く。


一拍の間。


「以上、解散。」

会議は終わった。

箱子たちは一斉に動き出す。

扉に向かい、密集する。


ヒョォ

突然、風を切る音。


カランカラン

武下の杖が転がった。

真っ二つに折れ、破片が飛び散る。


「よろしい。」

局長の声、蹴りを放った張本人。

「使えるな。」

避けるに十分な空間が無いなか、

武下はそれを杖で受け止めた。




カタカタカタカタ キィ

視察当日。

中梁層の大通りに自走駕籠(かご)が止まった。

四尺程の車輪にぶら下がった駕籠、

木彫りのそれには「維持庁」の文字。

上質な墨特有のテカりが、青いネオンを映し出す。

「お疲れ様でございます。」

管理局長が頭を下げた。

衰えながらも、鍛えられてきただろう体が綺麗に曲がる。


「ご苦労。」

出てきたのは、鴉頭の男。

紫紺の着物にバンカラマント。

頭に乗せたカンカン帽を右手で外した。

預かろうと、河童が手を伸ばす。

「こちらに」

「結構。」

サッと引かれた手。

「預けるほどのものではない。」

細められた目、下がった口角。

カチ カチ

鴉が(くちばし)を鳴らした。

十龍城砦

妖と人間が共存する世界。剥き出しの鉄骨が不安定に上へ上へ伸びた構造

踏み外せば下に落ちそうな不安定な足場、空気の通り道のない暗い街、澱んでカビ臭い空気、薄暗く闇を照らす提灯、目が痛いほどに光るネオン、人間と妖、

閑黄朝(かんおうちょう、富裕層)、中梁層(ちゅうりゃんそう、庶民)

蛾骸下層(ががいかそう、貧困層)、湿禍暗(しっかあん、裏社会)

内側に進むにつれ治安が悪くなる



均衡管理局(妖と人間の均衡を保つ機関、治安管理局ともいう) 中梁層

人間局員:スーツのズボン、シャツ、管理局と背に書かれたジャンパー、

     18歳から局員として働く箱子と、18から訓練を始めて20歳からの一般

妖局員 :和装、勾玉円紋の羽織

     教官が可と判断してから入局

治安が全く改善しない中、税金泥棒どもなど暴言を浴びせられることも。

管理局のポストには毎日のように脅迫めいた手紙が届く。

箱子:管理局が買取り、訓練を積ませてきた子供。主に人間。

   管理局に貢献するためだけに育てられる。

   逆らえないよう従順を強制する桔梗の煮汁を飲まされる。



リョウ 200〜300歳 182cm 均衡管理局所属 狐の妖  中梁層出身

狐色の癖毛、狐の耳と尾、丸い吊り目

普段の言動から、軽い男と評されているが、人間に対してはなんとなく壁がある。コミュニケーション能力に長けており、仕事はできる。自由人。身体能力はいまいちだが、術の扱いや交渉能力に長ける。 人間に比べれば長寿だが妖の中では若い方。面白そうだからと入局して以来、50年ほど所属。

教官として局員養成も仕事に入ってるが(現在休職中)、まともにやってない。

狐の姿になったが、その中身は変わらない。


武下律 24歳 173cm 均衡管理局所属(教官) 人間 蛾骸下層出身

肩まで伸びた黒髪のハーフアップ、三白眼の鋭い目つき(隈つき)、無表情

若手でありながら優秀。ただし、めちゃくちゃ寡黙で無愛想。真面目。食事も睡眠もおろそかにしがちなので華奢。無愛想で人当たりも悪いが、やるべきことはこなす。悪いやつじゃないというのが周りからの評判。

聴力を失い杖を必要とするようになったものの、相変わらず戦闘能力に長ける。術への耐性も健在。

教官として局員養成も行なっている(現在休職中)。幼い頃に管理局に売られ、以来18歳で入局するまで訓練させられてきた(いわゆる箱子)。

情操教育を受ける機会がなかった。


千樹 400歳 190cm 均衡管理局所属 龍 閑黄朝出身

青緑く透き通った長い髪、穏やかなタレ目、硝子のようなツノ

長身で美しい青年。富裕層出身の世間知らずなお坊ちゃん。

争いを嫌い、話し合えば必ず分かり合えるという甘い理想を抱きがち。

訓練生になってからかれこれ数十年立つが、未だに教官からの可がおりない。

海里とはよく衝突。

悪意を知らない。


加賀玲 19歳 155cm 均衡管理局 人間 中梁層出身

茶髪のポニーテール、タレ目

箱子。物怖じしない性格で、はっきりものを言う。しっかりしてる。

先輩後輩関係はしっかり守り敬語も使えるが、佐原やリョウに当たりが強いし尊敬はしてない。武下のことは尊敬している。母親は出産時に他界。父親と暮らしていたが、6歳の時に違法薬の所持で父親が管理局に捕まる。

服役中の父親とは現在不仲。流れで箱子となり今に至る。

野崎により、情操教育はある程度されてきた。




篝火(篝者)

人間至上主義の過激派組織

陰陽師の子孫が多い。安倍、賀茂


安倍晴夜 33歳 161cm 人間 篝火所属

糸目、黒い長髪

人類最強。激しい人類至上主義。妖の血を含む存在も、妖の肩を持つ存在も嫌い。

だが人間(妖とつるんでいるものは人間と思っていない)に優しい。

大阪弁。アクセサリー沢山。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ