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十龍城砦  作者: 月ーん
18/29

短穏

ばちゃばちゃ

鼠が水溜まりを駆け抜ける。

波打つ水面が煙草を揺らした。

ぬめり、ギラついた体をそのままに、汚れた鼠は屋台へ消えていく。

「しっし!」

店主は箒片手に追い出す。


その真上、赤く点滅するカメラ。

古びたそれは、蜘蛛に巣を張られながらも監視を続けていた。




ズゾ

箱型のパソコンの前で、野崎はカップラーメンを啜る。

モニターに映し出されているのは、鼠と格闘する店主。

『しっし!あっちいけよ!』

ガサついた音声が流れる。


「それ何ですか?」

ひょいと覗き込んできた頭。

朝奈だ。

加賀と同じくタレがちの目が、野崎を見つめる。

「監視カメラの映像だ。」

「ちが、ふふ、違いますよ。ははっ」

ラーメンを飲み込み答えれば、朝奈は笑い出す。

野崎の手元を指差した。

「それ、ラーメン何味ですか?って聞いたんです。ふふ、はぁっ」

野崎が何も言わずとも、朝奈は笑い続ける。

落ち着くどころか、どんどんヒートアップしていく。

「そんなに面白いか、今の。」

「うぅん...」

涙を浮かべ、朝奈は声を震わせた。

「どっち、どっちだそれ。」


ザザーザ...ザー

突然走るノイズ。


「!」

モニターが砂嵐になった。


「故障ですか?」

朝奈が真面目な顔をしてモニターを覗き込む。

「いや、灯徽会が接続してきたんだろう。」

「え、これって管理局専用の回線使ってますよね。」

「あぁ。だが、接続できないこともない。」

「ハッキングじゃないですか。自警団がやっていいことじゃないですよ。」

「まぁ、いつまでも古いシステムを使ってる管理局にも落ち度はある。

上層部も気づいてて黙認してるんだろう。」

「まあ確かに。」


モニターの砂嵐が止む。

鼠を追い出し、箒を仕舞う店主の姿が映った。

朝奈はひょいとカップラーメンを手に取る。

「あ!」

「じゃ、お疲れ様です。」

野崎が取り返す間もなく、廊下に消えていく。

これ見よがしに一口食べるのも忘れずに。


「ったく。」

野崎は再びモニターに向き直った。

映像を切り替える。

肩を組んで歩く酔っ払い、手を繋ぐカップル、監視カメラに手を振る幼児。

十龍城砦の日常。

腕を組んで見ていると、

ふと、あるものに目が止まった。

立方体の無駄にでかいパソコン、その陰に置かれたサンドイッチ。

ご丁寧にも桜色の紙に包まれている。

「朝奈め...」

いつの間に置かれていた差し入れに、野崎の口元は緩んだ。




「それどうしたんですか。」

鑑識作業を終え、戻ってきた加賀が野崎に問うた。

デスクには、ジップロックに入った凶器や痕跡が次々と並べられていく。

その半分を、宝石や閑黄朝のブランドものが占めていた。

「朝奈がくれたんだ。」

「いいですね。」

それはそうと、と加賀は続ける。

「犯行に及んだと見られる妖、人間は見つかりましたか?」

「いや。聞き込みから目ぼしい場所を絞って見てみたが、さっぱりだ。」

「了解です。念の為、聞き込みで得た情報を教えてください。」

「あぁ。悪い、忘れてたな。」

野崎は手帳を取り出す。

「害者は困窮してたみたいだ。屋台や酒屋のゴミを漁っているところを何度も目撃されていた。」

「遺体を確認する限り、そんな風には見えませんでしたけど。」

「ある時から金持ちになったらしい。見窄らしい格好をしていたのが急に、

指輪をし、ネイルを塗り、化粧までしだした。」

「借金てことですか。」

加賀が目を細めた。

「そうだろうな。で、目撃証言なんだが、そそくさと走り去る人間がいたらしい。

共通してたのは、黒髪で身長160cm程度の若い男。」

「...」

「...」

「...」

「え?な、なん...」

加賀、野崎、遺留品を整理する河童たちが一斉に視線を向けた先、

「お、俺じゃないっすよ!?」

報告書に苦戦していた佐原が叫ぶ。



「おふざけはこれぐらいにしておいて、」

野崎が手帳を仕舞う。


「動機やらなんやら考える必要があるな。」

急に借金した理由、殺された理由、殺した理由。

野崎は鼻で息をついた。

「気を引き締めていくぞ。」

「はい。」「あの、」

加賀の返事に、被せ気味にかけられた声。

遺留品の整理を終えた河童がこちらを見ていた。

「これ、全部偽物やと思いやす。宝石も、布袋も、軽すぎやす。」

「なに?」

野崎が片眉を上げた。

別の河童が口を開く。

「ネイルも、成分調査をちゃんとしないと分かりやせんけど

粗悪品かと思いまっせ。色が悪いでっから。」

「了解した。それも含めて捜査を始める。」

十龍城砦

妖と人間が共存する世界。剥き出しの鉄骨が不安定に上へ上へ伸びた構造

踏み外せば下に落ちそうな不安定な足場、空気の通り道のない暗い街、澱んでカビ臭い空気、薄暗く闇を照らす提灯、目が痛いほどに光るネオン、人間と妖、

閑黄朝(かんおうちょう、富裕層)、中梁層(ちゅうりゃんそう、庶民)

蛾骸下層(ががいかそう、貧困層)、湿禍暗(しっかあん、裏社会)

内側に進むにつれ治安が悪くなる



均衡管理局(妖と人間の均衡を保つ機関、治安管理局ともいう) 中梁層

人間局員:スーツのズボン、シャツ、管理局と背に書かれたジャンパー、

     18歳から局員として働く箱子と、18から訓練を始めて20歳からの一般

妖局員 :和装、勾玉円紋の羽織

     教官が可と判断してから入局

治安が全く改善しない中、税金泥棒どもなど暴言を浴びせられることも。

管理局のポストには毎日のように脅迫めいた手紙が届く。

箱子:管理局が買取り、訓練を積ませてきた子供。主に人間。

   管理局に貢献するためだけに育てられる。

   逆らえないよう従順を強制する桔梗の煮汁を飲まされる。



野崎茂 42歳 190cm 均衡管理局 半妖(鬼) 蛾骸下層出身

全身毛深い、優しい目、筋骨隆々

半妖で差別を受けながらも本人の性格が良いので周りから力を貸してもらえることもしばしばあった。

友人に勧められ、20代前半で入局。

半妖なので老いにくく、実年齢より若く見える。

元箱子の育手、現加賀のバディ。武下に情操教育をうまくしてやれなかったことに罪悪感を持っている。

加賀とはたまたま担当していた事件だったので知り合う。孤児となった子供がどんな運命を辿るか知っているため、それよりはマシだろうと加賀を引き取り箱子にするよう管理局に進言。武下の経験から、加賀の情操教育に力を注いだ。加賀のはっきり言いすぎる性格に困っている。加賀は娘みたいなものだし、武下は息子みたいなもの。


加賀玲 19歳 155cm 均衡管理局 人間 中梁層出身

茶髪のポニーテール、タレ目

箱子。物怖じしない性格で、はっきりものを言う。しっかりしてる。

先輩後輩関係はしっかり守り敬語も使えるが、佐原やリョウに当たりが強いし尊敬はしてない。武下のことは尊敬している。母親は出産時に他界。父親と暮らしていたが、6歳の時に違法薬の所持で父親が管理局に捕まる。

服役中の父親とは現在不仲。流れで箱子となり今に至る。

野崎により、情操教育はある程度されてきた。


佐原実 22歳 166cm 均衡管理局所属 人間 中梁層出身

整えられた黒髪、純粋な目、健康的な体型

やる気に満ちているが空回りしがちな青年。訓練生の時、リョウと武下が教官だった。

武下のことは信頼も尊敬もしてるけど、何より怖い。リョウには懐いてる。

小型の妖が相棒(埃の付喪神、愛称:ファサ、ファーちゃん)。

本人の気が弱すぎるのでファサとの喧嘩でも負ける。


朝奈 21 148cm 均衡管理局所属 人間 中梁層出身

栗色の癖毛、タレ目、涙ぼくろと口元のほくろ

加賀の同期。


灯徽会

自警団。民衆に人気

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