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十龍城砦  作者: 月ーん
11/29

千樹

「あ、あぁ〜、可哀想に。」

幼女の泣き声が耳を塞ぐ中

聞こえてきたのは、なよっとした若い声。


ドン

肩に衝撃が走る。

錆臭さ油っぽさの中、ふわりと爽やかで場違いな香り。

海里にぶつかったのは青い着物の青年だった。

透き通るような緑がかった長髪は宝石かと思うほど美しく、

頭に生えたガラス細工のような二本の角がよく似合っている。

だが、この場所には似合っていなかった。

合成された異物のように、水と混じらぬ油のように、浮いている。


「怖かったね。もう大丈夫だよ。」

涙をこぼす幼女の頭を撫でる。

「っ、ひぐっ、ままぁ...」

「大丈夫。絶対見つけてあげるからね。」

睫毛の先まで塵一つなく綺麗に整った装い。

穢れなど知らなさそうな濁りのない声。

間違いない。閑黄朝の人間だ。


「この子に謝るべきです。」

投げかけられた声。

青年に掴まれた腕が、ぐんと引っ張られる。

「ぁあ?」

崩れる体勢。

つんのめきながら威嚇するような声を出せば、彼は眉間に皺を寄せ、口をへの字に曲げた。

爪を綺麗に切り揃えた手が幼女の肩に添えられる。

「この子と仲直りをして、一緒にママを探しましょう。」

「っは!んな面倒くせぇことできるかよ。てめぇ一人でやってろ。」

海里は二人を睨みつけた。

青年が戸惑ったような顔をする。

だが知ったこっちゃない。

育ちのいい連中と連む趣味はない。


そもそもガキは嫌いだ。

何もできないくせして、気に入らないことがあれば一丁前に泣いて要求する。

だが幸運にも、それを相手する奴が出てきた。

しかもそれがお坊ちゃんときた。

これ以上ない程に丁度良いじゃないか。


「でも僕たちバディじゃないですか!」

背を向け歩き出せば、焦ったようにかけられた言葉。

──は?

何を言っている。

海里の足が止まった。

「...ぁんだって?」

「武下さんから聞いたでしょ?僕とあなたはバディで──「あ?」

なぜここで武下の名前が出る。思わず振り返ってしまった。

「あれ、聞いてないんですか?」

青年は首を傾げた。

海里の声に怯えたように身を竦める幼女の頭を撫でながら考え込む。

「伝え忘れ?珍しいな...でもあの人に限ってそんなこと...」

「おい」

上を見上げぶつぶつと呟く彼に海里は口を開いた。

こんな、自分はお坊ちゃんですと言って回るような風貌のやつ

本来なら吐き気を催すほど拒絶感を抱く。

そう、本来なら。

武下が関わってくるなら話は別だ。


一ヶ月以上前、

武下の気配に圧倒され服従を誓った直後。

訓練とはいえ武下に攻撃をすることを拒んだ海里は、

腰を直角に曲げた姿勢から動かすことができなかった。

「来い。」

その時放たれた一言。

武下のたった二文字の命令は海里に拳を作らせた。

服従心が服従心を上回った。

それ以降、海里は死に物狂いで訓練を続けた。

手を抜けば恐ろしいことになる気がして。


「さっさと説明しろ。」

海里は正面から催促した。

武下の命令ならば、従う義務が海里にはある。

お坊ちゃんの、泥臭さなど知らなさそうな瞳が海里をとらえた。

にこり、と手本のような笑みが浮かんでいる。

「まず前提として、管理局は常に局員不足です。

常に一杯一杯だったのに、この前の異形の発現で管理局全体の業務がさらに増えて、いよいよ回らなくなったらしいんです。そこで訓練生の中から優秀な者を仮入局させて業務を分散させようって──


彼の話を要約すれば、

「業務分散のため仮入局させる訓練生に、海里は選ばれた。

同じく仮入局中のコイツとバディを組み、業務の一部を局員の代わりに行う。

夏祭りで合流し、警備をすると言うのが初任務の内容。」

と言うことらしい。

よくよく見れば、青年の着物には勾玉円紋が刻まれていた。


「僕は千樹といいます。見ての通り龍族です。

よろしくお願いします、海里さん。」

品の良い笑顔と共に差し出された手を、海里は握らなかった。




夏祭りはさらに盛り上がる。

幻術で上がる花火を見ようと集まる群衆。

母親を探し始めてから半刻ほど。

幼女、佳代を抱えた千樹の腕が痛み出す。

「ママいない...」

「いないねぇ...」

互いの声も聞き取れない喧騒の中

千樹の腕は落ちつくのか、母親が見つからずとも佳代は泣き出すことはない。

苛立ちを募らせた海里が時折舌打ちを漏らしても、反応しなかった。


ドンッ

わぁぁぁあ


急な轟。その直後、自分の声すら分からなくなるほどの歓声。

次々に上がる花火の光が、鉄骨を色取り取りに染め上げる。

幻覚で再現されたそれは、音や熱までも正確に感じ取れた。



「…クソカス!!」

二人の後ろで、海里はゴミ箱を蹴り飛ばした。

アルミ製のそれはカコン、カラカラと

軽快な音と共に中身を溢しながら転がっていく。

「ちょっと!何してるんですか!」

轟のつかの間に、千樹の咎めるような声が響く。

海里は二人に詰め寄った。

筋が浮かぶほど強く、佳代の服を掴み上げる。


「おいガキ、()()()()()なんていねぇんじゃねえか?嘘ついたりしてねぇだろうな?」

鋭く尖った声に、佳代の目が潤む。

どぉぉぉん

花火が弾け、左頬を照らした。

「いるもん!わたあめいっしょにたべようってやくそくしたもん!」

千樹の着物を掴む小さな手に力が入る。

大きな目は涙を堪えていた。

「なんてこと言うんですか!」

透き通るような青い瞳がキッと海里を睨む。

ぱらぱらぱら

小さい花火が連続して上がった。

「絶対見つけるから大丈夫。ママもきっと今頃佳代ちゃんを一生懸命探してるよ。

もう少ししたら会えるよ。」

堪えきれず涙をこぼした佳代の背を優しく撫でさとす。

「バカ言え。もう見つかんねぇよ時間の無駄だ。捨てられたんだよそいつはぁ!」

「ちがうもん!!」

「どうして!どうしてそうやってこの子を怖がらせるようなことばっかり言うんですか!」

人間、幼子、龍族。

夜空に弾ける花に目もくれず、怒鳴り合い言い争う奇妙な光景に周囲の目が集まっていた。

「こんだけ探して見つかんねぇんだ。もう蒸発したに決まってんだろ!」

「だから!どうしてそうやって...!」

「ままぁ...うぁぁぁぁ!!!」

「大丈夫、大丈夫だよ。どんな手を使っても見つけてあげるからね。」


「お、当たり?」

屋台の並ぶ通りの真ん中に波を立て広がるカオス。

そこに薄っぺらい声が落ちた。

十龍城砦

妖と人間が共存する世界。剥き出しの鉄骨が不安定に上へ上へ伸びた構造

踏み外せば下に落ちそうな不安定な足場、空気の通り道のない暗い街、澱んでカビ臭い空気、薄暗く闇を照らす提灯、目が痛いほどに光るネオン、人間と妖、

閑黄朝(かんおうちょう、富裕層)、中梁層(ちゅうりゃんそう、庶民)

蛾骸下層(ががいかそう、貧困層)、湿禍暗(しっかあん、裏社会)

内側に進むにつれ治安が悪くなる



均衡管理局(妖と人間の均衡を保つ機関、治安管理局ともいう) 中梁層

人間局員:スーツのズボン、シャツ、管理局と背に書かれたジャンパー、

     18歳から局員として働く箱子と、18から訓練を始めて20歳からの一般

妖局員 :和装、勾玉円紋の羽織

     教官が可と判断してから入局

治安が全く改善しない中、税金泥棒どもなど暴言を浴びせられることも。

管理局のポストには毎日のように脅迫めいた手紙が届く。

箱子:管理局が買取り、訓練を積ませてきた子供。主に人間。

   管理局に貢献するためだけに育てられる。


海里 18歳 158cm 均衡管理局所属 人間(新人) 蛾骸下層〜湿禍暗出身

黒く短い癖毛、意志のある力強い目、仏頂面

小柄ながら筋肉質。盗みを重ねて生きてきたが、18になり管理局の訓練生となることができるようになったので入局(管理局の方が稼ぎがいい)。自分が生き残ること、稼ぐことに貪欲な少年。気に入らない者には生意気な態度を取るが、認めた者には従順。喧嘩っ早く乱暴な性格。教養はない。勘がいい。


千樹 400歳 190cm 均衡管理局所属 龍 閑黄朝出身

青く透き通った長い髪、穏やかなタレ目、硝子のようなツノ

長身で美しい青年。富裕層出身のお坊ちゃん。訓練生から仮入局の身になって数十年。

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