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第5話 俺の仲間だ

 目を開けば、そこはダンジョンの転移門前広場だった。

 隣にはちゃんとシュナリアの姿があり、安堵の息を零している。

 広場に待機していた『第零』の職員がダンジョンから出てきた俺たちを手招く。


 そして夜鈴(イーリン)に言われていた通り生徒手帳と学生端末を渡され、使い方を教えられる。


 生徒手帳は『第零』での身分を証明するためのものだ。

 どこで撮ったのかわからない顔写真と学年、配属されるクラスなどが記載されている。

 俺は一年四組で、シュナリアも同じ。

 振り分けの方法は合格順で、一位は一組、二位は二組のように一から十組へ均等になるよう振り分けられるようだ。

 グループで合格した場合は全員が同じ組にされるらしい。


 中には学生規範が記載されているものの、治外法権を謳う『第零』に守るべき規則はほとんどない。

 あるとすれば勝手な敷地外への外出は不可能、ということくらいか。

 それでも困らないよう敷地内には生活に必要な施設があるようだ。

 後で散策してみるのもいいだろう。


 学生端末は『第零』敷地内で広く使用用途を持たせた魔術端末らしい。

 生徒間での連絡はもちろんのこと、寮のルームキーや学園内通貨の記録と決済、学園が発行するクエストの受注やパーティー募集など、多岐にわたる使用用途がある。

 特に重要なのはダンジョン内での活用方法だろう。

 自動マッピングやストレージの機能があり、ダンジョン探索をサポートしてくれる。

 マッピングや荷運びの手間が省けるのは非常に嬉しい。


 また、端末は使用者が自由にカスタマイズできるとか。

 端末に内蔵されている魔術チップのアップデートをすればストレージ容量やマップ記憶容量を増やせる。

 必要な学園内通貨のエンはダンジョンに潜って稼げということだろう。


「淵神さん、今日はありがとうございました」

「俺の方こそ助かった。同じクラスみたいだから仲良くできると嬉しい」

「……そうしていただけると助かります」


 一緒にダンジョンを探索したのだから俺とシュナリアは仲間だろう?

 水臭いことは言わないでくれ。


 今日のところは別れて、生徒手帳の敷地内地図とにらめっこをしながら自分の寮へ。

 どうにか辿り着いた天照寮は西洋風の大きな建物。

 名前が和風なのに建物だけ洋風なのはちぐはぐに思えるが、気にしても仕方ない。


 中に入ると早々にメイド服を着た数人の女性が出迎えてくれる。


「お待ちしておりました、淵神様。お部屋の方へご案内します」


 三階にある角部屋、『301』と札がかけられたそこが俺の部屋らしい。


「ご案内はここまでになります。お食事は寮内二階の食堂、ご入浴は寮内一階の大浴場をご利用いただいても構いません。また、ご用命がありましたらお部屋に備え付けの固定電話にて呼び出し頂けますと幸いです」


 メイドさんの案内はここまでのようで、一礼をして去っていく。


 ドアノブにあるパネルへ学生端末を翳すとロックが解除された。

 どんな部屋なのかワクワクしながら扉を開けると、広々とした玄関が目の前に。

 靴を脱いで上がり、短い廊下を抜けた先にはこれまた広いリビングが。


「これが一人用? 爺と暮らしていた家よりも広いぞ」


 明らかに一人で使うには広すぎる部屋だ。

 案内されたからには俺の部屋なんだろうと思いつつ、部屋を順にみて回る。


 リビングにはソファが三つと壁に大型のディスプレイ、食事をするにも寂しさを覚えるくらいに大きなテーブル、天井には豪奢なシャンデリア。

 ダイニングキッチンには色々な器具が備え付けで、巨大な冷蔵庫にはぎっしりと新鮮な食材が揃っている。

 風呂はジャグジー付きだし、トイレも別に区切られている。

 寝室はキングサイズのベッドが何故か二つも設置されていた。


「うーむ……これが普通なのか? 寮の部屋だからきっとそうなんだろう」


 深いことは考えず、明日に備えて休むことにした。

 馬鹿みたいに広い大浴場で汗を流してから食堂で訳も分からないまま提供された豪華な夕食を腹に収め、部屋に戻る。

 他の入寮者とも顔を合わせたが、会釈する程度の関わりだけ。


 バスローブのままキングサイズのベッドで眠り、翌朝。


 寝起きはすっきり。

 カーテンを開ければ晴れ渡った空と眩い陽光が差し込んでくる。


「走るか」


 備え付けのトレーニングウェアに着替えて、日課のために寮の外へ繰り出した。

 寮を出るときにメイドさんに「いってらっしゃいませ」と頭を下げられたけど、まさか24時間誰かが待機しているのだろうか。

 普通を維持してくれる彼女たちには頭が上がらない。


 外は早朝なためか、人の気配は疎らだ。

 清涼な空気。

 人里離れた山奥の冷たい空気を浴びながら、今日は寮の周りを走ろうと足を動かす。


 一、二、三と、規則正しい靴音を鳴らして寮の外周を駆ける。

 ここも庭のような扱いなのだろう。

 ふかふかな芝生と、狩り揃えられた庭木や生垣。

 東屋もあってのどかな雰囲気だ。


 一時間ほど走ったら部屋に戻り、シャワーで汗を流して登校の準備を始める。

 制服に着替え、食堂で朝食を済ませた。

 食堂には昨日と違い何人かの生徒がいたが、品定めするみたいな視線を向けられた。

 肌で感じるピリピリとした空気。


 常在戦場の意識が強いのはいいことだ。

 学園生徒は仲間であり、切磋琢磨するライバル。

 いい感じだ、燃えてくる。


 初日から遅刻しては敵わないと思い、少し早めに寮を出る。

 生徒手帳の地図を頼りに授業が行われる校舎へ。

 外観はやや古くて巨大な建物だったが、中は結構綺麗だ。

 外履きのままでいいらしく、割り振られた教室に入ると一斉に視線が集まった。


 既に数人のグループが数個出来ているようだが、どうにも様子がおかしい。

 具体的に言えば昨日の入学試験で襲ってきた集団のように上下関係が出来ている。

 偉そうな人に同調する者と、怯えながら従う者。

 中には遊び半分で暴力を振るわれていたり、胸や尻を触られている女子もいた。

 なのに抵抗しないのは『第零』の普通と受け入れているからか、抵抗しても無駄だと諦めているのか。


「おいお前、一人か? 頭を下げるなら俺の奴隷になることを許可してやってもいいぞ?」


 席に着く前に偉そうな男に絡まれてしまった。

 後ろには取り巻きの男女が何人もいる。


 人を見下すような目。

 隙だらけな身のこなしはあえてそうしているのだろうか。

 とてもじゃないが、強そうには見えない。


「聞いてんのか? 愚図はこれだから困る。おら、さっさと土下座しろよ。俺は赤羽家の柊様だぞ? 田舎者でも名前くらいは知ってるだろ。俺に媚び諂って従うのが当然なんだよ」

「そうか。悪いが俺は奴隷になるつもりはない。対等な仲間と楽しい学園生活を送りたいからな」

「……あぁ? 何言ってんだ? お前の意見は聞いてねぇよ。馬鹿でアホで弱ぇ平民風情は国の礎たる貴族様に膝ついて頭下げて奉仕すんのが当然だろうがっ!! お前ら、こいつを痛めつけてやれ。逆らったのが間違いだと後悔するようになッ!!」


 昨日もこんなことがあったのような。

 なるほど、これが『第零』の普通なのか。

 それならば仕方ない。


 しかし、教室を荒らすのは本意じゃない。

 なるべくスマートかつ穏便に片付けさせてもらおう。

 幸い制圧するだけなら簡単だ。


 殴りかかってきた拳を避け、すれ違いざまに首へ手刀を落とす。

 力加減は完璧。

 一瞬で意識を刈り取った男が倒れないように支えてから床に降ろした。


 彼らが呆けて、目をぱちくりと瞬かせる。


「……は? なんだよそれ」

「手刀で意識を奪っただけだ。そのうち目を覚ます。教室で暴れられては困るからな。まだじゃれ合う気なら付き合うが――」

「…………チッ、やめだ。こんな変な奴に構ってられるか。いくぞ」


 思ったより聞き分けが良くて助かる。

 でも、お仲間を置いていくのはいただけないな。


 なんて考えていると教室の扉が開き、シュナリアがおずおずと様子見しながら入ってくる。

 もっと自信満々に胸を張ればいいものを。

 ここにいるのは同じ新入生なのだから。


 とか思ってたら、さっきの集団が今度はシュナリアへ近づいていく。


「おいおい、悪魔憑きの吸血鬼までいるのかよっ! あいつらがこけたって話は聞いてたが、マジだったらしい」

「あなたは……」

「俺は貴族、赤羽柊様だ。お前は俺の奴隷にしてやるからむせび泣いて感謝しろ。海を渡って逃げてきた負け犬には後ろ盾が必要だろう? まあ、対価は身体で払ってもらうがな」


 見事なまでの下種顔だし、切り替えが早過ぎる。

 一人の女の子を何人もの男女で取り囲むのもいただけない。

 そして何より……仲間に手を出されては、黙ってみている訳にもいかないか。


「悪いがシュナリアは俺の仲間だ。手出しはしないでもらおう」


 囲いの外から声を上げ、割って入ってシュナリアの隣に立つ。

 シュナリアは驚きながらも流れを読んだのか、俺の手を軽く取る。


 まさか俺が庇うとは思っていなかったのだろう。

 赤羽くんの表情が歪む。


「かっこつけやがって。そんなに女の前でいい顔をしたいか?」

「仲間を仲間と言って何が悪い」

「……精々いい気になっているんだな。必ず後悔させてやる」


 盛大に舌打ちして引き上げていく。

 様子見していたクラスメイトからは控えめな笑い声が上がっていた。

 そんなに笑ってやるな、同じクラスの仲間だろう?


「淵神さん、助かりました」

「仲間だからな。助けるのは当然のことだ」

「――おやァ? うちのクラスは朝っぱらから元気だネ。よきかなよきかナ」


 気配もなく突然聞こえた声。

 反射的に振り向けば、顔を札で隠した夜鈴が隣で笑っていた。

 心臓を掴まれたような心地で様子を窺っていると、夜鈴は教壇に飛び乗って腰を落ち着け脚を組む。


「ボクはこのクラスの担任、(ソン)夜鈴(イーリン)……まあ、昨日の今日だから覚えている人もいるかもしれないネ。今年一年、よろしく頼むヨ。一年四組総勢30名のうち、いったい何人が二年生に進級できるか楽しみダ」


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これからどうなるんだろう!?!? ワクワク( ੭ ˶'ᵕ'˶)੭ ♪ ☆5入れておきました! つづき楽しみにしています!! 応援しています!!
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