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山育ちの逸般人、無法の探索者学園で成り上がる  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第11話 将来の旦那様を見つけるために

「結局受けられた授業は最後だけか」

「……誰かさんのせいで遅れましたからね」


 これでは真面目な学生とは呼べないなと思っていたら、隣からシュナリアにジト目を向けられてしまった。

 元々遅刻する時間に起きたけど、さらに遅れる原因を作ったのは俺。

 ……うむ、何も言えないな。


 授業を受け持っていた教師からも呆れた目で見られたし。

 それ以上何も言われなかったのは、それが『第零』では普通だからだろう。

 出席している生徒もクラスの半数程度だった。


「明日はちゃんと出席しよう。教養は人生を彩るとかなんとか爺も言っていた」

「良いことを言いますね。朝から不真面目な行為に励んでいた同一人物と思えません」

「付き合ったのはシュナリアも同じだろう?」

「放置したら性欲を持て余した淵神さんが誰かを襲いそうだったもので」

「信用がないな」


 そこまで節操がないとは思わない。

 シュナリアに付き合ってもらわずとも自分で処理できるわけだし。

 ……収まるかどうかは別として。


「それより既に昼なんだが、今日はどうする。こっちで食べるか?」

「そうさせてください。……というか、今後は淵神さんのお部屋でお世話になってもいいでしょうか。あんなことがあると寮で一人になるのも怖いですし」

「構わないぞ。寮のメイドさんが言っていた通り普通のことだ」

「……これでとうとう言い訳出来なくなってきましたね」

「何が?」

「傍から見れば淵神さんに囲われているのが、です」


 権力者がハーレムを築くのは珍しくない。

 日本にも一夫多妻制が導入され、少子化抑止の補助政策もある。

 しかし、俺がその予備軍みたいな扱いをされるのは少々遺憾だ。


「一応言っておくと嫌ではないですよ? 周りにそう思ってもらえるなら私としてはプラスです。変なちょっかいを出されることも減るでしょうし。言い方が悪いかもしれませんが、自分の女に横から手を出されたら誰だって気分が悪いでしょう?」

「……仲間を俺の女だなんて主張する気はないが」

「淵神さんにその気がなくとも、そう見えることが大事というだけの話です。というか、どの口で言っているんですか。この期に及んで責任を取れなんて主張するつもりはありませんけど……そのくらい、察してくれてもいいと思います」


 むっとした雰囲気。

 察してくれと言われても、山暮らしで人間関係の能力が欠如気味なのだ。


「すまない、善処する」

「……そうしてください」

「これは照れているってことでいいのか?」

「直接聞くのはどうかと思います」


 ……コミュニケーションは難しいな。


 ともかく、授業が終わったのなら教室に長居する意味はない。

 昼食のためにも席を立ち、昨日のように寮へ帰ろうとして――


「――このクラスに測定不能を出した人がいるって聞いたんだけど、誰?」


 いきなり教室を訪ねてきた女子の声が響き渡る。

 声につられて様子を見れば左右で長い黒髪を結んだ女子生徒が仁王立ちしていた。


 気の強そうな釣り目。

 眼窩には濃い赤色の瞳が嵌っていて、顔立ちはやや幼い。

 体躯も女子としては小柄だが、ピンと張った背筋や歩調、体幹などを見れば鍛えているのが一目でわかる。

 感じる魔力は少ないながらも、研ぎ澄まされたもの。


「……あの人、淵神さんを探しているみたいですね」

「らしいな」

「どうするんですか?」

「名乗り出てこよう。疚しいこともない」


 少なくとも闇討ち上等、のような人間ではなさそうだ。

 であれば俺も正面から対話に応じるのが道理。


「測定不能なら俺のことだ。何か用だろうか」


 立ち上がって名乗りを上げると、彼女の視線が俺へ注がれた。

 頭からつま先までを舐めるような眼差し。

 数秒の沈黙を経て、彼女は微かに笑みを浮かべる。


「あたしは那奈敷(ななしき)來華(らいか)。あなたは?」

「淵神蒼月」


 彼女……那奈敷へ俺も名乗ると、怪訝に眉をひそめた。

 隣ではシュナリアが「那奈敷って、あの?」と知り顔で呟いている。

 俺が知らないだけで有名人なのかもしれない。


「……淵神? 『冥翁』とどういう関係?」

「『冥翁』?」

「淵神紅牙(こうが)という人物に心当たりがあるはずよ」

「爺のことか。そんな名前で呼ばれていたとは初耳だ」

「隠居したと聞いていたけれど……孫が『第零』にいるなんて知らなかったわ」

「孫ではなく養子だ。俺は元々孤児でな」

「そうだったのね。けれど、あなたは淵神の名を背負っている。それだけでじゅうぶんよ」


 那奈敷はどこか満足げに頷いてみせる。

 爺がそんなに有名だったとは知らなかった。

 俺に鬼のような鍛錬を課している間に街へ繰り出し、女遊びに耽っている放蕩者の老人としか思えなかったのに。


 堂々と靴音を鳴らして教室へ入ってくる那奈敷。

 昨日はあんなに突っかかってきたクラスメイトも那奈敷には絡もうとしない。

 それどころか無関係を装い、避けているようにも見える。


 やがて俺の前で立ち止まった那奈敷が、自信に満ちた表情で口を開き。


「淵神蒼月、あなたに決闘を申し込む。受けてくれるかしら」

「決闘か。構わない、受けよう」

「感謝するわ。逃げられたらどうしようかと思っていたもの」

「こんなにも裏表なく迫られたのに逃げては男が廃る。そうだろう?」

「……いいわね、本当にいいわ。みんなあなたみたいに強い雄ならいいのに」


 より笑みを濃くした那奈敷。

 紅い舌先が、唇を湿らせる。


「『第零』の男は意気地がなくてダメ。貴族は隷属させて喜ぶ変態しかいないし、平民は弱くて情けない。頭一つ抜けていても、あたしを脅かすには物足りない。現状の同格はあなただけ。だから……決闘を受け入れてくれて嬉しいわ」

「それはよかった。俺も強者と手合わせできる機会は願ってもない」

「けれど、折角決闘をするなら報酬があった方がいいわね。あなたが勝ったらあたしのことを好きにしていいわ。性奴隷でも肉便器でも、なんでもね」

「そんな趣味はないが……いいだろう。那奈敷の望みは?」

「あたしの望みは勝ってしまったら叶わないの。あたしより強い、将来の旦那様を見つけるために『第零』に来たから」


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