第3話 “反天狗同盟”と飯綱丸との関係
飯綱丸様が裏切った……?
にわかには信じられない典と楓間。
───段々と見えてくる、天狗の山の支配体制に待ったをかける”反天狗同盟”と飯綱丸との関係───
「…飯綱丸様が、裏切った……?」
典は暫しの沈黙の後、やっとのことで声を絞り出した。しかしそれは、声というよりかは呻きに近いものだった。その声は彼女の受けた衝撃の大きさを物語っていた。
再び沈黙が訪れる。聞こえるのは直に訪れる冬の寒さを運んできた秋の風の音だけである。
この沈黙を破ったのは天魔であった。典にも楓間にもこの沈黙を破ることはできなかった。
「まあ、裏切ったというと少しばかり重いやもしれんな。それに、まだ確定したわけではない。あくまで噂が流れているだけだからな。」
典の大きすぎる動揺に配慮したかのような物言いだった。
「恐れ多くも天魔様…私には飯綱丸がそのようなことをするとは、とても思えないのですが…彼女は誰よりも天狗社会のことを思っていますし、誰よりも誠実です。それ故、大天狗になったのでしょうし…」
楓間が言葉を選びながら慎重に意見する。まさに典が思っていることを代弁したかのような意見だった。
「うむ…私もそう思う。彼女がそんなことをするとは思えないしな。」
典は安堵した。天魔様が否定してくれれば、飯綱丸様の身は安泰だ。
しかし、典がその安堵を顔に出すよりも早く、天魔の鋭い一言がとんだ。
「いや、すまない。言い方が悪かった。確かに彼女は我等のことをよく考えてくれる。彼女が我等を裏切ろうとすることは万に一つもないだろうし、彼女が我等に牙を向こうなどとは微塵も思ってないだろう。」
天魔はこう前置きし、一息ついてから再び話し始めた。
「しかし、だね。私は残念ながら飯綱丸が裏切ったと周りからは思われる行動を取った、と言うことを否定しているわけではない。」
聞いている二人の頭の中には?が浮かんでいた。
何故なら、一息つく前とついた後での発言が明らかに矛盾していたからだ。
「すいません、どういうことでしょう…私には理解出来かねます……」
典が恐る恐る言った。
「すまんすまん、言い方が悪かったな。私が言いたいのは、彼女が我等の為を思って行動したことが裏目に出た、という事だ。」
なるほどそれなら、先程の矛盾の辻褄が合う。
しかし、それでも尚、2人は完全には理解していない様子だった。天魔は続ける。
「現在、ここの支配体制を巡って天狗と他の妖怪との間に亀裂が生じていることは、君らも知っているよね。」
2人は頷いた。妖怪の山に住む天狗以外の種族が、妖怪の山の天狗の一強支配に対し反旗を翻したのだ。
「彼等は、反天狗同盟などを組んで、妖怪の山の運営を天狗以外の種族にもさせるべき、などと主張しているのだ。無論我等も幾千年続いてきた支配体制をそう簡単に崩すわけにはいかない。だから、簡単に言うとそいつらを”無視”しているのだ。」
天狗ではない典もこの事は知っていたし、事態はかなり甚大だという事も知っていた。主である飯綱丸がいつもその事で頭を抱えていたからだ。
「さて、そいつらがただ文句を言っているだけなら良かったのだ。しかしどうやら最近、我等に対する反抗の手段を”言論”から”暴力”へと変えようとしている動きが出てきていると情報が入ったのだ。それを証明するかのように、約一週間前、───反天狗同盟の仕業かは不明だが───天狗が何者かによって襲われる、という事件が立て続けに3件起きた。」
天魔は息を吐き、その襲われた天狗に対し思いを馳せるように目を瞑った。典もその話は聞いていたが、被害者の天狗の生死までは分からなかった。
「まだ犯人は捕まってないのだ、白狼天狗団が総力を挙げて捜索にあたっているのだが。」
楓間が典に耳打ちした。
「さて、話を飯綱丸の事に戻そう……彼女の”裏切り行為”というのは、この反天狗同盟に加担しているのではないか、ということだ。」
典は耳を疑った。隣の楓間も信じられないという顔をしていた。
「そ、そんな、そんなはずありません!飯綱丸様と一番一緒にいるのは私ですが、そんな素振り一切見せませんでしたし!それに、それに、天狗が襲われた事件についても、自分のことのように悲しんでいましたし、何よりこの一連の騒ぎを”平和的解決を目指す”と言って誰よりも頑張っていましたし!」
典は主を擁護するために相手が天魔という事も忘れ、興奮気味に話した。
その反面、冷静に聞いていた楓間は、典が「飯綱丸様は平和的解決を目指している」と言った時に天魔の表情が少し動いたのを見逃さなかった。
──作者後記──
投稿に日が空き、申し訳ありません。
一週間に2.3話投稿を目安に頑張っていきます。
まだまだ未熟ゆえ、文章がおかしかったりする点があるかもしれませんが、ご了承願います。文章の訂正や、誤字などの訂正もどんどん教えて下さい。
飯綱丸様、本当に裏切ってしまったのでしょうかね。