第11.5話 被害を受けた2つの神社
今回は妖怪の山舞台の本編からは少し外れています。そのため、小数点回としました。
本編との時系列はあまり意識していません。ただ、時系列をリンクさせるなら、射命丸の行動的に先に12話を読んだ方がいいかもしれません。
舞台は山から離れ、博麗神社。
僅かな砲音とともに、1人の巫女と2柱の神が転がり込んできた。
「我らが御山に、かつてない試練降りかかりき。」
「畏れ多くも天魔様は、臨時の大天狗会議を催し給へ、今後の大綱定まりけり。」
射命丸や姫海棠も含む天狗の報道陣は、こぞって今回の一連の事件を報じた。
無論自由に報道できるはずもなく、厳しい言論統制が引かれた。天狗にとって有利になるような記事しか認められず、射命丸は天狗社会の悪しき伝統を垣間見るのだった。
程なくして、天狗のプロパガンダと何ら違いがない新聞が幻想郷中に散らばった。
天狗上層部は、天狗が善、反天狗同盟が悪、という思想を幻想郷に植え付ける効果を期待したが、以外にも幻想郷の住民は冷静であった。
「ったく。まーた奴らが騒ぎ始めたわ。うるさいのは勘弁なんだけど全くもう。」
博麗神社で霊夢がぼやく。
神社は普段と変わらぬ日常そのものであった。
時々かすかに砲撃の音が聞こえる以外は。
「ここはまだいい方です、山に入ってみてください、耳が千切れるかと思いましたよ。」
「そりゃご愁傷様なこった……。」
霊夢は商売敵の3人組に憐れみの目を向ける。
このまま山に留まったら神社ごと潰されかねん、と逃げてきたのだそうだ。
「まったく。こんなこと長らく生きてきて初めてだよ。」
そう言うのは山坂と湖の権化・八坂神奈子である。
大きなしめ縄引っ提げて。まったく大したものだ。
「そうそう、かわいそうついでに、しばらく置いてくれないかい?」
霊夢は唖然とした。商売敵である神社の神の口からそんな言葉が出てくるとは。
「なんでうちなのよ。紅魔館とか行けばいいじゃない。あそこは広いし、快適に避難ライフを送れるんじゃないかしら。」
「あそこはメイドが私のことを子ども扱いするから。人間なんかよりもはるかに偉い神だというのに。」
そう言い、目玉のついた帽子がプイと横を向く。
「しかしねぇ・・・」
霊夢はまだ渋っている様子だった。このままいけば幻想郷のランドマークを網羅しそうな勢いである。
すると、どこからか声が聞こえてきた。
「いいじゃない、きっと賑やかになって楽しいわよ~」
どこか他人事のようなのんびりとした口調、無責任な内容。そして何より、無からの声。
八雲紫である。霊夢が振り向くと、紫は笑顔でスキマから上半身だけをのぞかせていた。
「紫ねえ、あんたに取っちゃ他人事でしょうけど、当の私にしてみたらかなりの迷惑なのよ!大体、食事の支度とか誰がすると思ってるの?」
そう、霊夢が3人を渋ったのは商売敵云々、とかではなく単純に面倒くさかっただけである。
「あ、私が手伝わせていただきますよ、任せてください!」
口を挟むなという風に、霊夢が早苗をにらみつける。
しかし暫しの後、観念したのか、不満不服を大きなため息で表現し、言った。
「分かった、分かったわよ。その代わり、家事全般、私以上にやってもらうからね!」
そして2人の神を指さしながら怒鳴る。
「もちろん、神様とか関係ないわよ。御二方?」
加奈子と諏訪子は大げさに肩をすぼめる。それは了承の合図だったのか、洩矢3人組は早苗を先頭にして、さも自分の神社かのように上がっていった。
その様子を霊夢は呆れながら見ていたが、ため息一つ、早苗らの後に続くのだった。
1人残った紫は霊夢の後ろ姿を眺めていたが、やがてそれも消えると、ぽつりとつぶやいた。
「争いは妖怪の山で収まっている・・・。そしてこの争いは山から出ることなく終結するでしょう・・・。そしてどちらが勝とうと、下の者が上の者に牙をむく、即ち一つの組織の支配の体制を揺るがす出来事が起きた、という事実は永遠に消えない。」
「もしもの為に───同じ神道である神社同士良好な関係を築いておいて、損はないでしょう。」
八雲紫は意味深な発言を残し、無に消えていった。
不敵な笑みを浮かべながら。
誰もいなくなった境内に、かすかに砲音が聞こえた。
無事博麗神社に泊まれることになった洩矢3人組。
彼女らの身は安泰だろうが、果たして洩矢神社は無事でいれるのだろうか。
それにしても最後の紫の言葉・・・。いや、今は山に集中しよう。
その言葉の意味が分かる時が、いつか、きっと来る。
──作者後記──
テストが終わりました!あ、やらかした意味の終わった、も含まれております。
今回は神社メインのお話でした。そりゃあ、山でドンパチ始めたら逃げたくもなりますよね。
え、最後の言葉、複線?そんな高度な技術は持ち合わせていませんよ~~。
次のお話では舞台が山に戻ります。
それじゃあまた次回。5月中に投稿したい・・・!