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司書官のお仕事 2


 ***


「凄まじい功績だわ……」


 私の専門分野は、騎士功績分析学だ。

 つまり騎士団長様のデータについても、私の管轄になる。

 そして、今目の前にしているのは、歴史に名を残す、英雄譚だった。


 ――王都を不在にしていた約三ヵ月間に、騎士団長様が討伐した魔獣は十三体。


 そのうち十一体が上級魔獣で、一体が災害級魔獣だ。

 ……そして、騎士団長様に呪いを掛けた魔獣は、神話級だ。

 フェンリス狼が、暴れ出せば王国壊滅を余儀なくされるだろう。


「災害級でも、王都は壊滅すると言われているのに、それを一人で」


 この規模の魔獣を倒すなら、大規模討伐隊を組んで、さらに多くの犠牲を覚悟する必要がある。

 それを一人で成し遂げた騎士団長様は、確かに英雄なのだろう。


 しかし不可解なのは、その期間、騎士団長様は長期休暇を取得していて、それはあくまで個人の功績ということだ。


「騎士としての職務であれば、すでに新聞の一面を華々しく飾っているはずだけれど……」


 騎士が挙げた功績は、基本的に公にされる。

 けれど、個人が休暇で討伐をしたというなら別だ。


「どうして……。呪いだって、騎士としてなら解くために公費が支払われるのに」


 私が個人で協力できることには、限りがある。

 そんなことは、管理的立場にある騎士団長様であれば重々承知しているはずだ。


 しかもさらに不可解なのが……。


「フェンリス狼を除けば、全部犬の魔獣なのよね」


 犬の魔獣は、基本的に群れで行動するため、討伐数が多いこと自体は珍しくない。

 群れを率いるような上級魔獣ばかり倒してはいるけれど……。


 分析には、まだまだかかりそうだ。

 外はすでに暗くなっている。図書館はすでに閉館したし、私もそろそろ帰らなくてはいけない。


 騎士団長様のお屋敷に帰る。

 それは、とても不思議で嬉しいことのように思える。


「……でも、早く呪いを解いて差し上げないとね」


 地味で勉強以外取り柄がない私と、婚約しているなんて、やっぱり騎士団長様には何の得もない。


 ――私が手にしたのは、1冊の禁帯出の本だ。

 王立中央図書館の職員は、正式な手続きを踏めば、禁帯出の本でも持ち帰ることが可能だ。


 そこには、古今東西の研究者が調べ上げた、現在わかっている呪いについての情報が、まとめ上げられている。


「獣人化の呪い」


 そこに描かれているのは、美しくも恐ろしく奇妙な獣人化の呪いを受けた人々の記録だ。

 それは、神話時代から永きにわたり記述されている。


 そもそも、私が祖父に犬耳と尻尾がある相手なら婚約しても良いなんて言い出してしまったのは、かつて見たこの本が記憶にあったからなのだ。


「……帰ろう」


 そして私は、帰路に就く。

 自分からお願いしたこととはいえ、騎士団長様のお屋敷に帰るという事態に、首をかしげながら。


 ***


 帰り着いた騎士団長様のお屋敷は、明かりがついていなかった。

 こんなに早く使うことになるとは思わなかったと、自分のことは棚に上げて、騎士団長様の激務を心配しつつ鍵を開ける。


「あれ……。もう開いていた?」


 扉を開けて中に入る。

 明かりをつける仕掛けを見つけて、魔導ランプを起動させる。


「……えっ?」

 

 驚きの声を上げて、私は駆け寄る。

 そこには、なぜか騎士団長様が倒れていたのだった。


本当に苦労したので(明後日の方向に)

早く気がついてあげて下さい。


と思いながら、お仕事に行ってきます。

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