狼騎士団長の花嫁
晴れ渡る空が美しいある日、結婚式は執り行われた。
純白のドレスに身を包んだ花嫁のドレスには、まるで白い狼のようなフワフワとしたファーが飾り付けられている。
真っ白な色合いの花嫁の横には、全身黒い騎士団長。その頭上には三角の耳が、存在を主張していて厳つい雰囲気を少しだけ柔らかく可愛らしく見せていた。
「リリアーヌ、美しいな」
「騎士団長様こそ、カッコいいです」
「この耳と尻尾とも今日でお別れだ。楽しんでおくといい」
「……」
騎士団長様は、笑いを堪えることができなかったらしく、口元に拳を寄せてプハッと吹き出した。
たぶん、私が残念に思ったことが伝わってしまったのだろう。
「リリアーヌが好きなのは、犬耳か、それとも狼耳か?」
パッと見て違いなんてわからない。
似て非なるものだと主張しても、やっぱり同じ三角耳なのだから。
それでも、私の答えは決まっている。
「騎士団長様の耳が好きです!」
「それは、何とも光栄だな」
頬を染めた騎士団長様が可愛らしく笑った。
無表情で寡黙な彼は、いったいどこに行ってしまったのだろう。
「……俺も、君のすべてを愛している」
「すべて」
「そう、食べてしまいたいくらい好きだ」
その食べる、の意味とは。
さすがにそれを聞く勇気はなかった。
「おい、リリアーヌ、ディオルト、準備は出来たのか?」
扉から入ってきた祖父は、左胸を埋め尽くしてしまいそうなほどありったけの勲章を着け、白い騎士の正装を着ていた。
幼い頃見たその姿、今でも祖父はとても素敵だ。
「……でも、正式な騎士ではなければ、騎士服は着れないのでは?」
個人的に叙勲した際の勲章はともかく、騎士の制服は退役後は着れないはずだ。
「ん? 先日、騎士団長代理をした際に、若造どもがあまりに軟弱だったのでな。かねてから打診されていた名誉顧問を受けることにした」
「え……」
少しだけ若手騎士たちを気の毒に思いつつ、でも祖父に鍛えられればきっと生還率も高まるだろうと思い直す。
「お前が嫁に行き、老い先短い儂の心配もなくなったからな……」
細められた視線の先には、私の亡き父と母が見えているのかもしれない。
そっと、今でも鍛え抜かれて丸太のようなその腕に自分の腕を絡める。
「ルードディア卿、先に壇上で待っています」
「ああ、儂の孫を大事にしろよ?」
「肝に銘じます」
「騎士団長様……」
去り際に、騎士団長様は振り返り軽く首をかしげて口を開く。
「ところで、夫婦になるのだからそろそろ名前で呼んでくれないか?」
「……えっ」
とたんになぜか、頬が紅潮する。
そう、自分の夫を騎士団長様なんて呼ぶのは、確かにおかしいだろう。
「そうだな、初めて会ったときのように、ディオと」
騎士団長様と出会ったあの日、祖父の背中に隠れて挨拶をした幼い日の思い出。
その名を口にしようとして、大きな咳払いに阻まれる。
「ほら、参列者が待ちわびているぞ?」
グイッと手を引かれた私に、騎士団長様は笑いかけて、先に壇上へと上がっていった。
そのまま、祖父のエスコートを受けて、銀色の花びらが舞い散る中を進んでいく。
……煌めいては消えていく銀の花びら。
そんなもの用意していなかったのに、参列者の誰かが用意してくれたのだろうか。
いや、消える花びらなんて明らかに魔法によるものだ。
ふと、参列者の影に人外の美貌の男性が見えた。
「帰ったのでは……」
男性の頭には耳がない。それを見た私は理解する。
――彼は自由に姿を変えられるのだ。
もしかすると騎士団長様の耳は、完全に消えてしまうのではなく……。
「もしかして、自分で出したり消したりできるようになるだけ?」
「リリアーヌ、何をブツブツ言っている。行くぞ?」
「え、ええ」
そのまま歩き出した私は、祖父の腕から離れて、騎士団長様の元へ。
そしてそのまま強く抱きしめられた。
――翌朝、騎士団長様の耳が消えたのかどうかは、真実の愛を知った私たちしかわからない。
どちらにしても、私たち夫婦はねんごろになり、幸せに過ごしたのは間違いないのだった。
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