看病と告白 5
厚い胸板に抱きついて、頬をすり寄せてみれば、飛び出してきてしまうのではと思うほど彼の心臓は高鳴っていた。
「……一緒に寝ましょう」
「……それは」
「お互い憎からず思っている、婚約者同士ならおかしくないはずです」
はっきり言って、男女の機微については王立学園で習ったことと、文献からしか知らないけれど、少なくとも婚約者なら一緒に寝てもおかしくはない。
ギュッと抱きしめると、観念したように騎士団長様が私を抱きしめてきた。
「……明日は、神殿に行きましょう」
「たぶん、無意味だろうが……。君の言う通りにしよう」
抱きしめられれば、新緑の香りに包まれる。
騎士団長様の香りは、まるで爽やかな風みたいだ。
「甘い香りだ……」
自分ではわからない香り。
神殿に行った先で、もう一波乱起きるのだけれど、今はそれどころではない。
「温かいです」
「そうか、それは良かった」
尻尾まで、私のことを抱きしめているようだ。
それは、幸せなひとときだ。
その夜見たのは、春の庭で騎士団長様と二人、穏やかに見つめ合っている夢だった。
夢の中の彼の頭には、耳も尻尾もない。
けれど、その表情から、指先から、耳と尻尾と同じように、私のことを大好きだという気持ちがあふれているような気がしたのだった。
***
そして、朝起きると騎士団長様は隣にいなかった。明らかにただ事ではないことを表すように、枕元のメモに乱れた筆致で緊急事態で出勤すると書かれていた。
図書館で貸し出しの処理をしていたから、騎士団長様の文字が男らしくて流麗なことを私は知っている。
それなのに、読み取るのがやっとというほど乱れた文字。
「……これほど慌てるほどの案件って」
騎士団は、祖父がとりまとめられているはずだ。
猛将と恐れられた祖父は、今も騎士団に名誉顧問として顔を出し、内外の信頼厚い。
だから、代理の騎士団長として完璧に腕を振るっているはずだ。
――それにもかかわらず、騎士団長様が、緊急に駆り出される案件といえば……。
「おじい様が敵わないほどの魔獣なんて、災害級くらいしかいない……」
青ざめた私は、最新の情報を得るため職場へと駆け出した。そしてもちろん、このときの私は想像だにしていなかった。
『ふーん、あの男が選んだにしては、ごく普通だな』
「……えっ?」
まさか、自分が職場にたどり着けないなんて。
私の目の前に現れたのは、美しい男性だ。
そしてその男性の頭には、なぜか騎士団長様と色違いの白銀の三角耳が生えていたのだった。
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