ヘビースモーカー
第八章~鳳研究所の食堂の巻
僕とミサキ氏と少尉は鳳{おおとり}研究所の飲み放題のアイスコーヒーを、エアコンと共に堪能していた。
全く、事務所とサンバーバンを思えば天国の如くである。
ただ一つ難点があるとすれば、ヘビースモーカーが三人もいるので空調の限界を超えているということだが、四十度を超える外に比べればそれもマシというもの。
「鳳よ、吾輩、空腹だ」
大道少尉がぼそりと呟いた。
「え? あなた、ひょっとしてたかりに来たの?」
これには鳳氏も目を丸くし、乾{いぬい}氏はやれやれと肩をすくめ、露草氏は知らん顔だった。
「研究所の食堂、自由に使っていいわよ……と言いたいところだけど、その懐具合が寒いのよね、外と違って」
はいはい、と挙手したのはほかでもないミサキ氏だった。
「あたしも金欠具合じゃあバカ少尉に負けてないぜ? なあ?」
なあ、は僕と大道少尉に向けられたものだった。
「だいたい、最近仕事が少なすぎるんだってば。最後にタロンを狩ったのって、もう三か月前だぜ?」
「いいことじゃないか、平和でよ」
取り次いだのは乾氏だった。
「物騒な相手に物騒なモンで挑むなんて真似はないほうが健全てもんだ」
物騒なものとはいわずもがな、ミサキ氏の愛銃二挺のことである。
「でもそれで僕らは困窮しているというのも事実なんですよね」
バイト待遇の学生である僕からの意見は、ノンノンとやんわりと否定された。
「それは青年君が職場を間違えたからだ。ご愁傷さまだがな」
「皆して金の話とは無粋で下衆であるな、アホの鳩羽よ」
「おめーに言われたかねえよ!」
ミサキ氏が大道少尉を一喝する。
「まああれや。飯くらいウチが奢ったるから食ってくるとええわ。支払いは後でええし」
ラッキーストライクをぷかぷかとやっていた露草氏がありがたい提案をしたお陰で、その場は丸く収まった。
これぞ人格者というものである。