ワルサー・L・シューメイト大尉
第七十二章~五十口径のリボルバーなんてまるでハンターだよの巻
「そういやさ、乾{いぬい}さんてば、未だにナンブ使ってるんだよね?」
麦茶を片手にミサキ氏が尋ねる。スキットルとマルボロ・マイルドを両手の乾氏は、ああ、と応える。
「刑事時代からの愛用だからな。弾丸は儀礼処理済みの純銀弾頭だからニューナンブで足りるんだよ、どこかの誰かさんと違ってな」
「それってあたしの事? でもさ、ダリルみたいなサイドアームないとタロン相手だと手間取らない?」
前述したが、ミサキ氏の左、ダリル・リボルバーは主に人間に憑依したタロンを引きずり出す役割をしている。
「そこはまあ、なんとかなってるよ。俺には刑事時代の格闘術と合気道があるからな。それで被害者をちょいと痛めればタロンが現れるって寸法さ」
「手荒だなぁ」
「お前には言われたくないよ」
マルボロ・マイルドを灰皿に押し付け、スキットル、オールドクロウをあおる乾氏。酔っている気配は微塵もないのでかなり強いのだろうと伺える。
「五十口径のリボルバーなんてまるでハンターだよ。軍人だって九ミリが標準だってのに」
「あたしはオートも嫌いじゃないよ? だけどタロン相手ならやっぱし一撃必殺っしょ? 二次被害を出さないっていう配慮もあるのよ?」
「タロン相手だろうと貫通するだろうに」
「そこは腕でカバーってね」
ミサキ氏は麦茶を、乾氏はオールドクロウをそれぞれちびちびと飲みつつ、仲間同士ならではの会話を続ける。
「ところでさ、ワルサー大尉が大変て、何かあったの? 蘭子{らんこ}ちゃんが現場入りってかなりでしょ?」
「俺も詳しくは聞いていないんだが、どうやらタロンが複数出たらしい。ワルサーの野郎は火力ゴリ押しだからな、苦戦してるとか何とか言ってたかな?」
「それって大丈夫なの?」
「大丈夫だからこうして飲めてるんだろうさ。何、ワルサーだってプロの傭兵だ。やるときにゃやる奴だよ」
イギリス国籍のワルサー・L・シューメイト大尉は軍人あがりの傭兵と聞いているが、僕は、面識こそあるがそういった詳細までは知らない。
「銃火器に頼りっぱなしのワルサー、嫌な予感がするがのう」
オールドクロウ、イーグルレアを諦めて麦茶に切り替えた大道少尉が割り込む。
「よせやい、少尉。お前さんが言うと不吉さが増すってもんだ」
「ワルサーはサバットの達人らしいが、果たしてタロンに通用するか怪しいものぞ」
サバットとはフランス発祥の、蹴り主体の格闘技で護身術の一つである。
「憑依された相手になら有効だろうが、少尉の言う通りでタロン本体にゃ全く無意味だろう。しかしそこはワルサー、重機関銃でも使って蜂の巣にするんだろうよ」
どうやらスキットルが空になったようで、乾氏はオールドクロウのボトルからスキットルにそれを補充する。グラスではなくスキットルで飲むのが好みらしいが、下戸の僕には分からない感覚だった。
「まあ、何事もなくを祈って飲むだけだな、今は」
「ふむ、死ぬなよ、ワルサー」
縁起でもない、と思ったのはどうやら僕だけらしかった。
ミサキ氏も乾氏も若干曇った表情だった。




