ラッキーストライク
第七章~黙って茶でもすすってろの巻
「なんや、えらいぎょうさんやな。何の集まりや?」
僕らが鳳{おおとり}氏の研究所で涼んでいると、関西弁の女性が、こちらも煙草を咥えて入ってきた。メタルフレームに白衣の、鳳氏とはまた違った魅力的な女性だった。
「葵{あおい}ちゃん、こんちは。あたしらは今、文明を堪能してるところなのだよ、なあ諸君?」
ミサキ氏に言われた露草葵{つゆくさ・あおい}氏は、ふむ、と頷き、咥えたラッキーストライクにジッポで火を付け、灰皿に寄った。
「あら、葵、あなたまでエアコン目当てなのかしら?」
「なんやそれ、ちゃうがな。用事がてら近所まで来たから、灰皿を借りに来たんねん」
鳳氏と露草氏は、聞いた話だと医大生時代の同期らしく、僕視点で申し訳ないのですが、こちらもとびきりの美人、妖艶なのである。
「ふん、揃って肺を汚す愚か者どもよ。貴様らは金を燃やしているに過ぎぬと何故気付かぬか」
大道少尉が悪態をつくが、喫煙者にこういう科白はまず効果がないのだ。
「少尉さんよ。煙草と肺がんの因果関係は不明らしいって話、知ってるか? 唯一の嗜好品だ、まあそう言うなよ」
マルボロ・マイルドを咥えた乾氏が反発する。
「この猛暑にエアコンもなしでいる熱中症予備軍に比べたら、私たちはそれはもう健康的よ?」
メンソールの鳳氏も続く。
「人のことに口出しする身分か、おのれは。黙って茶でもすすってろ」
ラッキーストライクの露草氏がとどめを刺し、大道少尉はぐうと唸った。