空調の効いた研究所に涼みに来た
第六章~今年の猛暑は死人が出るレベルよ? の巻
学生な僕から見ると、ミサキ氏、大道少尉はずいぶんとだらけた大人に見えた。
間違っても将来こうはなりたくない、というのは言い過ぎだが、しかしなのだ。二人とも私立探偵ながらいわゆるエクソシストでもあって、正直、かっこいいと思ってしまう。
残念なのはその活躍の機会が少ないことだが、これはまあ被害が少ないというのと同義なのでよしとして、などと考えつつ、灼熱のサンバーバンを転がしていると、やっと目的地に到着した。今度こそ涼める、そう僕らは期待しつつ、繁華街にある商業ビルの一角に突入した。
「なんだ、美咲じゃない、どうしたの?」
「なんだ、少尉じゃないか、どうかしたか?」
前者が監察医でタロン研究者の鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏で、後者は戦闘員の乾源一{いぬい・げんいち}氏。二人そろって喫煙スペースに籠っていた。
「いや、ちょっとした定時報告って奴よ、なあ?」
なあ、と僕に振られても困る。全員が四十度越えの事務所から空調の効いた研究所に涼みに来た、とは言い辛いので。でも他に説明のしようもないので僕はそのままを二人に伝えた。
「今年の猛暑は死人が出るレベルよ? みんな、よく生きてここまでこられたわね?」
メンソールを加えた鳳蘭子氏が、けだるそうに言う。いやはや、今日も白衣姿がお美しい限りです。
「退魔師が猛暑で死んだら、そりゃ笑えるってもんだ、ははは」
マルボロ・マイルドを加えた乾源一氏が、からからと笑う。乾氏はスーツ姿の無頼漢と言った様相である。
「忙しいところをお邪魔します。ここ、研究室にはきちんとエアコンが設置されてるんですね、助かりました」
もくもくと煙草を吹かす二人に言うと、さも当然と言った風の笑いが返ってきた。
それはまあ当然だろうが。