寝起きの美咲
第五十七章~私立探偵の鳩羽美咲の巻
「諸君ー、そろそろ下校の時間やでー」
間延びした口調で露草氏が言う。
アヤちゃんが「えー」と否定的な返事をするが、スマホを見ると十八時半、もうとっくに下校時間を過ぎていた。
「アヤちゃん、露草先生もここも消えたりしないんだから、また明日出直そう」
そう言ったのは速川久作{はやかわ・きゅうさく}くんだった。
「まあ、そうだけど……リカちゃん、レーコ。それに須賀恭介に方城護、今日は一旦帰ろう。速川久作の言うことも、もっともだし」
キャンキャンとうるさいアヤちゃんを一言でたしなめる、久作くんは余程信頼されているのだろうか。
「では、皆さん、今日はこれで失礼します」
リカちゃんがペコリと一礼する。黒髪が艶っぽくて綺麗だった。
「ばいばーい!」
ぶんぶんと手を振るのはレイコちゃん。元気が有り余っている風だった。
「あ、少尉とお兄さん。スマホの番号、交換しといて。んでタロンとかってのの動画あったら、全部送ってね。アディオス!」
元気と言うよりうるさいアヤちゃんがスマホを差し出したので、通信でやり取りをした。
「僕らも帰ろう。お邪魔しました」
「……また」
「バッシュの件、よろしくっす!」
久作くん、須賀くん、方城くんがそれぞれ短い挨拶を残して皆と一緒に保健室から消えた。
それまでかなり騒々しかったのか、しん、と室内は静まっており、空調の音くらいしか聞こえなかった。窓の外もさすがに夕日で、そろそろ夜だと告げている。
そこで僕ははっとした。すっかり忘れていたことがあったと。
「美咲さん! 起きて下さい! もうすぐ夜ですよ!」
そう、僕の雇い主にして退魔師、私立探偵の鳩羽美咲{はとば・みさき}氏、その人である。
カーテンを引きつつ怒鳴ったのだが、一瞬フリーズしてしまった。半袖ブラウスを脱いでブラ一枚で横になっていたからである。
しかし、と、僕は続ける。こんな姿、事務所で何度も見ているではないか、と。
「美咲さんってば! もう帰りましょう! 露草先生の邪魔になりますよ!」
「……ぐぅ」
「あと二時間くらいやったらうちはええけど? 寝起きの美咲は恐ろしいからそっとしときぃや」
「ふん! アホの鳩羽なんぞここに置いておくがいいわ!」
そうはいかない、が、起きる気配もない。
やれやれ、どうしたものか、僕は途方に暮れて何となくアヤちゃんにタロン動画を送信したりしていた。




