オッサンではなぁぁい!
第五十二章~アヤちゃんと呼べよ! の巻
僕と大道少尉と露草氏でなんだかんだ談笑していると、終業を知らせるチャイムが鳴った。
スマホを見ると、もう十七時だった。窓の外がまだ明るいので全く気付かなかった。僕らは随分長い時間、この保健室にいたようだが、露草氏からは文句一つもなかった。きっと暇な日だったのだろう。
或いは毎日がこうなのか。
「んー、そろそろやなあ」
何が? と聞くより先に保健室の扉が勢いよく開いた。
「葵{あおい}ちゃん! てーへんだぁ! あの佐久間準{さくま・じゅん}が錯乱したらしいぜ! カッター振り回して怪我人が大勢出たって!」
うるさい。その一言に尽きる声の主は、金髪をツインテールにした小柄な女子高生だった。桜桃{おうとう}の制服を自前で改造しているのか、スカート丈がやたらと短い。
「知っとるがな。その現場におったん、うちとそこの二人やからな」
面倒臭い、と露草氏の顔に書いてあるように見えた。
「二人って? ああ、このお兄さんと……でかっ! このオッサン?」
「小娘がぁっ! 吾輩、これでもまだ三十代ぞ! オッサンではなく大道少尉である!」
「小娘じゃなーーい! あたしはアヤ! 橘綾{たちばな・あや}ちゃんだぁー!」
僕も自己紹介しようかと思ったが、面倒なので「そこのお兄さん」で通すことにした。
「ふんっ! タチバナだかタチナバだか知らぬが小娘! 我がカイザーナックルを見ておらぬようだな?」
「だから! 小娘じゃねーっつーの! アヤちゃんと呼べよ! オッサン!」
「オッサンではなぁぁい! 吾輩――」
このやり取りは五分ほど続いた。話が着地するまで僕は露草氏からもらった板チョコをぽりぽりと齧っていた。
「……わかったよ、少尉。んで、カイザーって? もしかしてあの怪物を倒したのって少尉なの?」
やはり動画が生徒内で回っているらしい。これで目撃者は百人をゆうに超えることになる。
「そう! タチバナよ! この拳こそが、あのカイザーナックルぞ!」
あの、がどれなのかはともかく、橘綾と名乗った女子高生は目を輝かせていた。そしてスマホ動画と実物の大道少尉を見比べて、感嘆の溜息を一つ。
「少尉ってすげーな! アンタいったい何者なのさ?」
「吾輩は私立探偵であると同時に、タロン討伐を行う退魔師である」
「タロンっていうの? あの怪物。んで、それを退治するのが少尉ってことね……すげー!」
また橘綾は叫んだ。いい加減うるさい。
しかし、橘{たちばな}と言う金髪ツインテールの女子高生からの質問はまだまだ続くのであった。
ふう、面倒臭い。悟られぬよう、溜息を吐く。




