ニューナンブ
第五章~乾源一氏は大道少尉を上品にしたような人物での巻
「蒸すな…」
大道少尉がぼそりと呟くと、ミサキ氏が激高した。
「ふっざっけんな! 外気温四十度だぞ? なのにどうしてここには扇風機さえないんだよ! 殺す気か!」
「アホの鳩羽よ。心頭滅却という格言を知らぬと見える」
この猛暑にスーツ姿の大道少尉は、生まれつきなのか、険しい表情で僕を睨んでいる。
「大道少尉は最後にタロンを倒したのって、いつなんですか?」
ミサキ氏と同じ仕事内容の大道少尉に尋ねてみる。
「ふむ、あれはもう三か月は前になるか。武勇伝を聞くかね? 少年よ」
確か大道少尉の直轄は戦闘員の乾源一{いぬい・げんいち}という鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏の同僚だった筈だが、三か月も音沙汰がないとなるとタロンの脅威は想像以下なのかも知れない。
「気を抜くなよ。相手は一撃で人を殺める、警察のニューナンブなんぞ役に立たない化物だ」
冷えたお茶をすすりつつミサキ氏は珍しく真面目な口調で言う。
「乾から連絡がないが、やつめ、研究所にこもって煙草でも吸っているのであろう」
乾源一氏は大道少尉を上品にしたような人物で、根っからのヘビースモーカーらしい。面識は殆どないが悪い印象もない。
「よし、今から鳳博士の所に向かうとしよう」
ミサキ氏のその提案が、涼を求めているのだと気付いたのは僕くらいだった。