大道少尉
第四章~大道探偵事務所も同じくの巻
サンバーバンの車内は実に五十度を超えており、信号停止中などの照り付けは文字通り地獄であった。
とりあえずの目的地は知り合いの私立探偵仲間なのだが、そこまでの道中、ミサキ氏は終始無言で溶けていた。或いは既に熱中症なのかも、と不安になったが、手にしたポカリをぐびぐびと飲み干しており、どうやら健在なようだった。
「なあ、どっか涼しいカフェにでも立ち寄ろうぜ?」
ぐう、と唸ってからミサキ氏は提案した。
「僕らは金欠なんですよ、自販機で我慢してください」
全く、一杯のお茶すらできないとは情けないものだが、学生である僕はミサキ氏以上に金欠なのだし、事務所の薄給もアテにならないときた。
そんなこんなでミサキ氏の文句を聞きつつ灼熱のサンバーバンを転がすこと三十分、目的地に到着した。
そこ、大道探偵事務所は商店街の商業ビル二階にあった。所長の名は大道正司{おおみち・しょうじ}と言う巨漢で、こちらもミサキ氏の旧友かつ同業者であった。
「おーい、バカ少尉。美咲ちゃんが来てやったぞ、出迎えろ」
少尉とは大道探偵のあだ名で、別に自衛官という訳でもなく、どういう経緯か昔からそう呼ばれているらしい。
薄っぺらいアルミドアをごんごんと殴りつつミサキ氏が急かすと、中から大男がぬっと出てきた。
「うむ、誰かと思えばアホの鳩羽ではないか」
「誰がアホか、さっさと茶を出せ」
大道探偵事務所はミサキ探偵事務所よりやや広く、そして簡素だった。
何より驚いたのはその熱気である。まさかとは思ったが……。
「少尉さん、ひょっとしてエアコン、故障してるんですか?」
恐る恐る尋ねると、うむ、と一つ頷いてみせてから事務所内に通された。
「いやしかし参ったものよのう。空調機を稼働させておったらある日、雫が垂れるようになってな。清掃業者に依頼しようにも、このところの出費がかさんでままならぬわ」
ははは、と大道少尉は高笑いだったが、ミサキ氏はがっくりと項垂れた。
「折角涼みに来たのにこれだよ、このバカ少尉は。全く役に立たない奴だな」
私立探偵などという胡散臭いことを生業とせず、まともに働けばいいのに、と学生な僕は思ったが、当然口にはしない。
職業選択の自由というアレである。