ポンコツの灼熱
第三章~サンバーバンのエアコンは現在故障中でありの巻
「もう限界だ。エアコン買うからタロンを始末するぞ」
唐突にミサキ氏が物騒なことを言い始めたので、僕は若干狼狽した。
鳳蘭子{おおとり・らんこ}氏の研究所からタロンを倒すことで報酬を得ている我々なので発言に矛盾はないのだが、発想が飛び過ぎている。いちおう私立探偵なのだからそちらで稼ぐという方法もあるだろうに。
が、浮気調査やらペット探しやらの定番の依頼がここのところご無沙汰なので、これはもう仕方ないとしか言いようがない。
「あたしは風呂で体冷やしてくるから蘭子ちゃんとこに連絡よろしく」
ようやく扇風機から離れたミサキ氏は言いつつ、風呂場に消える。
僕はと言えば申し付けられた通りに蘭子氏に連絡を入れる、のだが、返答は……。
「タロン? 出現報告はないわよ? どうしたのいきなり?」
低血圧そうな低い声で鳳氏が返し、僕ははあとだけ答え、スマホを切る。そうそう都合よく世の中は回っていない、タロンに限らずで。
さて、どうしたものかと考えるが、ミサキ氏が一度決めたことを曲げるとも思えないので、取りあえず出発の準備を始める。といっても財布とスマホを身に着けて車、サンバーバンを用意するだけなのだが。
ちなみに地獄のような補足だが、我らが愛車であるサンバーバンのエアコンは現在故障中であり、ドライブは文字通り熱中症と隣り合わせの危険なものである。全く、事務所といい車といい、どこもかしこもポンコツの灼熱だ。
世の中、お金が全てではないだろうが、最低限生きていくだけの経費は確保しないと、それこそ生きていけない過酷な現実なのだ。