EMRドップラー装置
第二章~フィアット・パンダをこよなく愛する監察医の巻
タロンと一口に言っても、その存在実在をきちんと認識してくれる人というのは少ないもので、まあ被害件数の少なさと目撃例からそうなるのだが、ミサキ氏曰く、その存在はなかなかに厄介らしい。
突然音もなく現れて、人を襲うか憑依し、唯一通じるのはリボルバーから発射される純銀の弾丸のみときた。
しかも被害者にはタロン被害の記憶は残らないとくれば、ミサキ氏の仕事の大変さは少なからず想像できる。
では、そんな進出気没のタロンをどうやって探しだすのかというと、これぞ文明の利器、EMRドップラー装置というものだ。
これは、難しいことは省くとして、エーテル体であるタロンの出現を感知する一種のレーダーで、ミサキ氏の知り合いらしき方、鳳蘭子{おおとり・らんこ}博士が開発したものらしい。
鳳氏とは既知の仲らしく、また、数少ない友人の一人でもあるそうな。
愛車のフィアット・パンダをこよなく愛する監察医で、ついでにタロン関連の研究者でもある。
僕も何度か会ったことがあるが、それはもうとびきりの美人で、ミサキ氏が少年のようないでたちなのに対して、ロングヘアのクールビューティー。と言ってもアタックするにはハードルが高すぎるのでそういうことはなく、たまに会ったらただひたすらニヤニヤしているだけなのだが。
少し脱線すると、ミサキ氏の愛用するヘビーバレル・リボルバー二挺も鳳氏が調達してきたものらしく、なんだかものすごく物騒な方なのかもしれないが、美人は何をやってもいいという法律はここでも有効である。
「ようよう、何をニヤけてるんだい?」
全身汗まみれであられもない恰好のミサキ氏が、扇風機から声を掛けてきた。何もかにもない、麗しの鳳蘭子氏を思っていたのだが、勿論そうは言わない。
「最近、仕事少ないですね。いいことなんでしょうが」
「そりゃあれだ、タロンも夏には弱いってこった」
地獄の使者といえばもう死人の筈だが、暑さなど感じるのだろうか。
しかしまあ、平和なのはいいことである。