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AVG man  作者: とばり
1/1

世界を救う(喰らう)男の物語

もしも、自分が全てを思うがままに出来る人間なら。



「本日のニュースです。○○議員が数千万の税金を横領したとしてーーー」

「今日も今日とて、流れるニュースはいい話じゃあないね」

出勤前、ふとテレビを点けると流れてくるのは良くない話。こんな不景気なのによくもまあ、平気な顔をして他人の金を食い漁れるものだと、こういう話題を聞く度に思う。必死こいて世のため人のためと働けど、政治家に食い物にされる始末。正直バカバカして仕方ない。だけど……

「なにも出来ないからしゃあないか。さ、て、と……仕事に行きますか」

そう、自分には、この葛条豊久(かつじょうとよひさ)28歳には……なんの取り柄も持ち合わせてはいないし、28年生きてきた中でこれといった事の実績、功績を残してきた訳じゃない。故に、己自身に抗う資格はないのである。真に抗っていいのは、そのために戦ってる人間のみだ。



ACT 1 死の果て

「忘れ物は……ないな。おし、行くか。」

葛条は介護に従事する一般男性だ。半年前まで北の施設で勤めていたが、遠距離の彼女のため大阪まで車を長距離走らせ来た。引っ越して間もない頃は、介護以外で金を稼いでいこうと思ったが経験がないし、彼女も1ヶ月辺りで不安を抱き始めたため、やむを得ず近場の施設にて再開、という形で今に辿り着いた。介護を始めたのも特別な理由はなく、学生時代に夢を見なかったがために就職しやすい業界を選んだだけ。彼女の幸せのために生きることを決意して来たことも、大半は彼女の愛犬に時間を取られ、一人の時間の方が割かし多い気もする。こう思えば、なにも自分にとって満足できる結果は生まれたことがなく、時々なんのために生まれてきたのかと問う時もある。死にたい時もあった。結果がすべて。結果を生み出せなければ生きてる事に意味は無い。


「お疲れ様です。」

到着し、いつものようにタイムカードを切り部署へと向かい挨拶する日常。今日は昼からの勤務のため、帰りは夜遅い。

「今日はどんな感じっすか?」

「あー、今日は○○さんが……」

ある程度の申し送りを受けた後、業務へと当たる。今日は帰ったらなにを食べようか、なんて考えながら。

ーーー時間は夜22時をまわり、終業となった。近くのスーパーは閉まっているためコンビニ飯か外食かを悩んでいたが介護業界は金銭にゆとりがないので、大人しく家にあるもので済まそうと急ぎ早に帰ることにした。

道中、最寄りの電車の駅が騒がしかった。救急車がいる。どうにも飛び降り事故が起きたらしい。いつも通る横断歩道が封鎖されており、少し遠回りしなくてはいけなくなった。とは言ってもたかが数分。駅員さんや、警察の方々を見るとこんな夜中に大変だなあ、とぼんやり考えながらチャリを走らせ遠回りし、別ルートを辿る。

葛条の家までは少し暗い道が続いている。そのため、一通りもあまり多くはない。こんな場所、女性なら歩かせたくはない道だ。

「あー寒い。もう春になるってのに夜はどうして冷えるんだか……」

大阪といえど、その日の気候の変化は激しかった。前日の夜はとても暖かくても、次の日には今日みたいに寒い。これがまた憂鬱な気分を昂らせて仕方ない。帰っても彼女が必ずしもいるわけじゃない現実。時折横切るカップルの姿が羨ましかった。いよいよ見えてきた我が家となるマンションの影。間もなくして着くだろうその刹那ーーーキィイイイ、ガシャンッッッ!!!

「ーーーッ?!?!」

大きな音と共に、自身の身体が宙を舞っていることに気付く。なにがあった。ああそうか……真下を見ると、どうにも車に跳ね飛ばされたみたいだ。結構勢いよく飛ぶもんなんだなあ……と、思考してコンマ0.1秒後、身体は、頭から強く地面へと叩き付けられた。




……、「ん……」

「おい!大丈夫か兄ちゃん!怪我は……あれ、間違いなく飛んでいたような……」

目を開くと、目の前にはぐちゃぐちゃになった自転車と、フロントやバンパーが壊れてしまった車があった。その運転手が俺の身体を揺さぶり、とても不安でいっぱいの焦った表情で心配をしているのがわかった。しかしおかしい。覚えている。落ちて死ぬまでのあの光景を、あの瞬間を。終わって諦める意志を固めた後に絶命した、あの映像を。ないのだ。すべて無かったかのように身体は無事だったのだ。跳ね飛ばされた証拠はしっかりとあるのに。

「あれ、俺……、いやすいません。なんか無事……みたいっす」

「あ、ああ。……けど…………、」

「問題ないっす。警察一応呼びます?ああでも……、うん。マジ身体大丈夫なんで、お互いの自転車と、車、どっかにぶつけた体にしましょ。幸い誰も見てないし」

「ほんまにええんか?も、もし身体に異常があったら困るから、連絡先だけ渡しとくからさ、引いちまったのは事実だからそん時はちゃんと出るとこ出るから!!すまねえ、ありがとな!」

こうして運転手は前側が少し壊れてしまった車を走らせ、去っていった。正直身体が傷付いてない以上は早く帰りたかったし、面倒事にはしたくなかった。自転車は買い直しとなるのが財布に痛いから、その金額だけもらっておけば良かっただろうか、と少しの後悔をし、何事もなかったかのように壊れた自転車を携え残りを歩く。

ようやく辿り着いた家。しかしながら、先程のあれは、なんだったのか。仕事着を脱ぎ、身体を見るも特に変わった様子は無い。頬を抓るも痛みがあるため、夢では無いし、死の世界でもない。じゃああれはなんだ?

「……特殊能力かなんか宿しちゃった?……なわけ、か。もしかして跳ね飛ばされた瞬間に頭がバグったかなんか……かな。うーーん」

考えても説明がつかない現象。とりあえず無事だからいっか……と考えたいが今日の人身事故を、ふと思い出す。飛び降りるほどに人生悩ませれて死を選んだその人。自分は死ぬまで悩んでいないのに、死ぬ場面で死なず生き残った。なんだか申し訳ない気持ちになった。とりあえず今日のことは誰にも話さず墓場に持っていこう。そう決意し、かなり遅めの夕食、もしくは夜食を食べ、風呂を済ませ、床に着く事にした。



ーーーおい、聞こえるか阿呆。

「……え?なに?」

就寝してからすぐのこと。声が聞こえる。しかも、馬鹿にされている。幽霊?でも金縛りにはあっていない。と、なると。

「もしかして、今日俺を助けた背後霊的なやつ?」

誰もいない筈の空間に投げた問いは、冗談で掛けた声は間を置くこともなく自然と反応を示した。

「そうだよ、僕だ。」

「え、マジで話してるの。こわ。夢すか?俺もしかしてやっぱ死んでる??ここ死の世界かなんかですか?死神様ですか?」

混乱。しかし、不思議と落ち着いていて、むしろ興奮。夢じゃないのも、感覚がある以上、話し声が自分で聞こえている以上、明確にリアルを感じてる。突然輪郭を見せ始めた非日常感。口角が緩む。

「怖いのはこっちだよ阿呆人間。お前、車に跳ねられ時もそうだし、今もだけど恐怖、て感情ないの?まあいいけどさあ……そんな人間をたまたま見付けて興味を抱いたのは僕だし」

「……とりあえず質問答えてくんない?なにモン?ここもしや事故物件で地縛霊的な?」

「……特に名称はない。ひとつだけ言えるなら僕はお前に興味を抱き、傍観していた透明ななにか、だ。お前のことは大体見せてもらった。大変な人生歩んでんだね。家族に恵まれず、良き友達にも恵まれず、常に孤独。自分を出そうものなら嫌われるから、嫌われないために必死に周りが好きな人を演じる……やがては自分がなくなって、基本的は思考を放棄している。みんなそれぞれ欲に塗れているのに、人のために生きなきゃ価値がないと考えるに至る……」

「…………んじゃ透明人間さん、て呼ばせてもらいますけど、それを知って近付いてなにが目的なんすか。意図がまるで伝わらない」

「まあ、確かにこれだけじゃただの覗き魔かなんかだよね。僕はね、お前にすべてを思うがままに変えれる力を渡してみたいんだ。オールマイティ、とでも言うのかな?基本的には無気力ではあるものの、いざこういう力を与えると、クッソおもんない世の中を愉快な世界に変えてくれるんじゃないかなあーーーて」

「…………その力は、例えばだけど人を簡単に殺せたりする?」

「ッ!いいね!!色々と観察はしてたけど、破壊欲みたいなのあるんだ!?うんうんやれるやれる!マジ殺れる!!」

ーーーマジか。今向き合ってる目に見えない存在の言葉は、更に自身の感情を、今まで感じたことがなかった腹の底の冷めきった衝動をふつふつと沸かしていた。その力の使い方まで説明されていないが、もしかして、もしかすると気に食わない存在を、必要ないと感じるそれらをしっかりと処罰できるのではないだろうか。

「……くれ。こういうの対価が必要だろ?なんだ。」

「ーーーー寿命半分。」

「ノッた。」




ACT 2 開演

力を与えてもらった後、見に見えない存在ことポルターと命名し、寿命の半分、残り10年程となったが契約を結ぶ代償として渡した。実際はもらった感覚はないが、細かな説明は夜も遅く眠い事を伝え、翌日にしてもらった。

ーー「おはよう葛条くん。」

「……ポルター、だよな。おはよう。やっぱ夢じゃねーのな。これさあ、……人を殺したら警察に捕まるんじゃねえかな、て寝る前に思ったんだけど、どうなん?」

「その辺は問題ない。殺したら君と、僕以外の記憶からは完全に抹消される。いた存在の証拠までもがなくなる」

「へえ、すげえな。てかさ、他なにできんのその力とやらは」

「オールマイティの名前を冠しているのだから、できないことはない。葛条くん、簡単にイメージするなら君はクリエイターだ。想像したままに、世界は現実となる。例えば今、……時間を止めたいと願えば止まるし、金を溢れさせたいと思えば溢れる。欲しいものも願えば手に入る」

「チートじゃん。じゃさじゃさ、……ゲームしてる相手、敵としてマジうぜえやつも、願ったままにできる?」

「もちろん。とりあえずもらうものは間違いなくもらったし、喋るのも力使うから、しばらく黙って君の生き様を見ておくよ。後は自由にやってみて」

「……おっけー」

今日は仕事休みもあり、力は試せる。まずは……、ずっと前なら思っていたゲーム相手への報復だ。早速、某銃撃ゲームをやる。


「うわ、今日平日なんにプラベ勢かよ。うざ。」

今日も今日とて、こういったゲームにガチ勢、いわゆる本気でプレイしているが溢れている。のんびりとやりたい自分の邪魔をされるため常にストレスの対象ではあったが……

「……願えば思うまま。前にしてみたかった、俺を攻撃の対象にした瞬間に自分にダメージ食らってダウンする」

ガチ勢との邂逅。想像したそれを口にした瞬間、本来ならこちらが倒されるべきところを、敵数人が次々と謎の壊滅。うわ、マジやん。驚きとともに歓喜、そして溢れる狂気。他も同じように壊滅させた後、SNSで晒されていると動画付きで話がきた。

チーター顕る。確かにこれはチートだが、データーはいじっていない。好きに言ってろ、と適当に流したが、時間が経つとアカウントがBANされていた。

「まあそうよな。……けど、もしかしてだけど」

アカウントはBANされず元通り、と願うとなにもなかったかのようにログインできた。そのため、界隈ではさらにヒートアップし、自身を叩き常に名前が出回るようになった。正直気持ちが良かったが、同時に仲間からは見放された。

「思ったよりもつまんないなあ。たかがゲームだし、こんなんに死人出すのもどうかと思うから……」

やめた。テレビを点けると、今日も良くないニュースが流れていた。ある男たちが、迷惑行為を働いたにも関わらず、逮捕などされていないことについてだ。

「……こういうのが世の中いるから腐るんよな。けど顔も名前も知らないから死ね、て思っても出来るんかな……死ね」

ーーー速報です。さきほど、迷惑行為を働いたとされる男性4人の死亡が確認されました。

「え、、え?」

まさかの、顔を見ずとも殺せてしまった。思わぬ出来事に、ついテレビに釘付けになってしまった。しかし、死亡が確認されている以上、ポルターの話していた状況と違う。もしや、そこまでの願いが必要なのか。ともあれ、このニュースをきっかけに某SNSのトピックでは上位にあがり……

「当然の報い!」

「あほが減ってよかった!」

「見てる人は見てる。そういうこと」

「悲しくもなんともない事故」

と、コメントが賑わった。


「……は、はは。すげえ、ほんと。」





……end

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