七
その後、せっかくならと遥さんも遊びに加わり一日が過ぎていった。
今は皆と別れ、もうすぐ家に着くと言うところを歩いている。
家の外に着くと、真っ黒なセミロングの可愛らしい少女が髪を靡かせながら玄関から出てきた。身長は佳奈よりやや低め。多分佳奈が呼んだ友達だろう。
「こんにちは。気をつけて帰ってね」
優しく微笑みながら声を掛けたのだが、何が気に食わなかったのか凄い目で睨んできた。
「あなたが佳奈のおにーさんですか?」
心做しか声も怒気を含んでいる気がするし、若干怖い。
「いえ、父です」
「あっ、佳奈ちゃんの友達の補伽 藍菜です――ってそんな若い父いるわけないじゃないですか!」
誤魔化そうかと思ったがさすがに無理だったので素直に白状する。
「はは、ごめんね。兄の健也です」
「やっぱりおにーさんなんですね。……自分の妹をも手にかけようとする変態!」
下衆を見るような目で俺を見つめてくる。
「待て待て待て! なんで俺初対面の女の子にそんな事言われてんの!?」
「佳奈ちゃんに危険が迫ってるなら友達として助けるのは当たり前だからです!」
がるるぅ! と威嚇する犬のように敵意が剥き出しだ。
「なんでそんな勘違いをしてるのか分かんないけど、手を出そうとなんてしてないぞ」
「嘘ですね! 佳奈ちゃんから聞きましたよ。普段から頭撫でたりハグしたり、キ、キスも……」
「キスはしてねぇよ」
頭撫でたりハグしたりは兄妹のスキンシップだからな。だがキスはするはずがない。それは兄妹がすることではないだろう?
けれど、それを佳奈から聞いたというのはどういうことなのだろうか。
「どうですかね。キス以外否定しないと言うことは少なくてもハグまではしてるって事なんですね。今日の所は帰りますけど、絶対にその化けの皮を剥ぐので覚悟してくださいね!」
指をビシッと俺に向けて宣言し、帰っていった。
「何だったんだ、一体……」
訳が分からなかったが、とりあえず家に入った。
「佳奈、ちょっと部屋に入ってもいいか?」
コンコンと扉をノックし呼び声をかけるとすぐに返事くる。
「どうぞー」
部屋に入るやいなや今起きたことを伝える。
「……って事があったんだけど」
「藍菜ちゃん思い込みが激しいところがあるからね」
なんでも日頃のスキンシップを軽く話したら、勝手に誇張して受け取って、訂正しても聞く耳を持たなくなったとか。
「明日になれば落ち着いてると思うからまた言い直しておくね」
「ああ、頼む。流石に初対面であんなにボロくそ評価だとヘコむしな」
人間第一印象が大切とはよく言うが、本当にその通りだ。既に俺はあの子の印象はかなり悪い。もちろん、佳奈を守ろうとしての行動らしいからそこには好感を持てるが、正直俺はもう関わりたくない。
しかしそんな思いは虚しく散ることとなる。