六
「まさか2日連続で来ることになるなんて……」
あの後康太と呼び出された場所は昨日の映画館にあるゲーセンだった。
「映画どうだったんだ?」
「俺だけめちゃめちゃ気まずかった」
昨日を思い出しながら、クレーンゲームにお金を入れる。
「お前だけなの? 妹ちゃんは?」
「めっちゃ真剣に観てたよ。あっ、くそ」
追加でお金を入れ、再度操作する。
「マジか、あれって兄妹の恋愛ドラマだろ? それを兄妹で観に行ってよく真剣に観れるな」
康太も俺の隣のクレーンゲームを始める。ちなみに、すでに彼の足元には数個の景品が置いてある。
「俺はキスシーンは何とか耐えたけど、濡れ場は逃げた。あ」
持ち上げた景品を力なく離すアーム。次で取ると意気込んで更にお金を投入。
「そりゃそうだろ。寧ろそこを観てられる妹ちゃん凄いな」
……一発で景品を取る康太。俺も負けじと更にお金を入れる。
「……………………お前、流石に下手くそすぎだろ。取ってやろうか?」
「これは俺が取る事に意味があるんだ。俺が取らなかったら佳奈にあげられん」
「また妹か。どこまでも妹想いなんだな」
はぁ……とため息を吐きながら呟く。
俺たちはしばらくこんな感じでゲーセンを過ごした。
ゲーセンを後にした俺たちはひと息つこうと近くの喫茶店に行くことにした。
喫茶店の扉を開けるとカランと入店の知らせのいい音がする。
「いらっしゃいませ。空いてる席へどうぞー」
レジの奥の人が作業をしながらそう声をかけてきた。
店内はそこそこ空いてるいる。時間帯にもこれくらいが普通なのだろうか。とりあえず近くにあった4人テーブルに腰を下ろした。
座ってメニューを見ていると店員さんが水を運んでくる。
「ご注文、決まりましたら、お呼びください」
その声は聞き覚えのある声で、俺は反射的に顔を確認した。
「え、星乃さん!?」
そこに居たのは昨日セイザリヤでバイトをしていた星乃さんだった。
「本当だ、星乃じゃん」
「はい、星乃、ですが……?」
星乃さんは少し戸惑っているみたいだ。
「セイザリヤと掛け持ちでバイトしてるんですか?」
少しぽかんと要領を得てない顔をしていたが、何か思い出したかのような表情をし、少し咳払いをした。
「……正解っ! 掛け持ちしてるぞっ!」
さっきまでは少しおっとりした雰囲気があったのだが、今は昨日や学校に居る時と同じ普段の雰囲気になっている。
「凄いね、バイトやるだけでも大変だと思うのに、掛け持ちなんて尊敬するよ」
それを聞くと少しバツが悪そうに目を逸らした。
「あはは〜……そ、それより注文は決まったかなっ?」
「俺ブレンドコーヒーで」
「じゃあ俺もそれで」
「かしこまりました」
頭を下げ、厨房の奥へ入っていった。
それからしばらくするとコーヒーを運んできて、ごゆっくりどうぞ。と添えてすぐ戻っていった。
コーヒーを飲みながら康太と雑談をしていると、店の扉が少し強めに開かれ、焦りながら人が入ってきた。
音が響いたことで近くにいた人たちはそちらに注目する。俺達も目を向けた。
「「!?!?」」
俺たちは揃って驚愕した。入店してきたのは、星乃 遥だった。
「 星乃さん!? 」
彼女もこちら側に気付いたようだ。
「高田くんと西沢くん……?」
少し困惑し、何かに気付いたようにはぁ……と、額に手を付きながらため息をつき、こちらにやってきた。
「どうなってんだ?」
「ごめんなさい。多分もうすぐ来ると思うんだけど」
星乃さんが喋っていると、店員さんがやってきた。
「ドッペルゲンガーかよ……」
「これは勘違いするでしょ……」
店員さんは星乃さんの隣に立ち並んだ。立ち並ぶ2人は瓜二つ。
「ごめんなさい、この子の悪ふざけなの」
「私は、星乃彼方。遥の、妹。よろしく、ね」
店員さんもとい、彼方さんは最初のおっとりした雰囲気に戻り、自己紹介をした。
「真似が上手いというか、ネタばらしされた今でも信じられないな……」
今何とか見分けが付いてるのは、彼方さんがバイトの制服を着てるからで、私服に戻ったら絶対に見分けがつかないと思う。
「遥の、マネ、造作も、ない」
フフンとドヤ顔をする。
じっくり見比べると、瞼が一重か二重の違いがあった。遥さんが一重で彼方さんが二重だ。
「2人とも邪魔しちゃってごめんね!」
「遥も、コーヒー、飲んでいけば、いいのに」
帰ろうとする遥さんを彼方さんが止めようとする。
「2人に迷惑かけちゃってるのにこれ以上お邪魔する訳にはいかないでしょ」
「俺たちなら問題ないぞ。な、健也」
「ああ。どうせなら一緒にどうかな? もちろん星乃さんがよければだけど」
遥さんは少し悩んだ末、2人がそう言うなら……と席に着いた。
「2人ともパンケーキは食べれる?」
「ああ……?」
「食べれるけど……?」
いきなり何の話だ? と困惑する。
「彼方、私ブレンドコーヒーね。それと2人にパンケーキを」
「「え?」」
「わー、遥、太っ腹」
「ちょっと待って、俺たち奢られる理由なんて何も無いぞ?」
「いいの。こっちが迷惑かけちゃってるから。それから彼方? 何か勘違いしてるみたいだけど、あなたが出すのよ?」
「え……」
彼方さんが絶望したような顔になる。
「当たり前でしょ? あなたが迷惑かけたのだから。もちろん、私のコーヒーもね?」
「せ、せめて、半分はお姉が……」
「ね?」
「はい……」
とても俺たちが会話に口を挟める雰囲気では無かったので、大人しくしていた。
それにしても遥さんおっかねぇ……。俺は絶対に怒らせてはいけないと心に誓った。
その後、彼方さんは仕事に戻り、俺たち3人でしばらく喋りながらすごした。
その時に、星乃さんと呼ぶとどっちを呼んでいるか分からないから名前で呼んでくれと言われたので、それぞれ遥さんと彼方さんと呼ぶことになった。