三
週末になった。今日は佳奈とデートに行くことになっている。なぜいきなりそんな話になっているかと言うと、数日前の帰り道でのこと。
今日も今日とて佳奈と一緒に帰宅する為に校門で待っていた。
「お兄ちゃーん!」
「お、来たか。じゃ帰るか」
いつも帰り道は他愛もない話をしている。今日も変わらずしていて話が途切れたタイミングで佳奈が聞いてきた。
「今週の土曜日って予定ある?」
「特にないけど、どうかした?」
「じゃあ土曜日に映画見に行こ! 見たいのがあるの」
「あぁ、いいぞ、行こうか」
それを聞くと佳奈はまるで子供のようにやったー! と喜んだ。
翌日、授業の合間にいつも通り康太と駄弁っている。
「新学期始まって1週間近く経つってのに全然女子と話してないぞ!」
「そーだなー」
康太が変なことを口走り始めた時は適当に流すに限る。
「普通これからよろしくね。から始まってちょっとした事を沢山経験して仲良くなって、デートするようになって甘酸っぱ〜い青春ラブストーリーが始まるだろ!? なのに、これからよろしくね。すらないぞ!?」
「そーだなー」
普段からこんなことばっか言ってる奴と近付きたい人はそうそういないだろうしな。
「という訳で新学期になってから俺を置き去りにして妹と帰ってる健也君。その妹ちゃんを紹介して?」
「そーだなー……は? ぶっ殺すぞ?」
「おわっ、口悪っ!」
一体誰がこんなクソみたいなやつに大事な妹を紹介するっていうんだ。
とりあえずそんな事をぬかす康太をゲス野郎に向ける目で睨んでおいた。
「お前妹のことになるとキャラ変わるのな」
「キャラが変わるとかじゃなくて、誰だって妹を危ない目に合わせる事はしないだろ」
「なんで俺に紹介する事が危ない目に合うことになるんだよ!」
康太は頬をふくらませて不貞腐れていたが、まあいいやと切り出した。
「んじゃお前でいいや。週末に遊び行こーぜ」
「あー……わり、映画デートがあるから無理だわ」
デートと言う単語に康太が異様に反応し身を乗り出してきた。
「は!? お前いつの間に彼女っ……! 抜け駆けっ! さっきまでの余裕はそのせいか!」
「彼女じゃなくて妹な」
まだなにか言おうとしているところに、彼女じゃないことを告げるとしばらく固まり、はぁ……と安堵した表情でため息を吐く。
さっきからテンションが忙しいヤツだな。
「ビックリさせんなよな。ただのお出かけをデートなんて大袈裟に言うから、彼女が出来たのかと思ったぜ」
「それはお前の早とちりだ。でもデートはデートだぞ。男女が一緒に出かければそれはデートだ」
「なんとなくそんな気はしてたけどお前、シスコンだろ。それも極度の」
呆れた表情をして告げてくる。
「否定はせんな」
中学では周りから散々シスコンシスコン言われたものだ。1年ぶりに他人の口からシスコンと言われたな。
「それで? なんの映画見に行くんだ?」
やや疲れた顔をしているが、まだ話を続けるみたいだ。
「『Forbidden Love』ってのらしい。どんな内容か知らないけど」
「えっ、お前兄妹でそれ観んの……?」
驚愕して目を見開いているのだが、そんなに驚かれるような内容なのだろうか。
「おっと、ネタバレはやめろよ?」
「いや……お前がいいならいいんだけどよ」
何故か康太に若干引かれている気がするのが、腑に落ちないなと思いながらその後の授業を受けた。
そんなこんなで今日は佳奈と映画デートになっている。
デートなのに一緒に家を出るってのも味気ないから、外で待ってるとだけ声をかけて家を出た。
それから10分程すると玄関が開く音が聞こえ、振り向く。
「お兄ちゃんお待たせ!」
佳奈の姿を見て息を呑んだ。
普段はサイドテールの彼女だが、今日はちょこっとだけ髪を結んでいるバードテールだ。
服装も、もちろん部屋着とは違い、余所行きの格好。端的に言えばオシャレでとても可愛い。
いつもとは全然違う彼女についつい見入ってしまう。
「お、お兄ちゃん……?」
「とても似合ってるよ。つい見惚れちゃうぐらい可愛いな」
俺の素直な感想を口にすると顔を赤らめ、恥ずかしがる。
「う、嬉しいけど、さすがに恥ずかしい……。ほら行こ! 映画始まっちゃう」
その恥ずかしさから逃げるかのように映画館に向かって歩き出した為、俺も慌てて後を追い、横に並び、一緒に歩いていった。