缶コーヒー、そう使うんですか!?
「なろうラジオ大賞4」にチャレンジしました。
急に出張となった。『営業部長と合流し、取引先でプレゼンせよ』だそうだ。担当の課長が行うはずだったのに。
「大事な要件を忘れてて、今そっちの現場に向かってるから。部長には『資料を作った詳しい者を向かわせます』と言っておいたから、代わりに行って!」
という課長の電話を出社一番に受け取った。今日予定していた仕事が半分くらい出来なくなった。進捗遅れはアホ課長のせいだ。
それよりも、部長の人柄が分からない。確か『指摘が鋭すぎて、本当に胃が痛い』と、課長はよく愚痴を漏らしていたような。え、怖いのだけど。
プレゼンはすんなりうまくいった。先方は担当である課長が来ないので驚いていたようだが、気を使ってくれたようだ。『なぜ担当者が来ないのだ』と怒られても当然なのに、心の広い人に救われた。強面の部長もフォローしてくれた。
駅に着いたのはお昼時。次の新幹線で帰れば三時の打ち合わせには間に合いそうだ。部長も営業会議があるとかで一緒に帰る事になった。『突然な事なのに丁寧にやってくれた』と褒められ、駅弁を奢ってもらった。三種類の海鮮が入った小さめの丼。
食べ終えようとした時に、車内販売がまわって来た。
あれは、憧れの、凄い硬いアイスでは?
『ビジネスパーソンたるもの、凄い硬いアイスを攻略してこそ一人前』という。
いかねば。
「それ、着くまでに食えんぞ」
部長が私のアイスを指差す。
「本当ですか?」
「たぶん着くまでスプーンも刺さらんぞ」
「え、それは困ります・・・」
「コーヒーは飲めるんか?」
急にコーヒーの話を振られた。
「はい? 飲めますけど?」
「ちょっと待っとれ。あとこれ使わせて貰うで」
部長は、食べ終えた私の丼を持ってデッキの方へ向かっていった。それからすぐ戻ってきて、綺麗になった丼を目の前に置いた。「文句は言うなよ」と言いながらアイスを奪い、アイスのカップ部を丁寧に剥がし、洗った丼に中身を移し替えた。
何が始まるのかと見ていると、部長が買っていたエスプレッソの缶コーヒーをパキュっと開け、丼の中のアイスにかけた。
残りの缶コーヒーを渡された。ほんのり暖かい。
「ほら、これで溶かしながら食え。アフォガードや。大事な用事を忘れるようなアホから守ったる」
最後の一言がなければ素直に尊敬できたのに。
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「わしがイタリアにおった頃は、よくこうやってアイス食っとったんや」
「え、イタリア赴任されていたのですか!?」
「・・・ウソや」
という会話もあったとか