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008 豪邸とボロアパート

 リリアに案内されると景色が商店街から高級住宅街へと変貌していった。まさかこの辺に住んでるのか?


「リリアってもしかして金持ち?」

「……あら、そんなことも知らないのね」

「なんだよ今の間は」

「何でもないわよ」


 言葉とは裏腹にどこか嬉しそうなリリアに首を傾げるしかない。女心とやらを理解するのは難しそうだ。

 高級住宅街の中心地に大きな屋敷のような建物が見えた。ハッ、あんな建物に住んでいるやつの顔が見てみたいぜ。


「ありがとう、ここだから」

「ってお前かよ!」

「はぁ? 何の話?」

「いや……すげぇ家だな」

「まぁ最初はみんな驚くわね」


 近くで見るとよりその壮大さが理解できた。

 洋風な煉瓦造りの建物で、屋根も日本家屋のそれではない。庭には小さな噴水があり、セレブの雰囲気を隠す様子すらない。


「んじゃ気をつけて帰れよ」

「えっ? う、うん」

「どうした? 変な反応だな」

「べ、別に何でもないわよ。じゃあね、また明日!」

「あ、ちょっと待った」

「ん?」

「リリアの連絡先を教えてもらおうと思ってな。彼氏なのに連絡先すら知らなかったし」

「そういえばそうね。はいこれ」


 リリアは高そうなスマホを取り出し、QRコードを見せつけてきた。それを読み取り、リリアを友人に登録する。


「よしっ、ありがとな」

「連絡先を教えるのはいいけど、むやみやたらに連絡してこないでよ?」

「うっ……よく俺の行動が読めたな」

「アンタ舞い上がってるし。可愛い私と付き合えたことが嬉しいのはわかるけど、あくまでギャンブル上の彼氏であることを自覚しなさいよね?」

「あぁ、わかってんよ」

「そう。ならいいけど。じゃあね」


 小さく手を振ってリリアは屋敷の中へ吸い込まれていった。

 ギャンブル上の彼氏……まぁそうだよな、リリアにとってはその程度の認識のはずだ。

 だが俺は負けない。いつか正真正銘、リリアが胸を張って紹介できるような彼氏になってやる。

 俺は目に毒な高級住宅街を抜け、商店街に戻りそのまま帰宅した。この小さなボロアパートが逆に落ち着きを与えてくれる。

 今夜リリアに電話をしたら迷惑だろうか。部屋でゆっくりと考えるかな。


「ただいま」

「うおっす! おかえり大将(たいしょう)

「姉貴……帰ってたのか」

「なんだなんだ? 帰ってたら悪いのか?」

「いや別に」


 悪いわけではないが、リリアに電話するという選択肢はなくなったな。

 姉貴はちょっと離れた場所で働いている社会人だ。成人済みで、すでに酒に溺れている。現に今も発泡酒飲んでるし。

 姉貴がいるということは俺の部屋で寝るということだ。この家には個人の部屋という概念がほぼないので、俺の部屋は姉貴の部屋でもあるのだ。


「おい大将(たいしょう)、飯は?」

「ちょっと待ってろって。今帰ってきたところだろ」

「あーん? お姉さまに対して何だその口の聞き方は」

「今帰ってきたんだから少々待てますよねぇお姉さまぁ!?」

「んだとこの愚弟(ぐてい)が!」

「死ねクソ姉貴!」


 右ストレートでぶん殴る。

 俺は女に手をあげるほどクズではないが、こと姉に関しては別だ。この女の傍若無人ぶりには手をあげないとやってられない。酒が入ればなおさらだ。


「やったなこらぁ!」

「ぐっ!?」


 姉貴は姉貴で空手をやっていたので、ぶっちゃけ俺より強い。だから俺も姉貴に対抗するために強くなった。いかつさはこの家の環境からも生まれていると言えるだろう。


「なんだなんだ帰宅早々うるさいなぁ」

「親父!」

「ちょっと聞いてよオヤジ! 大将(たいしょう)が殴ってきたんだよ! 乙女にだよ!」

大将(たいしょう)……気持ちはわかるが女の顔に拳を入れるのはやめなさい」

「その分俺はみぞおちに的確に3発撃たれたんだが?」


 親父は喧嘩がすこぶる苦手だ。必要最低限の筋肉しかないし、そもそも性格的に争いを嫌う。よくこの家で生きてこられたなと感心するぜ。

 こんな家だからお袋は出ていったのだろうか。まぁ過ぎたことを考えても仕方がねぇが。


「ほら、片付けて飯にするぞ」

「ほーい」

「あーい」


 弱っちい親父だが、それでも俺たちを育ててくれた立派な父親だ。感謝もあるし、尊敬もしている。できるだけ親父の言うことには従いてぇ。

 この家の炊事係はお袋が家を出てからは俺が担当することになっていた。姉貴は向いていなかったしな。リアルにゲロ吐くほど不味かった。


「ほら、夕飯だ」

「白米とちくわとクソ硬い肉。なんか帰ってきた感あるわ」

「文句言うなら食べなくていいぞ」


 うちの収入だとこれくらいのものしか食えないんだっての。クソ硬い肉だって味は悪いが貴重なタンパク源だ。


「そういえば大将(たいしょう)、お前今日商店街を女の子と歩いていたのか?」

「えっ! オヤジ何その話!」

「親父……見てたのか?」

「いやいや、帰り道に魚屋の店主が教えてくれたんだよ。えらいべっぴんさんと歩いていたぞってね」

「チッ、余計なことを……」


 まぁ俺は悪い意味で目立つし、リリアはいい意味で目立つ。そんな目立つ2人が歩いていたら知り合いにバレるのは当然か。

 姉貴はもう聞きたくて仕方がないという顔だ。ここで黙ったら首絞められそうだ……仕方ない、正直に話すとするか。

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