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005 初デート

 俺のことは変人として学校に知れ渡っていると小耳に挟んだことがある。

 191センチの長身に天パでギザ歯。こんないかつくて変人らしい俺だが、今日初めて女を連れて校舎を歩いている。だからか、周りの奴らが不思議そうな目を向けてきやがるのは。


莉里(りり)のせいで注目を浴びちまってるな」

「どちらかと言うとアンタのせいじゃない? 私1人の時はいやらしい視線しか感じないし」

「どいつだ? どいつが莉里にいやらしい目を向けていやがる?」

「ちょ、やめてよ喧嘩っ早いんだからもう! 男の嫉妬は見苦しいわよ」


 群衆に向かって歩き出そうとした俺の腕をリリアが握って足止めした。腕にリリアの胸が当たり、心臓が跳ねたのと同時に頭は冷静になった。


「チッ……まぁ莉里はとびきり可愛いからな、そんな男が出るのも自然なことか」

「お、おぉ……」

「んだよその微妙な反応は」

「何でもないわよ!」


 相変わらず感情の起伏がよくわからんやつだ。

 とにかく視線を集めて仕方がなかったが、なんとか突っかかるのを我慢して校門を出た。はぁ、やっと自由の身だぜ。


「うっし、じゃあどこに行く?」


 ギャンブルに負けた俺に課されたのはどこか一つの場所に寄ること。まぁリリアの指定した場所という制限はなかったので俺が決めればいいんだが、なんとなくリリアに聞いてみた。


「そうね、手っ取り早いのはホテルよね」

「馬鹿か」

「真面目に言ってるんですけど?」

「だから馬鹿かって言ってるんだよ」


 本気なほどタチが悪い。まぁこれも勝負だから効率重視で挑んでくるリリアは間違ってはいないんだけどな。

 とはいえホテルに連れて行かれたら間違いなくこちらが敗北する。俺がホテル行きを賭けたギャンブルに負ける以外では足を運ばない方がいいだろう。

 リリアの意見を汲むことは早々に諦めて、どこへ向かうか思案した。ちょっとした商店街に入った瞬間、その答えが見つかった。


「おいリリア、あそこはどうだ?」

「んー? ゲームセンター?」

「おう。久しぶりに行ってみてもいいかもしれねぇと思ってな」

「まぁいいんじゃない? 健全すぎて面白くないけど」

「一応真面目くんたちにとってはゲーセンだって不良の溜まり場なんだぜ?」


 ゲームセンターは平日とあってそんなに混み合ってはいなかった。これならまぁゆっくり遊べそうだな。


「アンタ、貧乏なのにゲームセンターで遊ぶお金はあるの?」

「馬鹿にし過ぎだ。100円くらいある」

「100円しか出せないのね。ケチくさ」

「ハッ! じゃあ見てろよ、俺が100円でどこまで遊べるかをな」

「100円でなにを……メダルゲーム?」

「あぁ。100円で12枚のメダルが買える。12枚なんて素人だと一瞬で無くなるだろうが、俺なら余裕だぜ」


 ダセェところは見せられねぇぞと自分に言い聞かせ、100円をメダルに交換した。

 大型のメダルゲーム台も楽しいが、12枚スタートからだと分が悪い。ここはミニゲームコーナーから手札を増やすのが定石だ。


「そのゲームに決めたの?」

「あぁ。1番得意なんだ」

「子どもっぽい」

「なんとでも言え」


 俺が選んだのはちゃっちい台だ。ルールは簡単で、ボタンを押すとモニター内で銃が発射されて景品を落とすとメダルがもらえる、要するに射的のメダルゲームバージョンってやつだ。

 もらえるメダルはばらつきがあり、1枚から100枚まである。もちろん100枚なんて何回狙っても落ちないけどな。


「これもギャンブルだ。俺は今から3枚の景品を狙う」

「落ちないでしょ」

「いーや、落ちるな。これは理論ではなく……直感だ!」


 ボタンを押し、銃が発射されると狙った3枚の景品に直撃した。3枚の景品は嘲笑うかのようにグラグラと揺れ、その数秒後に向こう岸へと落ちていった。


「すご……アンタこういうのも強いんだ」

「まぁな。ほれ、今獲得した2枚で遊んでみるか?」

「じゃあ私は100枚狙いで」

「おいおい、とんだギャンブラーだな」

「いいじゃない、夢くらい見させてよ」

「まぁそうだな。設定上0ではないはずだ。どうする? それが落ちるかどうかで俺らの方でもギャンブルするか?」

「ふーん、まぁいいけど。じゃあ落ちたら私とプリクラを撮ってもらうわ」

「プリ……なんだって?」

「どうせ知らないと思った。まぁ説明は後にするとして、どう? 受ける?」

「あぁ。もし落ちなかったら今日はここで解散だ」


 プリなんたらの正体がわからない以上、こちらもそこそこのものを賭けさせてもらう。

 もっと一緒にいたい気持ちもあるが長期的に考えればさっさと解散したほうが有益なはずだ。

 リリアはゆっくりメダルを入れ、100枚の景品に狙いを定めた。

 落ちるわけがねぇ。あれは俺がガキの頃に30回は狙ったことがあるが、一度も落ちなかった。そういうふうに設定されてんのさ。

 リリアはボタンを押し、銃弾を放った。100枚の景品に直撃するも、ピクリとも動かなかった。


「ほらな、落ちねぇだろ」

「あらそうかしら? 見てなさいよ」

「なに?」


 突如画面に黒いモヤのようやものが登場した。そのモヤはゆっくりと100枚の景品に近づいていき、コトンと景品を奥へ突き飛ばしてしまった。


「は、はぁ!?」

「ふふ、私の大勝利ね」


 小さなゲーム機から100枚のメダルが放出される。その爆音に消されないよう、俺は大声で叫んだ。


「ありえねぇ! てかなんだよ今の演出!」

「さぁ? なんでしょうね?」


 一瞬だが、黒いモヤはリリアの尻付近へと入り込んでいった気がした。まさか……イカサマか!?

 立証できないイカサマに負けた気がする。これが一番悔しいってことを17年生きていて初めて知ったぜ。

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