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004 完敗だ

「なんで机をくっつけるのよ」

「昼飯食うならこうだろ? あれ、高校生は違うのか?」


 しっかりとした友人は小学生の頃できたきりだからな。昼飯時にどうするかなんて知らねぇんだ。

 俺に付き合ってくれるのか、リリアの方も渋々ながら机を合わせてくれた。


「いただきます」

「……」

「ん? 食わねえのか?」

「……私が食べるのは精気だけ。それ以外から栄養補給なんてしないわ」

「そうなのか。ん? じゃあ大変じゃないか? 昨日から半年間も何も食べられないんだぞ?」

「問題ないわよ。すぐにでもアンタから貪り食ってやるんだから」

「はははっ、面白え」


 さっき負けたくせに俺に勝つ気でいるのか。それほど自分の誘惑に自信があるのかねぇ。


「アンタの方こそずいぶん質素なお昼ね」

「あ? まぁ貧乏だからな」

「ふーん。それでよくそんなに精気がついたものだわ」

「不思議なもんだぜ。精気が強いやつの特徴とか知らねぇのか?」

「そうね……性欲が強い男とか?」

「なるほど……」


 比較対象がいないからな、強いのか弱いのかなんて知らん。

 参考にならないと思い、日の丸弁当をかき込むとジロジロと見られていることに気がついた。


「んだよ?」


 クラスメイトたちにガンつけて質問すると、そそくさとどこかへ逃げてしまった。チッ、目つきが悪いくらいで怯えてんじゃねぇよ。

 悪友の1人は残っていたので、何かおかしいか? と聞いてみた。


「いや……賭崎(かけざき)月姫(つきひめ)さんとお食事しているなんて意外だなって思ったんだよ」

「ん? まぁ付き合っているからな」

「へー付き合って……はぁ!?」

「ちょ、ちょっと待って!」

「あ? 付き合ってるだろ?」

「そ、それはそうだけど……そうなんだけど……」


 ほんのり顔が赤くなったリリアを見て萌えを理解したが、次の瞬間俺の頭はブンブンと揺らされてしまった。

 悪友の野郎が俺の両肩を掴み体を揺らしてやがる。俺ってまぁまぁ体重あるのによく揺らせるな。火事場の馬鹿力ってやつか?


「なんだなんだ」

「お前! ギャンブル以外に興味なかったんじゃないのかよ! よりにもよってクラスで1番可愛い月姫さんと付き合うだなんて……おかしいだろ!」

「まぁ俺だって信じられねぇがな。幸せってのは……案外近くに落ちてるもんだぜ」

「クソムカつく!」


 そうだろうな。俺だって逆の立場になって言われたらクソムカつくわ。


「月姫さーん! こんなギャンブル狂いのどこがよかったんですか?」

「え、えっと……や、優しいところかな?」

「あ? 精力が強いとムゴゴッ!?」


 本当のことを言おうとするとリリアは止めてくるんだな。オーケーわかった、この2回で理解したぞ。

 悪友は何が何だかといった表情で立ち去っていった。それを見たリリアは少し悪い顔をして、俺に耳打ちをしてきた。


「ねぇ、今からギャンブルをしない?」

「ギャンブル? お前が俺に持ちかけるなんていい度胸じゃねぇか」

「私が勝ったら放課後デートはただ帰るだけじゃなく、どこか1箇所には寄ること。アンタが勝ったら好きにしなさい」

「……いいだろう。賭けの内容は?」

真鍋(まなべ)くんが座るまでにこちらを振り向くかどうか。私は振り向くと思う」

「なるほどな。じゃあ振り向かない」


 真鍋って誰だ? と思ったがどうやら俺の悪友の名字らしい。まったく知らなかったぜ。

 それにしてもリリアはずいぶん無謀な賭けに出たな。俺の席は1番後ろ、真鍋の席は1番前だ。とはいえ狭い教室の前から後ろなんて距離、たかがしれている。この勝負も俺の勝ちだぜ!

 ほら、真鍋ももう席にたどり着いて椅子を引いた。あとは座るだけだ。


「おーい! 真鍋くん、財布落としてるよ!」

「なっ!?」

「マジっすか? ありがとうございます、助かりました」


 リリアが真鍋を呼び、当然のように真鍋は振り返ってこっちまで来て財布を受け取った。

 真鍋は財布を尻ポケットに入れる……まさかリリア、真鍋の尻ポケットから財布を盗って呼び止めること前提で勝負を挑んできたのか!?


「汚ねぇぞ莉里!」

「んー? 何がかな?」

「この……!」

「っていうか、ギャンブルにイカサマって付き物じゃない? こんな初歩的なイカサマにやられるようじゃ、アンタもそこまでってことよ」


 ……確かにそれはそうだ。

 金がかかったギャンブルの世界ではどれだけイカサマが横行しているかなんて想像に容易い。今まで資産を賭けたことがなかったから甘い考えが染み付いていたらしいな。真剣勝負だとイカサマも考慮しないといけないわけか。


「チッ、完敗だ」

「あはははっ、これで1勝1敗ね。アンタに泥をつけられたこと、光栄に思うわ」

「まぁいいさ。俺が最終的に勝てばそれでいい」

「……アンタ、そんなに私と付き合いたいの?」

「あぁ。惚れたからな」

「……あそう」


 リリアは振り返って背中を向けてしまった。たまに理解できない行動を取る女だ。

 お昼の時間はすぐに過ぎ去り、午後授業も競馬予想をして放課後となった。


「じゃあ一緒に帰ろうか、賭崎くん?」


 名前を呼ばれた瞬間ドキッとした。今更だが、呼ばれたのは初めてだからな。


「あんま期待するなよ? 俺の知っているお出かけスポットなんて限られているからな」

「わかったわかった。期待しないでおくわ」

「そこまで言われるとそれはそれでムカつくな」


 俺は今から人生で初めて、好きな女と下校する。はぁ、ギャンブルしている時より心臓がやかましいぜ。

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