002 サキュバス
男として、見せつけられた胸を視界に入れないという選択肢はなかった。
きめ細やかな肌と、少し体を動かすとほんのり揺れるちょうどいい理想的なサイズ。俺の中の理想の胸が、この金髪少女には詰まっていた。
「ねぇ、何でもしていいんだよ?」
俺の胸に抱きついてきた金髪少女が顔を上げたため、初めて顔を間近で見ることができた。
わかっていたことだが、半端ではなく可愛い女だと思う。雪のように白い肌、少々幼く見える顔立ちに反してセクシーな印象を与えるリップ。これはクラっときてしまうな。
だが……
「服を正せ。俺はこんなツラをしているが悪人じゃねえ。助けた女に見返りなんて求めねぇよ」
俺がリターンを求めるのはギャンブルで勝った時のみだ。
ただまぁ惜しいというのは本音だな。この子は正直言ってどストライクだ。こんな気持ち初めてだぜ。
俺の言葉で引き下がるかと思ったが、金髪少女は俺の腕を掴んで自分の胸へと引き寄せた。
「んなっ!?」
「これよりもっとすごいこと、していいんだよ?」
柔らけぇ……。
ずっとこうしていたいような、そんな気持ちにさせられてしまう。気がつけば甘い匂いもしている。この少女の体から発せられた匂いだろう。なんだかクラクラするぜ……。
「……誘ったってことは覚悟できてんだろうなぁ?」
「もちろん。君がしたいこと、君の欲求、全部私にぶつけて?」
「あぁわかった。んじゃ……俺と付き合え」
「うん、ホテルに……えっ?」
「ん?」
沈黙。
その言葉をそのまま表した状況になった。金髪少女はホテルと言ったか?
「体だけの関係になりたいんじゃ……ないの?」
「なりたくねぇけど」
「あ、そう……おかしいなぁ、都合のいい女を演じたのに」
「それよりどうなんだ? 返事」
「返事?」
「あぁ。俺は今告白したぞ」
付き合ってくれと告白した。要求をぶつけろって言われたからな、自分の思ったことを直球で投げさせてもらったぜ。
「うーん……それはダメだね」
「へぇ、なんでだ?」
振られたショックはあるが、まぁダメで元々だ。俺は至って冷静であれた。
「私ね……実は……」
金髪少女のブレザーが溶け、華奢な体を露出させた。といっても全裸ではなく、見えてはいけないところはギリギリ隠せてある。むしろ見えそうで見えないのが1番アカンのではあるが。
金髪少女は不敵に微笑み、再び俺に抱きついてきた。先ほどよりさらに甘い匂いが鼻を突く。なんだかクラクラして、どうでもよくなってくるようだ。
「サキュバスなの。男の精を食べて生きるサキュバス。でもその辺の男たちはまるでダメ。さっきのナンパ男たちも雑魚い精気しか持ってない。私、選り好みするんだよね。強い精気しか食べたくないの」
「サキュバス……?」
そういや悪友共がサキュバスが家に来ないかなーとかほざいて嫌がったな。アイツら、こんな痴女を求めていたのか。
とはいえ俺も人のことは言えないな。この金髪少女のフェロモン的なものでクラクラしてやがる。このままでは理性を保っていられるのもあと数分が限界だろう。
「サキュバスのことは知ってるみたいね。私はリリア・ルナフェリス。アンタの精気が食べたくて仕方がないの」
「さっきの話からするに、俺の精気は強いってことか」
「うん。手を繋いだ時にわかったの。こんなに強くて濃い精気は初めて。私興奮しちゃった。こうして裏路地に連れ出してえっちを求めちゃうくらいにはね」
「なるほどな。お前は俺の精気を食べたい。そして俺はお前と付き合いたい」
「お前なんて堅苦しー。リリアって呼んでよ」
「……確認だ。リリアは俺の精気を食いたいんだな?」
「うん。絶対に逃すつもりはないよ」
「それと同じように、俺もここで猥褻な行為をするつもりはない」
「わ、猥褻……ピチピチの女子高生に猥褻って……」
よほどショックだったのか、リリアの余裕のある表情が固まってしまった。
まぁ黙ってくれたのはありがたい。こちらからいつものあれを申し込めるわけだ。
「じゃあリリア、こうしないか?」
「何か考えがあるのね?」
「あぁ。ギャンブルだ!」
「…………ギャンブル?」
リリアは再び固まってしまった。まぁ俺がギャンブルを持ち出すと大抵の人間は固まる。悪友たちですらそうだ。
「俺が勝ったらお前と付き合う」
「なっ! そんなの……」
「ただし、お前が勝ったら俺の精気すべてをくれてやる」
俺の言葉を聞いた瞬間、リリアが膝から崩れ落ちた。
自分で肩を抱え、興奮のあまりプルプルと体が震えているようだった。
「なっ!? どうした……?」
「す、すべての精気!? アンタみたいな濃厚で膨大な精気を……すべてなんて……」
「いらなかったか?」
「ううん! 欲しい! 超欲しい!」
「ふっ、なら飲むか? このギャンブル」
「もちろん! 飲む飲む!」
「そうか。じゃあ行うギャンブルはこれだ。半年間、俺とプラトニックなお付き合いをする」
「……は?」
プラトニック? 何それ美味しいの? という顔になってしまった。
サキュバスには難しい言葉だったか。少し悪いことをした気分だ。
「それじゃあアンタの要求がすでに通っちゃうじゃない!」
「そうだな。付き合いたいという俺の要望が通ったギャンブルになってしまっている。ただ……俺はお前に一度でも手を出したら負けだ。サキュバスなんだ、誘惑は得意だろ?」
「な、なるほど……だからプラトニックってわけね」
要求が通っている代わりに、リリアの得意分野での戦いだ。
プラトニックなお付き合いを半年貫けたら俺の勝ち。少しでもエロいことに手を出したら俺の負けだ。
「どうする? 乗るか? やめるか?」
「……乗った! アンタなんかすぐにエロエロ行為に手を出させてやるわ!」
「ふん、ギャンブル成立だな」
俺はカバンを持って路地裏を立ち去った。
さぁ……長期戦ギャンブルの始まりだ。狙った女を獲得するためのギャンブルなんて初めてだが、俺に負けはありえない。絶対に耐えて勝ってみせる!
今日はもう1話更新します!