011 リリア、限界
まぁ何はともあれリリアと同じ班になれたんだ、俺にとってはいい結末を迎えられたな。
とはいえ修学旅行で情けないエスコートをしたら幻滅される可能性もある。少しは沖縄のこと勉強しておく必要がありそうだな。
午前の授業は俺にしては珍しくずっとスマホを触っていた。もちろん沖縄のスポットを探すためのネットサーフィンだ。
なるほど……さすが日本が誇る観光地だな、楽しそうなところで溢れていやがる。しかし金がかかりそうだな。ショッピングメインのところもあるし。困ったもんだ。
海で遊ぶだけでも楽しそうだが、それだけだとリリアも退屈かもしれない。ここは俺が努力して来月までに金を貯めるか。
「ちょっと来なさい」
急にリリアが俺の席まで来ていて声をかけてきたのでビックリしてしまった。
リリアは少し発汗していて、息も荒く辛そうだ。風邪か?
「おい、風邪なら」
「早く!」
「うおっ!?」
さすが悪魔というべきか、リリアは俺の巨体を軽々と引っ張り出した。制服が伸びて修復に出すのは金がかかる。それだけは避けたい俺はなんとかバランスを保ってリリアについていった。
リリアは保健室ではなく校舎裏へ移動した。なんでまたこんなところに……と思ったら出会った時ぶりの壁ドンを喰らってしまった。
「はぁ、はぁ……」
「おい、辛そうだぞ。早く保健室行ってこい」
リリアの息が顔に当たる。催淫効果があるのかは知らないが、俺の体温も上がりそうだ。
何度目だろうか、この距離でリリアの顔が映るのは。何度見ても飽きない、美しい顔だ。できることなら引き寄せて唇を重ねたいくらいにな。
「賭崎……賭崎ぃ……」
「おっ、俺を名前で呼んだのは2回目か」
それだけピンチということなのだろう。仕方ない、強引に俺が連れて行くか。
覚悟を決めたその時、リリアの口からとんでもない爆弾発言が飛び出した。
「賭崎……えっちしたいよぉ」
もし俺がメガネをかけていたらギャグ漫画のメガネキャラのようにレンズが割れていただろう。それくらいに衝撃的だった。
落ち着け、素数を数えるんだ。……素数って何だったっけか。まぁいいや、勉強なんてアホくせぇ。
「えっちというのは……つまりえっちなことか?」
混乱しすぎて政治家みたいな返答をしてしまった。
「もう無理。アンタに付き合って我慢していたけど精気が食べられなくて死にそう……」
「お前……ずっと食事を我慢していたのかよ」
「だって付き合ってるじゃない! 他の男から精気を吸ったら浮気になるでしょ!?」
「律儀だな……」
まさかそこまでこの付き合うという状態を尊重してくれるだなんて思ってもいなかったぜ。
これは俺がなんとかするしかねぇな。
「助けて賭崎……アンタがいないと私……」
「わかってる。責任は取る。どうすればいい?」
「キスから」
「待て。それだとプラトニックな関係が終わる」
俺の中でキスはアウトだ。プラトニックさが失われる。
どうすればいい? 俺がギャンブルで負けることなく、その上でリリアを救える方法。考えろ……勉強はできなくてもこういうことには頭が回るはずだ。
「……そうだ、手!」
「……手?」
「あぁ。リリア言ってただろ、俺の手を握った時に俺の精気の強さが分かったって。てことは手を握っても精気は吸えるんじゃないか?」
「確かに……やってみる」
リリアは俺の返答を待たずに手を握ってきた。
次の瞬間、ほんのり手が青白く光ってリリアへエネルギーが流れるような感覚を味わった。不快ではない、不思議な感覚だ。
「どうだ? 吸えているか?」
「うん。やっぱりアンタの精気すごい……」
「そうかよ」
俺らはベンチに移動した。4限の授業はサボることになりそうだがまぁいいか。元からサボっているようなもんだ。
それにしても梅雨の晴れ間に手を繋いでベンチに座るとは正真正銘のカップルだな。少し照れるぜ。
リリアの手は小さくて柔らかかった。少しでも力を入れたら壊れてしまいそうで、俺が守らないとという意識が湧いてくる。まぁ俺の巨体を引っ張り出したこいつは俺より強いんだろうけど。
「ありがとう、落ち着いたわ」
「そうか。それならよかった」
「はぁ、アンタには変なところ見せちゃったわね」
「これからはあぁなる前に言え。ってか……これから昼飯の時間、ここで手を繋がないか?」
「えっ……」
「だ、ダメだったか?」
「別にいいけど……誘える勇気があるのね」
「うるせぇ」
よし、さりげなくリリアと手を繋ぐ口実を作れたな。
リリアと手を繋いでいる間、俺は確かな幸福を感じていた。これをほぼ毎日味わえるのであれば俺のQOLは爆上がりする。
「なぁリリア、ふと気になったんだがその……俺と出会う前はどうやって精気を吸ってたんだ?」
「セクハラ」
「ち、違っ! いや、そうだよな。サキュバスなんだからそうやって吸ってたんだよな」
「……ふふっ、アンタの想像しているようなもんじゃないわよ? サキュバス用の裏ネット通販でペットボトル精気が売られているのよ」
「は? ならいつも通りそこから吸えば良かっただろ」
「……ペットボトルとはいえ、他の男の精気でしょ? そんなのアンタに申し訳ないわ」
「リリア、惚れなおした」
「ふふ、そりゃどうも」
「ち、ちなみにだが……したことはないんだよな? そのキスとか……さらに先のこととか」
「ふふっ、どうでしょうか?」
「なっ、おい! 教えろよ!」
「嫌よ。セクハラギャンブル狂いー!」
リリアは笑顔になって逃げ出した。
なんだよあいつ……まぁいいか、いずれ分かることだ。俺がこのギャンブルに勝ち、あいつを手に入れる。そうすりゃあ知りたいこと全部教えてもらうぜ。
俺はリリアと繋いだ手を空にかざした。




