001 ギャンブラー
「さぁ、選べよ。どっちだ?」
「う、うぅ……赤!」
俺たちが机を合わせ行っているのは至極単純なゲーム。
ランダムに引いたトランプが赤色か黒色かを当てるだけのものだ。
「よし。じゃあオープン……俺の勝ちだな」
「うわぁぁ! また弁当のウィンナーが」
「へへ、悪いね」
俺は悪びれもせずにクラスメイトの弁当から主役級のウィンナーを1つもらって口に運んだ。ジュワッと弾ける旨味が刺激的だぜ。
負けたクラスメイトが騒ぐもんだから他の奴らもぞろぞろと集まってきやがった。
「また賭崎が勝ったのか? 相変わらずギャンブル強えな」
「今日は何を賭けたんだ?」
「ウィンナーだ」
「どうせなら金を賭けろよなぁ」
「バカかお前。賭博罪も知らねぇのか?」
俺の趣味は見ての通りギャンブルだ。
ただ俺はまだ17歳だ。競馬もパチンコもできる年齢じゃねぇ。法を犯すつもりはないのさ。
「賭崎、お前はなんでギャンブルなんかするんだ?」
「あぁ? そりゃ20歳になった時に一発大きなものを当てるためだ」
「……どういうことだ?」
理解できないといった表情のクラスメイトたち。俺はそれ以上説明することなく日の丸弁当を胃に流し込んだ。
俺の家は貧乏だ。親父は低賃金職に就いて汗水垂らして働いている。それに感謝がないわけじゃねぇ。ただ、俺は親父みたいに低賃金で汗水垂らして働きたくないだけだ。
そう、俺がギャンブルをする理由……それは勝ち癖をつけるためだ。20歳になった時、俺は競馬でもなんでもいい、とにかくギャンブルで一攫千金。労働とおさらばするんだ。
20歳になるまではあと3年だ。勝って勝って勝ちまくって、勝ち癖が俺の体から逃げられないようにしてやるぜ。
「というわけだ。次はお前にギャンブルを挑む」
「どういうわけだよ!? しかも俺!?」
「あぁ。喉が渇いちまった。いいもん持ってんだろ」
ギャラリーとして集まった坊主頭の男を指さし、手に持っているいちごミルクに狙いを定めた。
「俺にメリットがないじゃないか」
「なら俺はこいつを賭けよう」
「す、スマホ!?」
価値が釣り合わないのは俺もわかっている。だがこんなところで負けるくらいなら俺はそこまでの人間ということ。この賭けは、自信の現れだ。
「格安スマホだがいちごミルクよりは価値あるだろ。どうだ? 乗るか?」
「も、もちろんだ」
「んじゃ勝負はそうだな……お前が選べ」
「な、ならじゃんけんで」
「ハッ! 凡人が思いつきそうなもんだ」
ただのじゃんけんじゃ面白くねぇな。そうだな……揺さぶってみるか。
「おい」
「な、なんだよ」
前の席に座ろうとした坊主頭の男に声をかけた。
ギャンブル特有の緊張感を味わっているのか、男は声が震えていた。
「俺は必ずグーを出す。ただの戯言だ。聞き流すも信じるもお前次第さ」
「なっ……」
じゃんけんにおいて自分の出す手を宣言することは死を意味する。
ただ人間という生き物は素敵に進化してくれやがったもので、簡単に人を信じられないという特性を持つ。つまりこの男の頭には複雑な思考が繰り広げられているわけだ。
「ほらいくぞ、じゃん、けん……」
「えっ!? あぁクソ!」
「ぽん」
男はグーを出した。もし俺の言うことが嘘で、パーを誘うための言葉だったとしたら自分は勝利でき、俺の言うことが真実だったとしてもあいこに持ち込める。まぁ、凡人の手だな。
だが……
「悪いね、俺の勝ちだ」
俺の手は指がすべて開かれている。つまりパーだ。
「な、なんでー!?」
「お前は俺をあんまり信用してねぇだろ? んで宣言からじゃんけんまでの時間を短くした。考える時間を短くしてお前はあいこ狙いにシフトする。まぁ簡単な読みだ」
「賭崎すげぇ!」
「んじゃいちごミルクもらうぜ。ごちそうさん」
今日の戦利品はいちごミルクとウィンナーか。まぁまぁだな。
午後の授業は競馬新聞を読み、予想に頭を巡らせた。もちろん金は賭けねぇけどな。競馬は推理とロマン。誰かの言葉だ。
ギャンブルを行う悪友はいれど俺に友達はいない。俺は放課後の予定なくそのまま帰路についた。
そこそこ都会の高校に通っているため、この時間の通学路にはどうしても若者たちが集まっている。
「チッ、集中して競馬予想もできやしねぇ」
諦めて音楽でも聴きながら帰ろうとすると、大きな声が聞こえてきた。
「いいじゃんよぉ、ちょっと喫茶店行くだけだって。な?」
「そうそう。何もやましいことはしないって。信じてよ」
「こ、困ります」
「へへ、やっぱ可愛いじゃん」
……あれか、しつこいナンパってやつか。
ここにクラスメイトの悪友どもでもいたらあの女の子を助けるヒーローが現れるかどうかを賭けるとこだったんだがな。
不健康そうな小太り3人に囲まれる少女からは困惑と迷惑の2つの感情が読み取れた。はぁ、賭けられそうもねぇし、ちょっと行ってくるか。
「おい」
「あ? んだよ」
ナンパしていた男たちの1人に話しかけた途端にキレ顔になった。その顔でよくこんな美少女にナンパしようと思ったものだ。
少女の方はブレザーを着て、金色の髪をツーサイドアップにしている。高校生にしては幼く見えるが、誰もが振り返るレベルの美少女であることに疑いはない。
「あんまりしつこいナンパは嫌われるぜ?」
「あぁん!? テメェに関係ねぇだろ……こ……ら……」
「ん?」
俺が近づくとナンパ男の1人が尻餅をついた。
まぁこれでも身長191センチ、天パでさらに盛られているからな、威圧感はまぁまぁある方だと自覚はしている。歯軋りのせいでギザギザになった歯も拍車をかけているだろう。
「て、テメェには関係ないだろ!」
「そうか。じゃあギャンブルをしよう」
「……は?」
ナンパ男たちは素っ頓狂な声を出してしまった。あまりに唐突だったからな。俺もおかしいことを言っているのは自覚している。
「お前らもギャンブル好きだろ? そういう見た目しているし、どうせパチンコ帰りで負けた腹いせに可愛い子においたしてやろうとか考えていたんじゃないか?」
「うっ……」
図星か。
「賭けの内容は簡単だ」
俺はゆっくりナンパされていた少女の元へ近づいた。
「お前らが俺たちに追いつけるか。俺は逃げ切る方に賭ける! 行くぞ!」
「え、えっ!?」
少女は澄んだ声で困惑を表していた。
俺は少女の手を取って、思いっきりダッシュして逃げてやる。
「テメェ!」
ナンパ男たちは追いかけてくるが、どうせ家で引きこもってカップラーメンでも啜ってる不健康児だろう。俺に追いつけるわけもない。
さて、賭けを始めてから10分。もう声すら聞こえてこないところを見るに、俺の勝ちのようだな。
少女の方を見ると俯いてしまっていた。手を握ったのはまずかったかな?
「悪かったな手を握っちまって。まぁ緊急事態だと思って許してくれや」
俺の言葉を聞いて少し顔を上げた少女の顔がやけに輝いて見えた。
……これがマブいってやつかねぇ。ナンパしたくなる気持ちもわからなくねぇや。
「こっち来て」
「は?」
「いいから!」
「おお!?」
金髪の少女は逆に俺の手を握って走り出した。
大通りから離れ、人気の少ない小道に入る。ネズミ1匹いやしねぇ。なんのつもりだ?
「なんだよこんなところに連れ出して。闇カジノならやらねぇぞ?」
「助けてくれたお礼したいなって思って」
「いらねぇよそんなもん」
「ううん。私がしたいの」
金髪少女は俺の胸に抱きついてきた。
密着し、服越しではあるものの肌が触れてしまう。
ブレザーで隠されていた彼女の豊満な体つきが胸いっぱいで感じ取ることができた。
「な、何してんだお前っ!」
「言ったでしょ? お礼だよ。私の身体でしたいこと、なんでもしていいよ?」
「はっ?」
そう言って金髪の少女はブレザーのリボンを緩め、胸元を少し露出させた。
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