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ご主人さまは18センチ ~異世界転生なら普通サイズに生まれたかったけど、せめて大きく生きてやる!~  作者: 尻鳥雅晶
第二巻 発進編 命の次に大切なモノ

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するほう、されるほう

 降りかかる火の粉は払わにゃならぬ。


 前世の古~い時代劇動画で聞いた台詞だ。俺って個人情報は覚えてないんだけど、享年きょうねんっていくつだったんだ? 満15才の俺にオッサン疑惑あり! で、まあ、その言葉通り、襲い掛かって来た盗賊団を無慈悲に完全撃破した俺たち。ついでに色々ゲットだぜ。


「マヌー、いいもん手に入れたぞ!」


 フレーメの胸元から身を乗り出して、そう声をかけながら俺たちが馬車に入ると、出迎えたのは、なぜだかあきれ顔(猫顔)のマヌーと……


「申し訳ありませんでしたっ!」


 客室の床で土下座するブだった。


 なにやってんの、お前?


「捨てないで」


 ゴンッ、とその緑髪の頭を床に打ち付ける。

 勢いで笹耳がビヨヨンと揺れる。

 そして俺を見上げた顔は、涙と鼻水でグシャグシャ、美少女が台無しだ。


「私を……捨てないで……ください」


「いや、そんなことしないけど」


「このコは何かカン違いしてるんニャ、たぶん。さっき目が覚めたから、何があったか話したら、急に取り乱して、このありさまニャ」


「あ~なるほどね~」


 要するに気を失ってたから、死体とかの後片づけを手伝えなかったことを申し訳なく思ってるワケね。


 しかし……


 正直言って、ウゼぇ。


 なんかね、大げさなんだよね。たかが後片づけ……確かに見てるだけでもしんどかったけど……ぐらいで。まあ、このコの性格として、しかたないかも知んないけど。


 だいたい、こいつどこで土下座なんて覚えたん……あー、俺がやって見せたなあ、ブの目の前で。そのときの俺って今のこいつみたいに必死だったから何も感じなかったけど、こうして土下座サレるほうになってみると……


 いたたまれないぜ!


 ああ、もう…… 果てしなくメンドくさいけど、フォローしとくか。こんなふうに頭下げられると、俺のメンタルがキツいもんな。あ、そうか、前世日本の自主的な土下座ってのも、基本的に相手にプレッシャーをかけることが目的か。


 イキりに強要される場合は違うけど!


 だけどさ……このコには、俺を何とかしようって邪心が全然ないって感じられるから、なおさらキツく思うんだよな~


「まあ、その、なんだ、とにかく立て。座れ」


 よろよろと立ち上がるブを、フレーメとマヌーは両脇から抱えるように客室の椅子に座らせる。面倒見のいい赤毛娘が、手ぬぐいでその顔を拭いてやった。


「あの! 私は、私は……私だけ、何もしないで……!」


 ブは青ざめた顔で、フレーメの胸元に収まる俺を見つめた。やっぱり手伝いしなかったことを気にしてるのか。こいつはFB(ファイヤー・ボール)ライフルを撃つのに十分役に立ったんだけどな~


 ここはひとつ、褒めてやるか。


「お前は良くやった」


「えっ、そうなんですか……」


 ブうつむいた。その表情は見えなかったが、刺青のある白い顔は今度は赤く染まっていた。褒められて嬉しいんだな。青くなったり赤くなったり忙しいヤツだ。


 ホント、可愛いよな~

 ウゼぇとこあるけどな。


「倒れたことは別に気にしてない。今回は色々と初めてのことだし……」


「初めて……」


「そうだ、俺にとっても初めてだ」


 童貞じゃなくなったし、と俺は思った。前世のハードなラノベとかじゃ、人を殺してないことを『童貞』とあざける描写があったりした。でも俺って、ホントの童貞卒業……性体験するほう……は、サイズ差のせいでまったく望み薄なんだけどな!


「お前を捨てたりなんかしないよ。俺にはお前が必要なんだ。たぶん何度でも、お前のちからを求めると思う。これからもよろしくな」


「何度、でも……はい……はい!」


 ブの、ぎゅっと握られた手の甲と白い太腿には、新たに湧きだした彼女の涙がぽろぽろと落ちていた……



<< normal size <<



 私は、死んでしまうかも知れない。


 ブはそう思った。


 あのとき、私は確かにご主人さまと繋がっていた。


 おのれのすべてを捧げる歓喜のままに、最初はただ勢いまかせてあふれ出す魔力を打ち付けた。やがて、自分のほとばしる想いは、ご主人さまの小さくともたくましい魔力に貫かれて、鎖でつながれたように強引に引きずり出され、むきだしにされた未知の世界へと怒涛のように導かれた……


 そして、たとえようのない悦びが爆発した。


 こんな醜い身体に生まれた以上、お慕いするヒトと重なり合う喜びは、ありえないと思っていた。あきらめていた。でも、まぎれもなく、()()はそうなのだ。そうに違いない!


 そして、頭の中は真っ白な幸福に塗りつぶされた。



 目が覚めて、マヌー様から事情を聴いた私は……


 捨てられる、と思った。


 何でもできて笑顔が可愛くて身体強化魔法まで使えるフレーメさん、その胸元に、私よりもずっとずっと豊かなその胸に、ひとたびご主人さまが収まったのなら、きっと私よりもフレーメさんを選んでしまうだろう。


 優れたものが選べるというのに、劣るものがなぜ必要なのか。賢きを誇るヒトは常にそう言っているではないか!


 誰からもさげすまれたこの私は、そんな非情なる世界の法則を知り尽くしていたのではなかったか。私の取り得は、この魔力と忠実さだけではなかったか。


 なのに、私ときたら……


 頭を下げずには、いられなかった。


「私を……捨てないで……ください」


 かつてのご主人さまの仕草を、あつかましくも真似してでも、ただ泣きわめいて、許しを乞うしかなかった……!


 盾となる使命も忘れ、たやすく意識を飛ばすほど、()()()の感覚に夢中になって……


「あの! 私は、私は……私だけ、何もしないで……!」


 私だけ、何もしないで、倒れるほど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ではないか。


 ああ、私は、ただ醜いだけならまだしも、何という罪深いゴブリンなのだろう…… 




 こんなふうに、ブは考えていた。絶望し、混乱した頭で、思っていた。そして、ほんの少しだけ、クラインの言葉を聞き間違えたのだった。




「お前は良かった」


 かあっとブの頬に血がのぼり、思わず顔がにやけそうになって、彼女は下を向いた。自分ひとりだけが気持ち良くなったのでは、なかったのかも。ブはそう思った。


「えっ、そうなんですか……」


 今度は喜びのあまり、ぼうっとしてきたブの頭に、続けてクラインの言葉が響いた。


「俺は初めてだ」


 さらに、ブの敏感な長耳は、クラインが「童貞じゃなくなった」と小声で呟く声まで聞こえていた。なぜか、そこだけ正確に。


 えっ、それじゃ……


 ()()()を感じたのは、私だけではないのですね、あつかましすぎるけれども、おそろい、だと、そう思っていいのですね。おとぎ話の少年と少女が、たがいに()()()の想いを実らせるように……



 希望を取り戻した少女に、クラインのとどめの言葉が投げかけられた……



「何度でも、お前を求める」



 私は、死んでしまうかも知れない。


 ぽろぽろと喜びの涙を流しながら、ブはそう思った。


 嬉しすぎて、死んでしまうかも知れない。


 

>> small size >>



 念のために、ニュタルでは馬を売らなかった。9頭立てのまま慌ただしく、さらに2日、5つの町を経て、今日の昼にはとりあえずの目的地であるセンケーゲにたどり着く。


 それが俺たちの、年始年末。


 ナッハグルヘンは正月ごとに年齢を『数え』る決まりだから、俺は16才に、マヌーは18才に(えっ、そうだったの?)、フレーメは17才に、ブは15才に(たぶん)になった。


 スルーされたらはじぃから、誰かが『おめでとう』とか言ってから俺もそう言おうと思ったけど、誰も言わなかったぜ! ……家族を失ったばっかりの俺に気をつかったのかも知れない。


 それにしても9頭立てって、並足なみあしでも早く感じるけど…… 


 厩舎代と飼葉代がスゲーの何のって!

 おカネ減ってきたからシンドイよ~


 港町センケーゲは、領都ハノーバに劣らない大きな街だと聞いている。不要な7頭の馬も、簡単に売りさばくことが出来るはずだ。そっから先の金策はどうするかなあ……


 ネズミ形態(ラット・モード)に変身した()()()は、馬車の屋根でもの思いにふけっていた。馬車での旅は、この過ごし方がいちばん気持ちいい。ちなみに俺は「車酔い癖」をすっかり克服したっ! 白ゴブ娘の胸元はクッションが効いてるし、そこにいないときは車内での研究に夢中になってたもんな。


 あれから、ブの機嫌はすこぶる良い。なんか顔ツヤツヤしてない ? まあ、もともと悲しそうな顔はしても不機嫌のときなんかないけどな。むしろ、()のほうが何だかギクシャクしたけど、昨晩やっと改善した。


 あいつのために、俺が怒ったからだ。


 特職ギルドのあるハノーバから離れるにしたがって、他人の視線が冷たくなった。特職、特にブを連れていることに反感を持たれているのだと思う。フレーメが言うには、ふたりが武装すれば戦女神バルキリだと思われるから問題ないそうだけど、大きな街でないと武器屋のたぐいは無いし、たとえハリボテ装備でもイチから作るのはガ〇プラ形態モード()にもハードル高いんだよな~


 こないだ作ったフレーメ用の槍も、ぽっきり折れたしな!


 ハノーバにいるうちに装備を買っときゃよかったけど、寝込んだ()に替わって旅支度をしてくれたアインガンさんとマヌーには、そこまで思いつかなかったみたいなんだ。


 それで、昨晩はついに、ブとフレーメの宿泊を宿屋に拒否された。妖精形態フェアリー・モードでお願いしてもダメだった。


「カネは払いますから!」


「いーや、妖精さんにはヒト社会のことは判らないかも知れないけど、そういう問題じゃない。特職やブの匂いが部屋についてるって客に言われたら、改装しなきゃなんないんだよ」


「こんなにいい匂いなのに!?」


「ご、ご、ごご主人さま、私は馬車で寝ますから」


「あたいも、そうするから」


「クライン、もう諦めるにゃ、そういうもんにゃ」


 てな、やり取りが宿の亭主とあって、()の気持ちが少しだけ素直になったんだ。俺にとってブは大事だ。他人からけなされたら腹が立つ。それほど大事なんだから……


 メンテナンスはちゃんとしなきゃ!


 と、再度思った出来事だった。


 ちなみに今朝がた、その宿では()()()酔っ払い客がボヤを出した。大騒ぎを横目にチェックアウトしたけど、ありゃあキッカリひと部屋焼けたな。もちろん、()()()は誓って放火なんかしてない。でも……


 妖精の呪いは恐ろしいよなあ~


 さて、センケーゲに着いたら、馬やらカネやら装備やら、やることが山積みだ。チェックリストでも作るかな……


 そう思ったとき。


 ()()()のすぐ横に、白い影が立っていることに気付いた。ええっ、ネズミ感覚に反応しなかったけど、これって、俺っちと同じくらいの大きさの……


 白ネズミ!?


ご愛読、ありがとうございます。

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