この雄姿に怯えるがいい
宿場町ヘルザを出て次の町、馬車でニュタルへと行く途中……
俺たちは盗賊に襲われた!
襲撃そのものは予想してきたけどさ、ヤツらの先ぶれを駆除したことで俺は少なくない精神的ダメージを負った。
俺って身も心も小さいなあ……言ってもしょうがないけど、できれば身も心もイケメンになりたかったなぁ……身長18センチじゃなくて、普通サイズのイケメンに。
それでも特職たち、赤毛娘フレーメの励まし(だと思う)と、白いゴブリン娘のブ姫の温もりで、何とか立ち直った俺だったが……
バシュ!
突然、御者台に矢が突き刺さった!
ぎょっとして全員が前方を見ると、70か80メートルぐらい向こうに……
弓や剣で武装して、にやにや笑いながら近づいてくる薄汚い一団が見えた。そして、その向こうのカーブから、カッポカッポと蹄の音を立てて、四頭だての大型馬車がやってくる……
盗賊どものお出ましだ!
「馬車に入れーっ! プランBだっ!」
プランBのBはバスターのB。
ファイヤー・ボールを撃ち出す新兵器、その名もFBライフルを食らわしてやる!
フレーメが慌てて開けたドアをくぐり、マヌーが猫ジャンプで客室に飛び込む。続いて俺を抱いたブ姫。最後にフレーメが転がるように入ってきて、ドアを閉める。その間にも数本の矢が、屋根に突き刺さる。ただならぬ悪意を感じ取った俺たちの馬が、いなないて暴れようとする。
「どうどう!どうどう!」
客室と御者台の間にある小窓を開け、馬に向かってフレーメが叫ぶ。可愛らしくも強い調子のその声に、馬たちは何とか落ち着いたようだったが……
もて遊ばれてる。
ヤツらが本当に俺たちを皆殺しにするつもりなら、まず馬を狙うだろう。そうじゃないワケは、たぶん、できるだけ楽に奪うためだ。高く売れる馬と、中古でも丈夫な馬車と、生意気だけど美少女のフレーメと、遊び道具のブ姫とマヌーと……そして何より今は亡き(俺のことだけど)イチワリの遺産を。
もうそんなに残ってないんだけどね!
「おぉい!」
盗賊どものリーダーらしき声が、曇天の冬空に響く。ヤツらはもう50メートルぐらいまで近づいてきていたが、そこで止まっていた。人数は十数人のようだ。敵の馬車はと言えば、林にこすれるように大きく旋回し、こちらに側面を向けて街道を塞いでいた。
「閉じこもってないで、さっさと出てこい! おとなしくカネを差し出せば、命は助けてやるぞ!」
「嘘ニャ」
マヌーが吐き捨てるように言った。
「あいつら、おいらたちの頭がシダ花畑だとでも思ってるのかニャ?」
「思ってるんだろうな、馬鹿だから」
ブ姫の手を借りて客室の床に降り立った俺は、そう答えた。
「利口だったら、盗賊なんてしない」
ナッハグルヘンは魔法小麦農場で働けば、どんなに貧しくても食っていける世界だ。盗賊するほど体力があれば楽勝だ。身長18センチならともかく。それでも悪いことを選ぶなら、馬鹿に決まってる……
それに付き合う俺も、相当馬鹿だけどね!
さあ、いくぞ!
「ガン〇ラ形態、再定義!」
変身!
たちまち、前世日本のアニメ、スーパーロボット激似のコスが身を包む!
「とお!」
ガン〇ラ形態のスーパー身体能力で(それでやっと記録的に人並みだけど)で、大ジャンプ! 僕は回転しながら、スポッ、ぽよよんとブ姫胸元の座席にふたたび収納される!
別にわざわざ胸元を出なくても変身できたけど、ここは気分だっ!
「あん」
変な声出すな、別に痛くないだろ!
「FBライフル、発射準備!」
完成したFBライフル、その見た目は、長さ30センチ直径5センチの黒い筒が本体だ。賞状入れかよ。川辺で見つけた竹モドキを炙って節を抜いた本体、その末端をふさいだ底板、その内側に張り付けた5百円玉サイズの魔法陣、陣からだらりと繋げた魔導糸の端を、短く切った楊枝トリガーに巻きつけた……
そんなシロモノだ。黒いけど!
ブ姫は僕の指示で、その白く細い指で黒く太い兵器を抱え、その先端をドンッと小窓から外に突き出す!
この雄姿に怯えるがいい、盗賊ども!
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「はん? 何だありゃ」
田舎町ニュタルの冒険者ギルド、その若頭は、獲物が見せた妙な挙動に首をかしげた。反撃もせずぶるぶる震えて閉じこもっていたと思ったら、小さな窓が開いて、こちらに向けて棒みたいな何かが少し突き出されている。
「……あれは、話に聞く望遠鏡、ってヤツじゃないですかね」
傍らに立ったイスキィがそう呟いた。この男の情報で、今回の凌ぎが決まったのだ。こいつの弟分であるオッパとかいう男は、追い立て役のひとりだったはずだか、その姿は見えなかった。まあ、獲物のこの怯えようなら役目を果たしたはずだから、どこかで一服でもしているのだろう。後で仕置きしよう。
それにしても、望遠鏡か。
それは、貴族様の船乗りが使う道具。眼鏡にも使う特殊なガラス板を筒に組み入れた高級品のはずだ。遠くの風景をのぞき見ることが出来るという。なるほど、金持ちの臆病者が遠くから敵の様子をうかがうのには丁度いい道具かも知れない。
しかし、二頭立てというそれなりに大型の馬車の小さな窓があいて、心なしかブルブル震えている棒が突き出た、あの様子はまるで……
「短小ヤロウが小便してるみたいだな!」
仲間のひとりが放った軽口に、冒険者たちはどっと笑った。若頭もまた腹を抱えて笑った。イスキィが息も絶え絶えに言った。
「ひー、ひー、ねえ、若頭、もうヤッちまいましょうよ。あんなヤツら、ひとひねりでしょ」
「おいおい、矢だってタダじゃないんだぞ。それにな、あいつらは、言う通りにしたら助かるかも、とか、おたがいに話し合うべきだ、とか思う間抜けかも知れないだろ。それなら手間が省けていいじゃないか」
悪人というものは、とかく楽をしたがるものだ。異世界チキュウにも、被害者のほうから罠にかかってくれる「さぎめーる」というモノがあるように。いや、楽をしたがるから悪人になってしまうのかも知れない。
若頭は、怯えきってるはずの獲物の馬車に向けて、また大声で叫んだ。
「おぉい、短小のネズミ大王どの! 俺たちだってヒマじゃない。そろそろ覚悟を決めろぉ! 殺されたいのか!」
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僕は叫んだ!
「耐いろいろ防御!」
暴発の可能性はゼロじゃない。僕のバイザーは僕の意志に従って濃い蒼に染まる。打ち合わせ通り仲間も動く。マヌーは猫耳を畳み(スゲー!)、肉球のある両手のひらで両眼を抑えて身体を丸くする。フレーメはちょびっと尖った耳を両手でふさぎ、目をつぶってしゃがみ込む……!
ブ姫は立て膝でライフルを構えてる以外、特に何もしない。毛布を被れって言ったんだけどな~ 「盾の役目が果たせません」とか言っちゃってさ。
まあいい。今は!
「FBライフル、発し……」
ん?
「あれっ?」
変だな……?
ブ姫の魔力が伝わってこない?
「おいブ姫、どうしたんだよ!」
外部からの魔力供給がなく、僕自身の魔力だけで撃ったら……魔力が欠乏、いや、下手するとマイナスになって、僕はバラバラ死体になっちゃうかも知れないだろ!
「魔力来ないよ、何やってんの!?」
「でも……」
うっ。
胸元から見上げると、ブ姫の目から涙がこぼれ落ちるのが見えた……
なんで泣いてんの、お前?
「もし撃ってしまったら……また殺してしまったら……ご主人さまはまた……苦しんでしまうのでしょう?」
そんなイラんこと心配してんの!?
こんな取り込み中に!?
魔力とか魔法は、想像力……感情や意志にそのパワーが左右される。こいつの持っている固有魔法は自動で発動するけど、こういう単純な魔力なら、モロに影響を受けても不思議じゃない。
とにかくこのゴブリン娘に、ちゃんと言い聞かせなきゃ!
「……大丈夫だっ! 僕は、もう二度とためらわない!」
「でも、でも……!」
「ブ姫、見ろ、あいつらを!」
小窓の隙間から見えてる盗賊どもを、僕は指さした。
「えっ……」
「いま、あいつらは僕たちを狙ってる。だから今すぐ戦わなきゃいけないんだ! そんなことぐらい、判るだろ!」
「あっ、ああっ……判り、ました」
「判ったら早く魔力寄こせ。FBライフルが撃てないよ!」
「……はいっ!」
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ご主人さまが敵を指さした……!
「えっ……」
ブ姫はすぐその意味が判った。
あれは、二日前。
彼女は、クラインにこう言った。
『指差すだけで相手を消す魔法を持っていたら、私はきっと差しまくっていた』
と……!
その言葉を、覚えていてくれた。
そして今、その気持ちを判ってくれた。
ブ姫はそう思った。
卑しい私の、痛みを、苦しみを……
怒りさえ奪われた者の、怒りを……
その気持ちを、判ってくれたのだ!
ご自分の痛みを、苦しみを飲み込んで!
「いま、あいつらは僕たちを狙ってる。だから今すぐ戦わなきゃいけないんだ! そんなことぐらい、判るだろ!」
「あっ、ああっ……判り、ました」
そうだ。私も、やっと判った。
そう、ご主人さまは、あえて『僕たち』と言ってくれたのだ!
それを判ってくれ、と言ったのだ!
これは、ご主人さまだけの戦いじゃない。
私の戦いでもあるんだ……!
「判ったら早く魔力寄こせ。FBライフルが撃てないよ!」
「……はいっ!」
今すぐ差し上げます、ご主人さま。
ご主人さまを、私を……
傷つけようとする者たちを……
あとかたもなく消すために!
そう。今すぐ捧げます。
輝きが信じる貴方に。
私のすべてを、全力をこめて!
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よし来た、魔力だ。
「FBライフル、発射ーっ!」
とてつもない魔力が、僕に伝わって……
伝わって、伝わって……
げえっ、何じゃこりゃーっ!
ご愛読、ありがとうございます。




