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モンスター・イン・ザ・バスケットケース

 ネズミ駆除作戦のさなか。


 突然、巨大なネズミ系モンスターに襲われた()()()は、二重壁に挟まっていた謎のバスケット・ケースに逃げ込んだ……


 そこは、ドール・ハウスかと思うほど、1/10スケールの日用品の模型にあふれていた。あたしは一瞬、ここが()()()()()の中かとカン違いした。


 そんなこと、ありえないのに。


 ぷっ。自分を論破、だぁ?

 お前は何を言ってるんだ、この状況で!


「あはっ、あはははっ!」


 おっと、いけない!


 また笑いの衝動がぶり返してきた。

 今度は声に出てしまった……


 うずくまってヒーヒーいいながら、じっと耐えて耳をすます。

 特に何も聞こえなかった……?


 なにしろ、今は潜伏中だ。()()()()()()()()()から逃げている最中だからな。このバスケットケースがネズミ感覚では見えなかったとしても(なぜそんな効果があるのか、は置いといて)、音もシャットアウトされる保証なんか、ない。


 とはいうものの……()()()()()()()()()、ねえ。


 もしこれがゲーム(笑)で、あたしが普通の大きさ(笑)だったら、あいつは笑っちゃうほどの低レベルで、野外ならどこにでもいるような、よわよわ敵なんだろうな。経験値とかも少なそうだ(笑)。現実のナッハグルヘンには経験値とかレベルとかのシステムは存在しないけどね。そんな敵から悲鳴をあげて逃げ惑うあたし、って……


 ()YOEEE!


 ああ、情けない。

 笑っちゃうほどはじぃよぉ。


 ん?


 うずくまったままの態勢だったあたしは、ガラクタの山の底に、何やら高級そうなモノを、ふたつ、見つけた。


 どちらも魔付ボタンのついた、小箱と小袋だ。


 フェアリー的に何だかビンビン魔力を感じるから、ランタンのようにマジックアイテムの一種なのかも知れない。人形あそび用なのにすごい。サイズの件を除けば、小袋はドロシィさんや座長が持っている魔包ポーチとそっくりだ。中には……うひゃ、金貨や銀貨がギッシリだ!


 これが本物だったらいいのに!


 小箱はオニギリぐらいの大きさで、ビロードのような手触りで、超高級品アクセサリーが入っているような風格をたたえているが、スイッチらしき魔付ボタンを押しても開かない。残念。妖精魔法なら開くかも知れないが、なんだか、ひどく薄気味の悪い感じがするのでスルーだ。ふたつのグッズをぽいっと投げ出すと、また別のモノに気付いた。


 ハッカイなただ!


 ハッカイ族がよく使うなただからハッカイ鉈。一座のサムさんも持ってた。スペード型の卓球のラケットみたいなカタチだけど、ふちが鋭くて柄が長く、でかくて重い。武器にも森ナイフにもスコップにもフライパンがわりにもなる。銘らしき印があるが、高級品には見えない。


 あたしは鉈をかまえて、ぶんぶん振ってみる。こういうサバイバル・グッズって憧れるぜ、男のコだからな!


 このドールハウスで暮らして、このグッズを使ってみたいなあ。おっと、ここはアウトドアじゃなかったね!


 そんなふうに。


 たぶん緊張の反動とか逃避だと思うけど。


 のんきに、すっかり油断していると……



 わっ、バスケットが揺れる!?


 壁の隙間に挟まっていたこのケースが、下りエレベーターのように、ずるずるとすべり落ちていく感じがする。いや、違う。これは……引きずり降ろされているんだ!


 まっ、まさか……!


 そして、落下の衝撃。ケースじゅうのオモチャが舞いあがった。あたしもバランスを崩し、鉈も投げ出して倒れ込んだ。


 そして目の前の、ラタンの「壁」が。


 バリバリバリ!


 外側から破られた! 続いて、巨大で毛むくじゃらな()が、廃ビルを壊すパワーショベルのように、破れ目から飛び出てきた。


 あのネズミ系モンスターの前足だ!


 イチかバチかで、あたしはフェアリーのワザその2を使った!


妖精魔法フェアリー・マジック、ビリッと驚け! 静電気ショック・スタテック!」


 バチッバチッ!


 呪文と共にあたしの指から放たれた火花が、大木のような腕に当たったが、ピクッと一瞬ふるえるだけだった。それでも前足はケースから引っ込んだ。


 ああ……もっと攻撃力のある魔法が欲しい。でも、フェアリーはそんなもの持ってない、と、されている。ただ、妖精はイタズラ好きと言われているから、イタズラのレベルならアリなんだけど……


 バキャッ!


 バスケット上部の半分近くが吹き飛んだ。

 巨大なネズミ顔と目が合った!


 こうなったら……

 フェアリーのワザその3だ!


妖精魔法フェアリー・マジック、ひとりで踊れ! 不運ハード・ラック!」


 呪文と共にあたしの指から放たれた金色のビームが、魔物の黒い鼻に当たったが、ヤツは目をパチクリさせるだけだった。効いてない効いてない。やっぱりイタズラ程度のパワーじゃダメか~


 モンスターはさらにラタンを引きちぎり、バスケットに頭を突っ込んできた!


 ひぃいいいっ!


「来るなあ!」


 あたしは叫ぶ。


 そして、ケースの中に入ってきた巨大な顔めがけて、突き出した。


 それはパニックになりかけたあたしの手の中に、なぜか自動的に飛び込んできたように感じた。


 あの、オモチャのハッカイ鉈だ!


 しかし……!


 巨大ネズミは、それをパクリとくわえると、ニヤリと笑って鉈を飲み込んだ。


 お前の攻撃など無駄無駄、と言いたげに。


 もう一度、牙が並ぶその巨大な口を開け、そして、スローモーションのようにその口が閉じる……




 グシャアッ! ビシャアァ!



 身体に響く、肉が潰れる音。

 そして、大量の液体がぶちまけられた音。


 痛みは感じなかった。


 ただ、衝撃と、身体を熱く濡らす感触だけがあった。



 真っ赤な血まみれになり、ビクビクと震えながら。




 あたしは……











 巨大ネズミだったものの、死骸を見つめた。


 壁裏の隙間、壊れかけたバスケット・ケースの、すぐ外で。


 血だまりに横たわる、まるで()()()()引き裂かれたように見える、死骸を。



「えっ、えっ、……何が起きたんだ?」


 モンスターの死骸のそばに、()()が転がっていた。

 全長50センチぐらい、重さはたぶん1キログラムぐらい。


 普通サイズのヒトが使う大きさの、ハッカイ鉈が。


ご愛読、ありがとうございます。

評価や反応をいただけると、尻鳥は嬉しくて踊ります。そして最愛の奥様に笑われます。

もうしたよ、というかたには心からの感謝を!

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