Ⅱ
手紙を持って、私は部屋に行く。封筒には私の名前だけが書いてある。住所や切手等はない。インターホンが鳴ったときに、ドアに挟んだのだろう。
満月と横顔の女性の紋章が施されている封蝋でとじられた、ネイビーの封筒だ。上品でいて、高貴さにあふれていて、とてもシンプルだった。中には便箋が入っている。雪のように真っ白ではなく、アイボリーのようなやわらかい色だ。便箋の上には封蝋と同じ紋章が描かれている。うつくしい女性の横顔だ。
「誰なのかしら、このひと」
私は手紙を読んでみた。水の綺麗な川がなだらかに流れるような文字と文章だった。
「長月晶様へ
突然こんなお手紙が届き、さぞ驚いていることでしょう。
申し訳ございません。ですが、これはこちらの問題ではあるのですが、急がなければならない事情があってのことなのです。
この手紙は、わたくしが信頼できる者に届けさせました。
不快に思われましたでしょう。そして、直接お会いすることもできず、申し訳ございません。
わたくしは、王国フルムーンの女王、アンと申します。
ご存知ないのも無理はありません。あなたのいる世界から見れば、異世界と言われるものです。どこかの世界の王国なのです。
そして、あなたに頼みたいことがあります。
フルムーンでは、不思議な力、いわゆる魔法が生活に関与しています。これは、選ばれた者だけが使えるのですが、別に珍しいものではありません。
しかし、この魔法を使って、悪いことを企む者も少なくありません。物を盗むだとかならまだ良いのですが、行き過ぎてしまうと、人を殺める為に使ってしまうのです。
その者たちを、反乱軍「フェリシテ」といいます。
フェリシテは、あなたの世界に行き、世界征服を企んでいます。もしかしたら、もう罪のない誰かが犠牲になっているかもしれません。
あなたに頼みたいのは、フェリシテを倒してほしいのです。
あなたに、魔法の力を授けます。きっと役に立ちます。
危険が伴いますが、その力があれば、命を落とすことはまずないと思います。
お願いいたします。
もし、この願いを聞き届けてくださるのであれば、手紙を燃やしてください。こちらで確認できます。
突然のことで申し訳ございません。ですが、頼めるのはあなたたちしかおりません。
どうか、お願いいたします。
フルムーン王国女王 アン」
これが手紙の内容だった。
「どういうこと?異世界?魔法?フルムーン?反乱軍?......誰かのイタズラかしら」
私は何度も手紙を読んだ。しかし何度読んでも頭に入ってこなかった。わからない。聞いたことのない国名、馴染みのない言葉。魔法......。
「それと、あなたたちってどういうこと?私以外にも、この手紙をもらった人がいるってことなの?」
この問いに答えるものは誰もいない。私は怪しんだが、ふつふつと私を駆り立てるあの好奇心が私をどんどん満たしていった。手紙には燃やしてと書いてある。イタズラだったとして、燃やしたかどうかなんてわからないはずだ。もし本当のことであったならば、それはその時考えればいい。
私は浴室に行き、バケツに水をはって、その上でライターで燃やした。