Ⅰ
バトル物の登場人物たちは皆、誰かのために戦っている。家族、友人。1つしかない大切な命をかけている。
____でも、自分の為に戦うのも大切なんじゃないかしら。バトル物の敵役はだいたい自分の為に戦っていたけれど、自分を守るために、自分の存在理由を確かめるために戦うのも大切なんじゃないかしら。決して悪いことなんかじゃないはず。
私は、私のために。私が自分でいられるために、戦う。
私の運命を変えたあの手紙が来たのは、私が学校から家に帰ってきたあと。5分経ったくらいのときだ。その日はいつも通りの、ありふれた1日だった。学校に行って、友人と話したり授業を受けたり、お弁当を食べたり。なんてことない日だ。1つ言うなら最近、凄惨な殺人事件があって、その話が1日に一度は話題に持ち上がるくらいだった。そのときは、毎日ニュースで流れる、どこか遠くの事件のようであった。自分の住んでいる町の事件ではあっても、なんだか遠く思えた。
私が家に帰ってくると誰もいなかった。母親は専業主婦でこの時間は買い物に出かけている。父親は、離婚している為いない。母親と、魔女の使い魔のような黒い猫(名前はララ。響きが可愛いからと母親がつけた)と一緒に住んでいる。
私は冷蔵庫を開け、よく冷えた100%のオレンジジュースをコップになみなみと注ぎ、一気に飲み干した。ララに挨拶をして、そのやわらかい体を撫でた。私は階段を上って部屋に行き、制服を脱いでハンガーに掛け、くたっとした白地のロングTシャツに水色のやわらかいショートパンツに着替えた。下に下りて、ララを撫でているとインターホンが鳴った。カメラモニター付きのものなので、誰が来たか見ることが出来るはずなのだが、どうしてか誰もいなかった。
「誰かしら」
私は不思議に思うのと同時に、周りに誰かいるか気になった。なのでドアを開けることにした。女の子が、怪しいインターホンが鳴ったとき、ドアを開けることは危ない。しかも1人。ララは不審者が来たとして、何にもできないだろう。
私はどうしても気になった。この好奇心は、なぜだかとめられない。危ないと感じていても、どうしても見てしまいたくなる。このタイプは、ホラー映画などで序盤に死んでしまうだろう。それか、最後まで無事に生き残るはずだ。トラブルメーカーみたいなものだ。
できるだけ足音を消し、ドアへ向かった。ゆっくりと、静かにドアを開けると、何かが足元に落ちた。私は思ってもいなかったので、驚いて肩付近の筋肉がこわばった。
落ちたものを見るために視線を足元に落とす。
___手紙だ。