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第8話 理不尽に怒られる事は慣れています

 騒がしい冒険者ギルドからエリザを連れ出す。

 あそこに居ては喋れる話も喋れない、ギルド職員から貰った地図を見ながらエリザの手を引っ張り歩く。



「へげっ! こんな細い路地に連れ込んでなななななな何をするんですかっ」



 足を止めて周りを見ると、確かに路地だ。

 背後では人が多く歩いているが、この路地に注目する人間はいない、これであれば好都合だ。



「エリザ」

「へげっい!」



 驚いているのか、返事なのか曖昧で困る。せめて俺にわかる言葉を話して欲しい。

 立ち止まり、俺の顔を下から覗きんだ後に目を閉じ始めた。

 眠いのか? 思えば昨夜から忙しかった。


 病み上がりのエリザを馬車に乗せ国境まで運ぶ、途中で襲われたりギルドの試験もしたりと大忙しだったな。

 さすがのエリザも眠いのだろう、それなのに眠いと言わず付いてきているんだ、少しは労ったほうが良いのかも知れない。



「今夜は徹夜になるかもしれません」



 目を見開いたエリザは俺をまっすぐに見る。



「ね、寝かせないって事ですかっ!?」



 仕事によっては寝る時間もないだろう。



「そうですね、場合によっては覚悟してください」

「そ、そうなんですね。は、初めてなので緊張します」

「流石のエリザも初めてのクエスト(・・・・)では緊張するようですね。人並みの感覚があって嬉しい限りです」

「………………クエスト?」

「はい、クエストです。では説明します、ここであれば裏クエストの話も出来ましょう。はい、今回の仕事はギルドにも登録できない裏の仕事です。銀貨一枚という出費はありましたが、それ相応の報酬が期待できます」



 エリザは俺から視線を外して口を小さく動かしていた。何かを呟いているが俺の耳には届かない。



「エリザ、聞いていますか?」

「聞いています! 聞いています! そ、そうですよ。なんで裏仕事なんですか」

「ギルドは依頼主から手数料を取りますので、急ぎの仕事ほど高く取るのです。依頼主もそこまで払いたくない人間もおりまして、そういう仕事は塩漬けクエストとしてギルドに長く放置されています」



 緊急性のない素材集めなどがそうだ。

 獣人の皮、エルフの耳、迷いだけの粉など、一部のコレクターが欲しがっているのがよく張ってある。



「はぁ」

「それとは別に依頼したいけど依頼料が工面できない。依頼料は工面できるがギルドに通せない仕事などが在ったりするものです。その辺をギルド員が独自に紹介する事もあるのです」



 本来は禁止されているが、冒険者ギルド員の小遣い稼ぎみたいなものだ。

 この手の話は何所のギルドでも黙認されている。



「その代わり、保証などもないので交渉は自分達でしないといけませんけどね」

「へえ、勉強になるなあ、さすがオズさんです」



 説明も終わったので、もらった地図を片手に街中を歩いた。

 最終的には宿の前へとつく。



「宿屋ですね」

「ええ、依頼主の泊まっている場所。と、いう事でしょう。いいですが、交渉の見本を見せます。下手に出ては駄目です」

「お願いします!」



 返事だけは……まぁいい、宿へと入り暇そうな主人に、冒険者カードを見せて依頼主を呼んでもらう、依頼主の名前はサナという女の名前だ。


 護衛の依頼で名前が女性。ギルドへの依頼料が払えなかったパターンだろう。

 そうであれば危険も少なく最初のクエストとしては適正と思われる。


 依頼主を呼びに行った宿の主人が階段を降りて来た。今に来るよ、と奥へと引っ込む。

 直ぐに二階から転げ落ちるように、いや転げ落ちた。

 杖をもった長いブラウン色の髪をもった少女が起き上がり俺達を見てくる。



「やっほ! ええっと冒険者の方ですかっ!?」



 冒険者以外に何に見える? と思ったが、俺とエリザの恰好からして冒険者には見えないのだろう。精進しなければならない。



「はい、F級冒険者のオズヴェルトです、こちらもF級冒険者のエリザ」

「うわ、可愛い……」

「エリザ」

「へげっ! ごめんなさいっF級冒険者のエリザ」



 そこで止めたら会話も止まるだろう。

 相手も困っている。



「移動するのに人が欲しいという事で、ギルドを通さない依頼と聞いて個人的に来ました」

「は、はい! やってくれるんですかっ!」

「まずは、誰を……恐らくはあなたでしょうか、後は報酬によってになります」

「ええっと、詳しい話は部屋で! 叔父さん、いいよね?」



 サナは、宿屋の主人が消えたほうへ大きな声を出すと、壁向こうから宿屋の主人の元気いい返事が返って来た。

 なるほど、身内なのか、サナという少女の後ろについていく感じで宿の二階へと上がり一室へ通される。



「これは……」



 シングルベッドが一つあり、カバンがベッドの上に置いてある、その周りは抜き散らかした衣服や染みのついた紙、備え付けの机の上にはインクビンが置いてあるが、そのインクもぶちまけてある。



「泥棒にでも在ったのですか?」

「へ……全然、どうしてですぅ? あっ適当な所に座って下さい」



 真顔でいうサナに思わず絶句する。

 何所に座ればいいんだよ。

 エリザを見ると、恐らくは汚れた洗濯物が山になった所の一部をほじくり返して空き場所を作っていく。



「オズさん、ここ空きました」

「あ、そこきれいな場所なんでそこどうぞ」



 エリザの足元が比較的、あくまで比較的にきれいな場所にかわった。

 しかし、そこに座ると左右の洗濯物の匂いが物凄く匂いそうである。


 

「近くに立っていますので、お話をどうぞ」

「そうですか? ええとサナをリヴァイまで護衛してほしいのです! あっ自己紹介がまだでした。サナはフロン教会の神官!」

「ほう……」



 フロン教会とは創造の女神フロンを祭る教会だ、女神ナロンとの姉妹女神で姉のほうだったはず。

 

 その中でも神官といえば位が高く各地で布教活動や布教活動のためなら冒険者や他の職業を副業として着く事を許されている。


 しかし神官にしては幼いというか、修道女と言っても変わらないぐらいの年齢だ。

 見た目は十歳を少し過ぎたあたりだろうか、俺が関心すると、サナが続きを話し出す。



「…………の見習いです」

「なんとなく、そんな気はしてました」

「てへ」



 てへ。じゃないだろう。てへじゃ。



「答え方が可愛いー」

「エリザ、相手は依頼主です。依頼主には丁寧に対応したほうがいいですよ」

「ご、ごめんなさい」

「あっ。だ、大丈夫です! サナはこれでも大人なのでかんだいです! お酒だって飲めるんですよ!」



 嘘をつくな。と、思わず口にだしそうになってしまった。

 本来お酒に年齢制限はない。ないが大抵は十八歳ぐらいが多い、貴族であるエリザは十六歳から親の許可がでているし、教会のシスターは確か二十歳ぐらいに許可が降りると聞いた事がある。



「そうですか」



 一番年上ですね。エリザより上ですかね。など、嫌味を込めて聞いてみようかと思ったが、どっちも不採用だ。

 聞いてみたいが、ここは黙っておく、どちらを聞いても地雷しかないし、今回の依頼には年齢は関係ない。

 関係ない事を聞かないのも仕事の一つだ。



「本当? 私二十六歳なんだけど……」

「は?」

「げっ」



 エリザが突然に十歳以上もサバを読むので思わず声が出た。



「…………と、いうのは冗談で、ぴちぴちの十七歳!」

「じゃぁサナのほうがお姉さんですね! 先日二十一歳になりました。どうです!」



 サナは神官証明カードを俺達に見せてくる、そこには年齢の部分がちゃんと二十一になっていた。偽造カードか確認してみたい。

 サバよみエリザに、サバ読んでいて欲しいサナが何故か意気投合し始めたので咳払いをする。



「ゴホン。依頼内容をお願いします」

「はい、サナを護衛してほしいのです!」



 おい、それはさっき聞いた。

 だから報酬と場所を言え!



「そのつもりでここに来ました、わたくし達が今聞きたいのは行先です」

「あっええっとどこだっけ、エリちゃん知ってる?」

「知らないー」

「じゃぁオズベちゃんはー?」



 すでにちゃん付けで呼んでくるサナを立ったまま見下ろす。

 オズで止めるかオズヴェルト、もしくはヴェルトでもいい、なぜオズベなんだと、問いただしたい。



「ひい、オズベちゃん怒ってるっ」

「依頼内容のほうがお決まりでなければ、帰らせていただきます」



 ダメだ、帰ろう。

 これなら俺の予備の金だして宿屋に泊まった方がまだいい。

 エリザに冒険者の苦労をさせて、冒険者なんて諦めさせる作戦は明日にしよう。



「かえっちゃやだああああああああああああああああ」



 俺の言葉にサナが突然大声をだす。



「オズさん! 女の子は泣かせない!」

「…………どうして、わたくしが怒られているのでしょうか?」


お読みくださりありがとうございます!

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[気になる点] どういう生活していたらへげっ!が口癖になるほどの業を背負わされるのか謎 某金持ちで亀持ちクソガキのへけけっしゅのように本気でわけわからん口癖で何が元ネタなんでしょううかね
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