第7話 目的はスローライフ! とチーズケーキ
冒険者ギルドの近くにある安酒場、無理を言ってチーズケーキを頼み、その他に酒や揚げ物など適当に頼んだ。
直ぐにテーブルの上は食事の山になり、その食事を犬のように待っているエリザがいる。
「食べないんですか?」
「た、食べていいんすか!」
当然そのつもりだ。
食べ物を目の前に食べさせないなど、どこの拷問だ。
「ではいただきます」
ほう、食事の前に挨拶とは成長したものだ。
「食べながら聞いてください。問題は山積みですが、合格おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます? 問題ってなんだろ……あっ路銀」
「それもありますが、先方の屋敷を管理してる所に断わりの手紙。スタッツ家にも手紙がいりますね。泊まる場所も確保しないといけません」
「ネットカフェみたいな所で十分ですよ」
「ねっと……カフェ? 編み物の店では泊まれませんが」
エリザには常識を持ってほしい。
いや先日までお嬢様だったし、記憶が混乱してるのなら仕方がないのか。
「あっ何でもないです、はい」
「一応希望を聞いておきましょう、どんな冒険者に」
「はいっ! ええっとですね。スローライフ!」
言い切ると俺の顔に飽きたのか、口の中に食べ物を詰め込み始めた。
一度ぶんなぐっておこうか? スローライフ、意味はゆっくりとした生活とでもいっただろうか。冒険者になっておきながらスローライフも何もない。
「でしたら冒険者にならない方が」
「いえ、誰にも縛られたくないのです!」
「そりゃそうだ」
驚いた顔でエリザは俺を見てくる。
「失礼。でしたらクエストを受けてみるのもいいですね、少し金銭の重みを感じるのがいいと思われます」
「ですよね! ドラゴン退治とかいいと思っているんですけど、近くにいますかね?」
ドラゴン。
大きさは大小様々であるが、体が大きく知能の低いドラゴンは一匹で街を落としたりもする。なんせ人間は昔から空飛ぶ魔物は苦手であるからだ。
今では魔法使いや、逆に小型のドラゴンを飼いならし空中戦を行う手もある
「へげっ!」
「どうなされましたか?」
「オズさん。飲み物が手からこぼれてます」
俺は手を見ると頼んだ酒がこぼれていた。
「失礼、エリザが変な事を言いだすので、それは個人で頑張ってください」
「へげっ! 一緒に倒してくれないんですか!?」
「…………」
無理だろ。
空を飛べたとしても倒せるイメージが全く思いつかない。
「パートナーってこういう時一緒とおもうんですけど……」
卑怯な言葉だ。とはいえ、パートナーと言われて承諾したのもある。
だからと言って、何年かかるかわからない夢物語だ、まず暴れまわっているドラゴンを探さないといけないし、暴れまわっているドラゴンであれば、すでに国が討伐している。
「わたくしでは、最後までお力になれないと思いまして」
「へげっ! でも日記と記憶では、オズさんは命令すれば最後には折れる男ね。って、これ言っちゃダメな奴だった」
凄い評価である。
俺が命令を遂行していたのは、恩返しもあったからだし、衣食住の存在もある。
「味方ですか。覚えているかはわかりませんが。エリザ、いえエリザベートお嬢様がわたくしを専属の部下に承諾したのは、わたくしにもメリットがあったからです」
「何となくは覚えているんですけど……日記にも書いてない事も覚えてますし、でもその夢だったような感じが強くてですね。あと人として恥ずかしいというか」
下を向くエリザを見ながら、こぼした代わりに頼んでおいた麦酒を飲む。
「別に怒っているわけではありません」
「そ、そうですよね! ありがとうございます!」
だめだ、会話が通じてない。
まぁ暫くは一緒にいてやるか。
「まずは、出来る仕事をしなければなりません」
「はい! なんでもします!」
「何でもは無理でしょう。時刻は既に夕暮れ、薬草取りなどの依頼は終わっています」
「ふむふむ。わかりました! やはりドラゴン退治ですね!」
大きな声でいうので、周りの客が俺達を見る。
そしてすぐに、お前らには無理だろうと、興味をなくしたように元の場所へと視線を戻していった。
「まずはドラゴン退治から頭を離れてください」
「そ、そんなぁ」
悲しい顔をしているが、無視をしよう。
新米冒険者二人が、周りに驚かれずに出来るクエストといえば限りがある。
一番適した物は――――。
「ここは輸送や護送依頼ですかね」
配達系は、荷物や人を街から街に運ぶ人間を護衛する任務だ。
基本片道であるが、行先が同じならついていくだけで金になる。
低級冒険者の中でも結構人気の依頼だったはずだ。
「食べ終わったらギルドに戻りましょう」
「はーい」
返事はいいんだけどな……。
大口を開けては食事をするエリザを見つめ、終わった所で会計をすます。
来た道を戻り冒険者ギルドに戻ると、夕方もありそこそこ込んでいた。
ギルド内にはランク別に張り紙が張っており、それをみて依頼を探すような手はずになっている。
「エリザ、こっちです」
「依頼ボードから依頼を探すんじゃないんですか?」
「ええ、通常はそうですね」
わかってないエリザを誘導する。
手を握った方がいいのだろうか……はぐれるよりはいいだろう。
「エリザ、手を拝借しますよ」
「へっ!」
小さい手を握り、比較的暇そうな、それでいて年期の入ったギルド員の場所へと向かう。
案内カウンターと書いており、カウンター越しに俺達をみると、興味無さそうに眉をひそめてくる。
「依頼はあっち、依頼完了は向こうのカウンター。買い取りは二つとなりだ。さっさといね」
「護衛輸送の仕事を探しているのですが、急ぎでして出来れば夜にでも」
「おめえら、話聞いてなかったのか? 依頼はボードの紙を持ってきてあっち――」
「裏の方です」
俺は一枚の銀貨をそっと滑らせる。
やる気のないギルド員は銀貨を懐にしまうと、小さい紙を手渡してくれた。
「さて、用事もすみましたし行きましょう」
「もしかして、えっちな仕事ですかっ! そういうのはちょっと……」
エリザが大声で言うので視線が集まる。
やる気のない職員は関係ないといわんばかりに本を読み始めて逃げた。
「エリザ……女性がそういう事を言うものではありません。そして違います、注目されたくないのでギルドを出ますよ」
「はーい」
俺とエルザは、なぜか口笛や、がんばれよ。など良くわからないアドバイスを冒険者から貰って外に出た。
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